STAKE#6
午後五時。アズラク41、地下四階中央A1エリア。
エディは銃を持つ手をだらりと垂れ下げ、横たわる少女の遺体を神妙な面持ちで眺めていた。
相棒のパットは少し離れたところで護衛らしき男達の死体を検分している。口を開けば声が届く距離だが、二人が言葉を交わすことはない。
エディとパットがアズラク41に踏み込んだとき、建物内に生きている人間は誰一人としていなかった。
死体は地下一階と地下四階に固まっており、そのほとんどは銃殺されていた。地下四階の一部死体は刃物でもって殺傷されたようだが、殺され方の差異をいちいち検分する気にはならなかった。
この現場は間違いなくB&B案件だ。
本来であれば、B&Bが関与していると分かった上で捜査を中断するのが望ましい。そもそもエディとパットはアズラク41における捜査許可を得ていないので、この場にいることが知られれば、最悪謹慎処分もあり得る。
それでも二人が地下四階まで降りていったのは、ひとえにリタ、そしてアンディの安否を確かめるためだ。
リタはいた。地下四階にある広い部屋の真ん中で横たわっていた。
厳密に言うと、リタかどうかは目視では判断がつかない。少女は顔面に銃弾を何発も撃ち込まれていて、顔を判別できない状態だった。
それでも遺体がリタのもので間違いないと確信しているのは、身に纏っているNPCIのジャケットがエディのものだからだ。襟の部分に刺繍されている〝SCU-C04〟という文字列は、ジャケットの主が凶悪犯罪捜査課第四班の所属であることを表している。第四班はエディ達ブラッドリーチームのことであり、チーム内でジャケットを紛失している捜査員はエディだけだった。
「ボスから連絡だ。現場を確認次第引き上げろ、だと」
パットがハンドヘルドデバイスを内ポケットにしまいながら歩いてくる。
エディは相棒の方へ視線を向けはしたが、その場から動こうとはしなかった。
「……なあ、エディ。気持ちは分かるがな、そんなに見るな。傷になっちまう」
「こんな仕事だ。傷がつくことを怖がってたらやっていけない。……ただ」
銃把を握る手にエディの力が籠もる。
「こんな殺され方をされるほど、魔女は悪い存在なのかって、そう思って」
「別に魔女だから非業の死を遂げたわけじゃないだろ。ただただ運がなかった。それだけさ」
パットの言うことは正しい。
凶悪犯罪捜査課の捜査官として、今まで数多の事件に触れ、死体を目にしてきた。そうして分かったのは、事件の被害者になることに理由などない、ということだ。
悪人だからといって報いを受けるとは限らないし、善人が必ずしも幸福で安全な一生を送るとも限らない。人が犯罪に巻き込まれることに条件と理由があるのであれば、それはもう神のみぞ知ることなのだろう。
それでも考えてしまう。
もしリタが魔女などでなければ、こんな悲劇は起こらなかったのではないか。普通の少女であれば、平凡で幸せな一生を送ったのではないか。
もしあの時、リタを逃していなかったら。
もっと早くに駆けつけけいたら。
リタを救うことができたのでは――。
「エディ」
ぐいっと肩を掴まれる。
相棒の真剣な面持ちを見て、エディは我に返った。
「……悪い。ちょっとぼーっとしてた」
握りしめていた銃をホルスターへとしまい、しゃがんでリタの遺体と向き合う。見開かれた目が最期に何を捉えたのかは、おおよそ見当が付いた。
フロアに転がっているのは中東系の男の死体と護衛らしき男たちの死体だけだ。たびたび目撃されていたもう一人の少女の姿はない。
部屋の扉へ続く二人分の足跡から察するに、もう一人の少女――アンディは何者かに連れて行かれたのだろう。B&Bが連れて行ったのか、自力で逃げ出したのかは分からない。無事でいるのかも。
ただ、妙な確信がある。
アンディはまだ生きている。このニューパシフィックのどこかで。
「約束するよ。アンディは俺が必ず見つけ出す。――だから、どうか安らかに眠ってくれ」
リタの目に手を置き、瞼を閉じさせる。現場保存の重要性はもちろん理解しているか、そのままにしておくのはあまりに忍びなかった。
「レイモンド・バーンズ殺害の件は被疑者死亡で処理する。本部に戻って大好きな書類仕事だ、パット」
「ああ、幸せすぎて参っちまうな。書類仕事だけ永遠にやってたいぜ」
明らかな皮肉だ。本部に戻ってから愚痴ばかり口にするのが目に見えている。
エディはゆっくりと立ち上がり、相棒へと顔を向けた。
「もういいのか」
「ああ。用事は済んだ」
「んじゃ、特殊捜査課が来る前に退散しちまうか」
パットは肩越しに手をひらひらとさせ、扉の方へと歩いて行った。エディも少し遅れてその後に続く。
生きている者のいない部屋に、扉の閉まる音が重く響き渡った。




