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7話 索敵

 

「……ふう、ここが守衛の言っていたダンジョンだな?」


 守衛の言う通り、南方向に走ること数分、俺は目的地のダンジョンに到着した。

 久しぶりに全力疾走したから少しだけ息があがる。


 だけど休んでいる暇はない。


 一刻でも早く、取り残された冒険者を助けてあげないと。


「そういえばダンジョンに入るのは初めてだな」


 ダンジョン……発生理由、発生条件の一切が不明の迷宮。

 ダンジョン内ではモンスターや罠が自然発生しており身の危険もあるが、その反面、貴重な資源や宝箱も出現(ポップ)し、数多の冒険者が一攫千金を目指して日々ダンジョンに突入している。


 ダンジョンには種類がいくつもあり、入り口をくぐると草原が広がっているものや、古城がダンジョン化したという例もある。

 今回のダンジョンは洞窟タイプのダンジョンのようだ。


 ダンジョンという存在は知識として知っていたし、興味もあったが、山に籠る前は剣の修行の日々だったから、入る機会もなかった。

 今思えば、修行の一環としてダンジョン攻略(アタック)に挑戦してみても良かったかもなぁ……。



「……っと、今はそんな事を考えるより救出に専念しないと」


 俺は初めてダンジョンに侵入してみる。


「おぉ、こんな感じになってるのか」


 ダンジョンの入り口をくぐると、中は意外と広く、道も照らされていた。

 そして正面には道が三つに分かれており、迷宮の名の通り無闇に進んでも迷ってしまいそうだ。


 その上、この先も道はいくつも分岐しているんだろう。


 これは勘や手当たり次第に進む訳にはいかないな。



「まぁ……全く問題はないけどね!」


 俺は剣を鞘から抜くと、その刀身を地面に突きさす。


「剣技『龍脈波紋(りゅうみゃくはもん)』!!」


 二十年の山籠りの間に身につけた数ある剣技のうちのひとつ、『龍脈波紋』。


 この技の特性は『索敵』。


 剣を突き刺した際の衝撃や音が拡散、反射した際の振動を刀身を使って察知する探索技。

 しかも、このダンジョンは洞窟タイプ。


 音や振動はより響き、索敵の範囲や精度もより高くなる。

 これなら、より早く取り残された冒険者を見つけることができる。



 集中……集中……集中!!


 ほんの小さな手がかりさえ見逃すな!!


 刀身から伝わってくる情報を俺は精査していく。


 魔物の群れ……違う。

 複数の罠……違う。

 冒険者の一団……違う。

 徘徊してる中型魔物……違う。

 戦闘中の小型魔物……違う。


 吹き抜けの広大なスペースに、大型の魔物と人の気配……見つけた!!

 多分、この気配だ。


 人の気配の方は移動しているようだから、まだ無事なようだけど、動きは鈍く、怪我でもしてるのだろうか。


 すぐに向かわないと!


 俺は見つけた方角に向けて、最速最短で一気に走り出す。


 頼む、間に合ってくれ!!


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「はぁ……はぁ……はぁ……」


 息が上がる。

 魔力も体力もほとんど尽きかけてしまった。


 ここまで魔法と剣でこの魔物の攻撃を凌いできたけど……どうやら限界は近いようだ。


 リナ達は無事に逃げられただろうか……?


「グッ、ラァァァァァァ!!!!」


 魔物の咆哮がダンジョン中に響き渡る。


 全く……本当についてないな。

 まさかこんな所で『バグ』に出会うなんて。



 私たちが受けた任務は『ダンジョン内で大量発生しているワーウルフの調査と討伐』だった。

 ワーウルフ単体の戦闘能力はそれほど高くなく、群れでの連携が少し厄介なくらいだ。


 それでも、シルバーランクの冒険者で組まれた私たちのパーティーにとって、そんなに難しいクエストではなかった……はずなんだが。


「まさかワーウルフの『バグ』がこんな所にいるなんて思わなかったよ」


『バグ』……突然変異した魔物であり『特定指定災害獣』の通称。

 バグの討伐には、ゴールドランク以上の冒険者がバグ討伐用に専門のパーティーを組んで討伐するレベルだ。



 間違っても、私たちシルバーランクの冒険者が束になっても敵うような魔物じゃない。


 今、目の前で私を見下ろしてきているコイツはワーウルフのバグのようだ。

 本来のワーウルフは灰色の毛並みをしており、見た目も野生の狼や野犬と大差はない。


 だけど、こいつは全く違う。


 そもそも、この大きさ……本来のワーウルフの五倍はあるだろうか?


 しかも、コイツはその巨体でありながら素早さは元々のワーウルフと遜色ない。

 そのくせ、攻撃力は普通のワーウルフとは比べ物にならないんだから嫌になる。


「グッ……ラァッッ!!」


「っ……『流星(ミーティア)』!」


 ワーウルフがトドメをさすために飛びかかってくるが、私は最後の魔力を振り絞って魔法を発動し、それをギリギリでかわす。


『流星』は数秒間だけ自身の速度を上昇させる星魔法の一種。


 残りの魔力は少なく、多分これが私の発動できる最後の魔法。


『流星』発動時で私の速度とワーウルフの速度はほぼ互角。

 この場を逃げても、すぐに追いつかれて殺されてしまう。


 それなら、一か八か……!


 私は出口とは逆方向……ワーウルフ目掛けて特攻をしかける。


「うっ……あぁぁぁ!」


 最後の力を振り絞り、ワーウルフの胴体に剣を突き刺す。

 ……だけど、私の渾身のひと突きは、いともあっけなく弾き飛ばされてしまった。


 くそ、くそ、くそっ!

 なんて硬さだ。


 ワーウルフの毛の一本一本がまるで鉄の繊維でできているようだ。


「ガルァ!」


「くっ、うっ……あぁぁ」


 ワーウルフが軽く前脚で私を振り払う。

 直撃こそしなかったものの、軽くかすっただけで私はなす術なく吹き飛ばされてしまう。


 ……もう、魔力も体力も尽きてしまったようだ。

 逃げるどころか立つことすらままならない。


 ……どうやら、本当にここまでのようだな。


 仲間(リナ達)を逃すために、コイツの足止めを自分から引き受けたけど、我ながら損な役回りを受けてしまったなぁ……。

 でも、しょうがない。


 こればっかりは親譲りの性分だから。


「グルッ、ガアッッッア!!!!」


 ワーウルフの爪が振り下ろされる。

 もう、避けるのも無理だ。


『バグ』を相手に仲間は逃すことが出来たし、前衛としての仕事はこなせたかな……。


 心残りがあるとすれば父さんくらいか。

 あの人は私がいないとダメだからなぁ。


 冒険者なんて危険な仕事、やめておけって止められていたのに、その反対を押し切った結果がこれだ。

 本当に、親不孝な娘だな、私は。


「ごめん……父さん」


 私は死を覚悟して、目をつぶる。



「………………あれ?」


 いつまで経っても痛みがやってこない。

 どうやら、まだ私は生きてるようだ。


 ゆっくりと目を開けると、そこには……。


「よかった……間に合った」


 ワーウルフの爪を剣で受け止める男性の背中がそこにあった。


「父、さん?」


 こんな所に父がいるはずがない。

 そんな事は分かっているはずなのに、その背中を見て、なぜか自分の父を連想してしまった。


 私は父と似た背中をしているこの男性に救われたようだ。

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