表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンドラ-collapse-  作者: 兼明叶多
WITCH HUNT
73/86

LITTLE APOCALYPSE#3 /1

「なんなんだ、こいつ……」

 吐き出されたヤオの声には、珍しく驚嘆と動揺が滲んでいた。

 ――ヤルテ島イヅモシティ郊外、シモンチームアジト。

 現在遂行中の任務はなく、作戦司令室にはシモンとヤオの姿しかない。大型モニタは一面の漆黒を映し出しており、ヤオは珍しくシモンの傍でPCモニタを(にら)み付けていた。

 だが、他のメンバーもじきに集結するだろう。

 国を揺るがしかねない重大事件が発生した場合、任務遂行中のメンバーを除く全員がアジトに集まる――それがシモンチームのルールだ。

国際的な問題が絡む事態では難度の高い依頼が舞い込んでくる可能性が高まる。そのような特殊任務は往々にして精鋭揃いのシモンチームへと割り当てられる傾向にあり、情報共有ならびに即時対応姿勢の確立のため緊急招集のルールが設けられている。

 静寂に支配されたアジトでシモンとヤオが見ているのは、今から二十分前の防犯カメラの映像だ。

 場所はロトス島ノヴォヴィチキ地区。

 たった一人の人間が十人程の魔法使いを惨殺した、その決定的瞬間である。

「現在、B&Bの情報部がこの人物について調査していますが、詳しいことは分かっていません」

 シモンは冷静にタッチパネルを操作し、映像を少し巻き戻す。

 モニタには人であったものの無残な残骸と、その中心に立つ黒コートを纏った大柄な人物が映し出された。おそらくは偶然なのだろうが、黒コートの人物は獣じみた眼光でカメラの方を(にら)んでいるように見えた。

「…………」

 ヤオは切れ長の目を見開き、警戒する肉食獣のようにモニタを凝視している。

 監視カメラが捉えた映像はまさに〝惨殺〟――その一言に尽きた。

 黒コートの男――おそらく男だろう――は武器も何も持たないまま魔法使い達を次々に殺害していった。岩のような拳が人体を破壊していく様は、殺人現場の映像というよりも粗悪なスラッシャー映画のワンシーンめいていて、どこか現実離れしてさえ見えた。

 だが、ヤオが最も動揺したのは男の化け物じみた膂力(りょりょく)ではない。

 映像を見る限り、魔法使い達は魔法を行使しようとしていた。いや、もしかすると行使していたのかもしれない。にもかかわらず、黒コートの男が怯んだり攻撃を食らったりする様子は一切見られなかった。

 見たままを受け入れるのであれば、黒コートの男には魔法が通用しないということになる。

 そしてその事実は、かつてシャロンの仲間――リタに魔法を使われた時の記憶を呼び覚ました。

 あの時、ローラとシモンは吹き飛ばされたというのに、ヤオだけは何の影響も受けずにその場に立っていた。魔法がヤオという存在だけを無視して通り過ぎていったかのように。

 気味が悪かった。

 ずっと、リタという少女の魔法が不完全だっただけだと自分に言い聞かせた。

 だが、もし黒コートの男も魔法が効かないのだとすれば。

 あの男は――自分と同じということになる。

「おそらくですが……」

 シモンは少し言い淀んでから続きを口にした。

「彼が、ストラースチの持ち込んだという〝兵器〟ではないかと」

 ヤオは返答をしようと口を開きかけたが、言葉を無理矢理呑み込むかのように唇を噛んだ。

 沈黙が二人の間に重く横たわる中、シモンが無言でタッチパネルを操作する。

 すぐさま黒コートの男の頭部が緑の枠線でピックアップされ、徐々にズームアップされていく。粗い画像はAI処理によって鮮明さを増し、やがてその顔ははっきりと浮かび上がった。

 どこか獣を思わせる目つきだ。

 アルビノなのか、あるいは別の要因によるものか、瞳の色は血のように赤い。髪の毛も色が抜け落ちてしまっているが、肌の色が浅黒いため典型的なアルビノとは異なる印象を受ける。

 口元を鉄製のマスクで隠し、首から下の全てを黒で覆ったその姿は、スプラッター映画に出てくる殺人鬼のようにも、あるいはSF映画に出てくるサイボーグのようにも見えた。

 いや、もしかすると、後者に関しては〝見える〟だけではないのかもしれない。

 男の身のこなしやその怪力は人間の領域をはるかに逸脱している。どれだけ鍛え上げたとしても、人は人体をティッシュペーパーのように引き裂いたりはできないのだから。

「……サーフィットがいなければ兵器は動かせないんじゃなかったのか」

 ヤオは動揺を押し殺した低い声でシモンに問う。

 シモンもまた、当初の推測から大きく外れた状況に直面し、幾ばくかの焦りを覚えている様子だった。

「そう推測していました。事実、《アルケーの火》がサーフィットを拉致監禁している間、ストラースチが兵器を動かすことはなかった。このタイミングで兵器が動いたのは、まるで……」

「なんだ」

「サーフィットが死亡したことで、兵器が起動したかのような――」

 全てを言い終える前に、シモンは自身の口元を手で覆った。そのまま、思わず漏れ出た言葉を消し去るかのように、口元を拭う仕草を見せる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ