41話 逮捕
「実はシナイさんには逮捕状が出ています」
……へ?
「タイホジョウ?」
「はい。分かりやすく説明すると、このままだとシナイさんは騎士団に逮捕されて、そのまま牢獄行きです!」
何……だと……!?
騎士団ってのは、国の法や秩序を守ってるという、あの騎士団だよな?
なんで、その騎士団が俺を逮捕するっていうんだ……?
「なっ、ちょっ、おまっ……ええっ!?」
「納得いきません!! どうしてシナイさんが逮捕されないといけないのですか!?」
あまりの事実に思考がフリーズしていてたら、代わりにライカが抗議してくれた。
正直すごく助かった。
「今回『スターロード』に対して行った行為がロックスに対しての報復行為とみなされたのかもねぇ」
「そんなっ……!? もし、シナイさんが戦ってくれなければ、私とオリビアも襲われて、死んでいたかもしれませんよ!? つまり、あれは正当防衛じゃないですか!」
「勿論それは騎士団の方も理解しているでしょう。ですが今回のシナイさんは少しやり過ぎましたね。はっきり言えば過剰防衛による逮捕です」
……なんてこった。
確かに『スターロード』に対してかなりムカついていたから、大人気なく暴れた自覚はあるけど、まさか逮捕されるだなんて……。
これでも死なない程度に手加減はしたんだけどダメだったようだ。
無職で前科持ちになるとか、俺の人生終わったんじゃないか?
「……それでも、納得できません! 何かシナイさんが無罪になる方法はないのですか?」
「ライカ、無茶を言ってミラさんを困らせるなよ。それに騎士団の逮捕を覆すなをて都合がいい方法なんて」
「ありますよ」
「「えっ!?」」
俺とライカが声を揃えて驚きの声を上げる。
今、ミラさんが「ある」って言わなかったか?
「だからシナイさんを無罪にする方法ならありますよ。それもとても簡単な方法です」
「本当ですかっ!? 是非教えてください!!」
恥も外聞もなく、食い気味にミラさんに懇願する。
ミラさんに「教える代わりに、ワタシの靴を舐めなさい」と言われたら、即断即決で舐める勢いだ。
プライド?
あるか、そんなもん!!
こちとら、この先の人生がかかってるんだ!!
文字通り必死にもなるわ!!
「シナイさんが冒険者ギルドに加入すればいいんですよ」
「……え?」
「今回、一番の問題点はシナイさんが私人でありながら『スターロード』を全滅させたことです。ですが、冒険者になればその問題は全て解決しますよ!」
なんで俺が冒険者になれば解決するんだ?
全くミラさんの話が見えてこない。
「冒険者の主な業務内容はダンジョン探索や素材収集など多岐にわたります。そして、その中に犯罪者の捕縛というものも存在するんですよ」
「犯罪者の捕縛ってことは……。つまり!?」
「はい。一市民は、たとえ犯罪者が相手だとしても過剰に痛みつけたらダメですが、冒険者ならその限りではありません。犯罪者を捕縛するためという大義名分ができるからです」
なるほど……。
俺が冒険者になれば、今回の件は冒険者の仕事として丸く納めることができるってことか。
だけど……
「俺が冒険者ギルドに登録されたとしても、今回の戦闘は俺が冒険者になる前の出来事なんですが、それは無罪放免ってことになるんですか?」
「正直そこは微妙なとこですけど。まあ、心配しないでください。もしシナイさんがギルドに加入してくだされば、ワタシの権限で全力で守りますんで!」
冒険者ギルドのマスターが守ってくれるというのなら、多分大丈夫なんだろう。
アラフォー新人冒険者になるか、アラフォー無職前科持ちになるかのニ択か……。
うん、これ、俺が選べる選択は実質一択しかないな。
「俺を冒険者ギルドに入れてください」
「ふふ、そう言われると思って、既に手続きはしておきましたよ。後は、この書類にシナイさんが署名をするだけです」
仕事が早すぎる!?
「初めは誰でも一番下のアイアン級の冒険者からのスタートですが、シナイさんならすぐに最高ランクのミスリル級まで上がれるので頑張ってください」
別にそこまで冒険者のランクを上げるつもりはないんだけどな……。
まあ、いつまでも無職でいるわけにもいかなかったし、第二の人生は冒険者として頑張ってみるか!
「アイアン級じゃあ、ろくな仕事もありませんが、ここでお話ししたのも何かの縁です。近々シナイさんにはワタシが厳選したクエストを紹介しますね。勿論、報酬もはずみますよ!」
「それは助かります」
ギルドマスターから仕事を紹介してもらえるなんて、俺はついてるなー!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うまくいきましたね、ミラ様」
シナイさんとライカさんが帰った後、ギルバーツがワタシにそう話しかける。
「ええ。これでシナイさんを冒険者ギルドに囲い込むことができました」
彼は『バグ』を単騎で討伐できるほどの逸材。
騎士団や憲兵、守衛や他のギルドからしたら喉から手が出るほど欲しい戦力だろう。
それを大した労力もなく手に入れることが出来たのだから、十分過ぎる成果だ。
「ちなみにシナイ君に仕事を紹介すると言っていましたが、どのような仕事を紹介するつもりなのですか?」
「そうですねー。とりあえず、コレとコレと……あっ、このクエストも捨てがたいですね!!」
手にしていたファイルから三枚の依頼書を選抜してギルバーツに見せる。
「元ミスリル級冒険者が率いる盗賊団の壊滅に、先月発見された『ベルモンキー』のバグの討伐依頼。そして、これはこの国で最高難易度のダンジョンの探索ですか。……正気ですか?」
「勿論! どれもミスリル級の冒険者が受けるクエストだけど、シナイさんなら無事に達成してくれますよ!!」
彼には期待していますからね。
誰も受けてくれないような高難易度のクエストをじゃんじゃんこなしてもらわないと!!
「頑張ってくださいね、シナイさん」
ワタシは、シナイさんが書かれた署名をそっとなぞり、優しく微笑んだ。




