9話 連撃
「戦いをしようか」
剣を構えながらワーウルフとの間合いを測る。
おそらく、ワーウルフも距離を測りながら攻撃の機会をまっているのだろう。
この距離なら、こいつは一飛びで詰めてくる。
集中は切らないし、切れない。
「グッ、ラッァァァア!!」
痺れを切らしたワーウルフが、鋭い牙を剥き出しにしながら俺に噛みつこうとしてくる。
あの牙に挟まれたら、俺の体なんて真っ二つだろう。
……まあ、当たらんけどね。
「あらよっと」
「ッ!? ジッ、ガァァ!」
俺は刃を寝かせて、ワーウルフの攻撃を受け流す。
力の流れを乱されたワーウルフはみっともなくその場で転倒する。
剣技『流燕』……剣の刀身を利用して相手の力を受け流す合気技。
ワーウルフの攻撃の威力は大したものだけど、その全てが直線的すぎる。
だからこうやってカウンターや受け流しが簡単に決まる。
「ガッ、ラァァァァァ!!」
ワーウルフは、撹乱して隙を作ろうとしてるのか、今度は前後左右に高速で移動しだす。
これだけの大きさでこれだけ素早く動ける魔物はそういないだろう。
流石は狼型の魔物なだけはある。
それに、俺を倒すために色々試す姿勢はいいと思う……けど。
「俺を相手にスピード勝負するのは無謀だよ」
「ガルァ!?」
俺は高速移動しているワーウルフにぴったりと張り付き、同じ間合いを取り続ける。
さっきの『朧』で回り込んだ時点で俺の方がワーウルフよりも速いって格付けは済んだと思ったんだけどな。
「さあ、どうする? 技術も速度も俺の方が上。そんな相手にどうやって勝つ気だ?」
移動しながらワーウルフに問いかける。
さあ、次は何を仕掛けてくる?
「グッ、ジッ……ガァァァァァァァァ!!!!」
「そうだよな、それしかないよな」
最後の手段……パワー勝負。
ワーウルフは渾身の力で爪を振り下ろしてくる。
避けるのも、受け流すのも簡単だけど、力では勝てるって思われるのも癪だな。
仕方ない、コイツの土俵に乗ってやるか。
「剣技……『剛天』!!」
『剛天』は実際は剣技というほど洗練された技じゃない。
その実、全身のバネを活かして、ただ力任せに剣を振る技。
だから、これは俺とワーウルフのただ純粋な力比べ!
剣と爪がぶつかり合い、金属同士がぶつかり合うような音がダンジョン内に響き渡る。
「うっ、おおおおおおぉぉぉぉぉ!」
「ジャッ、ガァァァァァァァァァ!」
純粋な力は比べはほぼ互角か。
でも、負けて……たまるか!!
俺は渾身の力を咆哮と共に振り絞る。
「どっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「っ!? ルッジャァァ!」
力は途中までほとんど拮抗していたけど、ほんのわずかな差ながら俺が力勝ちし、ワーウルフの右前脚を爪を砕きながら弾き飛ばす。
これで、技術と速度、そして腕力でも俺がワーウルフよりも上回っていることが証明できた。
これほどの強敵を前に、全性能で勝ることができたってことは、俺の山籠りの二十年は無駄じゃなかったって訳だ。
「す……すごい」
後方でライカが呟く。
ワーウルフとの戦いに巻き込まないように気は使っていたけど、どうやら見入っていたようだ。
自分の実力を素直に褒められるのは嬉しいもんだなぁ。
「ガッルッ、ガァッ!」
……まあ、立つよね。
実力差は十分見せつけたけど、ダメージ自体は対して与えていない。
今回の目的はワーウルフの討伐じゃなくてライカの救出だ。
わざわざ逃げる相手に追い討ちを仕掛ける趣味はないし、このまま退がってくれればいいんだけど。
「グッガァァァァァァァ!!」
ワーウルフは逃げるどころか牙を剥き出しにして襲いかかってきた。
……馬鹿が。
死んだぞ、お前。
「ふっ」
あくまで直線的な攻撃を技と歩法を使って避け、ワーウルフの側面に回り込む。
「それじゃあ……いくぞっ!」
『雛菊』
『牡丹』
『蓮華』
『白龍』
『蒼乱麻』
『緋鳳華』
『魔乃剣』
『爆龍斬』
「ガッ、グッ、ジッ……グルゥアァァァァ!?」
剣技による八連撃。
その全てを喰らい、ワーウルフは悲鳴をあげる。
まだ……、まだ終わらないぞ!!
『雪花』
『風祭』
『逆叉』
『火華』
『雷号天』
『喜峰砲』
『吹雪』
『夏祭』
『湊』
『紫苑』
『伊邪那美』
『百鬼夜行』
『白銀』
『黒鉄』
『小嵐』
『鈴音』
「ガッ……ギッ……ガッ……」
「やっぱり強いよ、お前」
先ほどの倍……剣技による十六連撃を喰らわしながら、感心する。
これだけの技を受けてまだ原型をとどめているんだから。
だからこそ、敬意を込めて最後まで手加減なしで決着をつけなきゃいけない。
剣を上段に構え、一呼吸置く。
「奥義……『零』」
ワーウルフにトドメをさすため、眉間に向けて剣を振り下ろす。
そして、剣先がワーウルフに届く瞬間……!
「……ど、どうされたんですか?」
ライカが訳が分からないと言った様子で質問してくる。
それもそのはず。
俺の剣がワーウルフに触れる直前で寸止めされたからだ。
「もういいんだ。もう、全部終わったから」
俺は納剣しながら答える。
「終わった? ……まさか!」
「うん。こいつはもう、死んでるよ」
ワーウルフは連撃を受け、最後の最後、立ったまま絶命したようだった。
死体に追い討ちをかけるつもりもないし、死体をこれ以上無意味に傷つけたくはなかったから、剣を止めた。
「お前は間違いなく強かったよ」
俺が圧勝したようには見えるかもしれないけど、実際は一手違えばどっちが勝ってもおかしくない勝負だった。
それほど、ワーウルフの戦闘能力は高く、俺もそれに応えるために全力を出した。
「ありがとうございました」
俺は強敵に対し感謝の意味を込めて頭を下げる。