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パンドラ-collapse-  作者: 兼明叶多
WITCH HUNT
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INCENDIARY FIRE#2 /2

「まあ、それはそれ、これはこれ。とりあえず今は事件のことを考えよう。ここは欧州じゃないし、僕たちは魔女狩り部隊でもないからね」

 フレッドの表情が少年じみたそれに戻る。

 エディも自嘲気味に苦笑し、思考を侵食していた靄を打ち払った。

「そうだな。――で、監視カメラに映ってたこいつはどこに消えたんだ?」

「ユーリエフ地区の方に向かったみたいだけど、その後の足取りは不明。瞬間移動したのかも」

「そうだよ、瞬間移動。なんで容疑者はわざわざ現場から走って逃げんだ。ワープすればよかっただろ」

「魔法を使えない状況だったのか、気が動転してたのか……それは分からないね。もしかしたら魔法を使うのにも条件があるのかもしれない」

「条件、か……」

 エディはますます難しい顔でモニタを睨む。

「さっき、アルケーの仕業とは限らないって言ったけど……この格好は明らかにアルケーだよな」

「客観的事実だけを述べるなら、カリンスク港でテロを起こした人達と限りなく似ているね」

「事件が起きたのはテロの直後」

「その通り」

 カリンスク港から事件現場までは車で十五分ほど。容疑者が港でのテロに参加していたのだとすれば、瞬間移動でもしない限り、事件発生時刻までに現場へ移動するのはまず不可能だ。

「容疑者が仮にアルケーの魔法使いだとすると、テロに参加後、一人でノヴォヴィチキ地区にワープし、魔法を使って一般人の男女を殺害。その後走ってユーリエフ地区まで逃走した……そういうことになるな」

「そうだね」

「男女を殺害したのは口封じのためか?」

「その可能性はあると思う。実際、レベッカ・ファラーは殺害される直前にNPCIへ通報をしてる。容疑者が港でのテロに関与しているのであれば、通報されるのはかなーり嫌なはずだよ。顔を見られてしまったのであれば、なおさら」

「…………」

 理屈では納得出来るが、感情面ではどうも納得がいかない。

 容疑者は本当に「顔を見られた」という理由だけで人を殺したのだろうか。それも、相手の体を操り首を絞めさせるという残忍な方法でもって。

 容疑者が殺人を犯した動機は、もっと別のところにあるのでは。

(……まあ、理由がなんであれ殺しは殺しか)

 エディは頭を振り、妙な方向へ進んでいた思考を霧散させた。

 リタの一件があって以来、どうも魔法使いというものに対して同情的になってしまう。魔法使いがどれだけ差別され迫害されていようと、法に触れる行いをしたのであれば等しく罰せられるべきだ。

「現状分かっているのは容疑者がユーリエフ地区に向かったということだけだね。その後瞬間移動をした可能性もあるけど」

 フレッドがトラックボールを操作すると、3Dマップ上でユーリエフ地区全域が黄色でハイライトされた。

 ユーリエフ地区はノヴォヴィチキ地区と隣接しているロトス島西側のエリアだ。集合住宅が建ち並ぶベッドタウンであり、学校や教会といった施設も多い。ロトス島の中では治安がいい地域と言えるだろう。

「……まあ、他に情報もないし、無難にユーリエフ地区から調べて行くのがいいと思うよ。このあたりはストラースチの影響力も弱いから捜査しやすいだろうし」

 エディが露骨にむっとしたのを、フレッドは見逃さなかった。

 ロトス島におけるストラースチの影響力は甚大であり、ロトス島警ですら連中に逆らうことはできない。カリンスク港でテロが発生して以来、ロトス島北側のエリアは規制が厳しく、ストラースチの許可がなければ捜査が進められない状態にあった。

「エドワード君。こんなこと言ったら君は怒るかもしれないけど……今はストラースチとの接触は可能な限り避けた方がいい」

 エディは反論しようと口を開いたが、フレッドの真っ直ぐな視線に気圧され、何も言わずに唇を噛んだ。

「カリンスク港のテロが起きる前から、大分きな臭い話が聞こえてきてる。関わらないに越したことはないよ」

「きな臭い話?」

「うん。あくまで噂だけど、ロシアから兵器を密輸入する計画があるみたい」

「な……」

 エディとパットは緊張を顔に滲ませ、視線を交わした。

「兵器って、何のために」

「分からない。どんな物なのかも不明だよ。ただ、その件も含めロトス島が今ピリピリしてることは確かだ。余計なことに首を突っ込むと事態が悪化しかねない。それこそ、世界規模の事態にね」

 いつものらりくらりとしているフレッドが、珍しく真剣な表情を浮かべている。

 さすがに、その意味を理解出来ないほどエディは無鉄砲ではない。

「……わかった。今回は慎重に動くよ」

「うん。君はたびたび一人で突っ走るし、ある意味そこが良いところでもあるんだけど、君に何かあったら僕……だけじゃなくてチームのみんなが悲しむからね。もうちょっと自分を大事にして欲しいし、僕たちを頼って欲しいな」

「だってよ、エディ。肝に銘じておけよ?」

 パットは相方の首に腕を回し、乱暴にゆすった。

「わかったわかった。無茶はしないよ」

「よし。そんじゃ、給料分の仕事でもしに行きますかね」

 二人はフレッドのデスクから離れ、背中にNPCIと書かれた白いジャケットを羽織った。刑事職の制服着用はあくまで努力義務なのだが、身分提示の手間が省けるので着用をする者は少なくない。

「いってらっしゃい、エドワード君、パトリック君。何か分かったら連絡するよ」

 ひらひらと手を振るフレッドに軽く挨拶をして、エディとパットはオフィスを後にした。

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