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36話 格の違い

 

「えっ、はっ……えええ!?」


 ザックスは目を丸くして驚いているけど、そんなに驚くことでもないだろ。

 ただ、指で挟んで攻撃を防いだだけなんだから。


「お、おい、ザックス何をやってるんだ!? 遊んでないで早くそいつを始末しろ!」

「分かってる! 分かってるけど……斧が動かねぇんだよぉ!!」


 攻撃を俺に受け止められてから、ザックスは自身の斧を押したり引いたりして指から抜け出そうと力を加えているけど、無駄無駄。


「くそっ、がぁぁぁ。お前、魔法が使えないなんて嘘をついただろ!? 俺の魔法で強化した腕力が、力で負けするはずが……」

「魔法なんて使ってないし、なんなら腕力すら使ってないよ。これはただの技術」


 魔法を使ってるだなんて勘違い甚だしい。

 これは合気に近い技術だ。


 この技の名前は剣技改め、拳技『凪打操蒼(なだそうそう)』。


 相手の力の流れに合わせて、こちらも別方向に力を加えることで相手の動きを操作しているだけなんだけどな。


 この技をマスターすれば、子どもでも大人相手に腕力で対抗することも可能だ。



「技術!? 技術だって!? そんなもんで俺様が力負けするなんて……」

「あー、それとお前、もう一つ思い違いしてるぞ……っと!」


「……へぁっ!?」


 情けない声を出すなよ。

 指に力を加えて、斧をザックスごと持ち上げただけじゃないか。


 わざわざ技術で圧倒してみせたけど、本来ならその必要すらもない。

 なぜなら……


「魔法で強化してても、お前の腕力は俺よりはるかに格下だぞ」

「う、嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だウソだぁっ!!」


「力も技も、何もかもが軽いんだよ、お前は」



 確かに魔法で身体能力が強化できたら、そんなに手軽なことはない。

 だけど、ザックスには積み重ねてきた鍛錬が圧倒的に足りない。


 だから軽いんだ。


 せめて、もっと武器の素振りくらいしてたら、ここまでの差はでなかっただろうな。


「ぐっ、ぎっ……くっそ……がぁっ!!」


 斧を俺から奪うのを諦めたのか、それとも現実を受け止められなかったのか、ザックスは斧から手を離して、俺に素手で襲いかかってくる。


 ザックスの元の身体能力じゃ、魔法でいくら強化したとしても俺より弱いって教えてあげたのにな。


()っそ」

「は?」


 ザックスの方が先に殴りかかってきたけど、ザックスの拳が振り下ろされるより先に剣を抜き、攻撃を繰り出す。


「強化魔法は解くんじゃないぞ……剣技『惡羅連打(おられんだ)』!」


「ぶっ、ばばばばばばばばばばばばばば!?!?」


 俺は剣があれば何でも斬れるし何でもできる。

 逆に言えば、斬れ味を自分で自由に調整できるってことだ。

 つまり、斬れ味を極端に下げる事で、剣で切り傷を与えることなく棍棒のように殴る事も可能。


 そして、『惡羅連打』は剣による打撃技。

 連続突きで敵を浮かせて、その間も殴り続けるって技だ。


「これで……終わり!」

「ぶっ、ばぁっがぁっ!!」


 ザックスを殴り続けるのを百回は超えたかな。

 そろそろ疲れたから、連打をやめてザックスを地面に落とす。


 普通だったら撲殺してたかもしれないけど、ザックスは肉体を強化してるから全身骨折程度で済んだかな。

 地面に落ちた時に悲鳴をあげてたし、死んではいないだろ。


「さて、後三人」


「な、なんなのよ、コイツ」

「あのザックスがこんなにあっさり……どうしますか、リーダー」


「焦るな! 所詮、剣士なんて近距離でしか攻撃できないんだ。このまま距離をとり続けて魔法で圧倒するぞ」


 ユージンがリンネとミカゲに指示を出すけど、その指示が検討はずれなんだよなぁ……。

 斬撃を飛ばしたり、遠距離での攻撃方法なんていくらでもある。

 そもそも、この程度の距離なら一歩で詰めれるから、距離を取ってることにすらならんしな。


 ……まあ、しょうがない。

 このままだとすぐ戦闘が終わってしまうし、手加減も兼ねてユージン達の策に乗ってあげるか。


「一気に畳みかけるぞ! 風魔法『ガルガ・ウィンド』」

「荊魔法『ソーンインパクト』!」

「水魔法『スプラッシュアウト』!」


 三者三様の魔法が俺に向かって放たれる。


 全部斬り落とせるし、回避も防御も余裕だけど……。


「ふんっ!!」


 あえて、その全てを避けも防がずに受け止める。


「ははははは! やった、直撃だ! これで無事な奴なんて……」

「無事ですけど、何か?」


「っ!? お前、今何をした!?」


 別に何もしてない。

 ただ魔法を受ける直前に、一気に筋肉を収縮させることで肉体を硬化させただけだ。


 この技の名前は『剛鉄鬼(ごうてっき)』。

 その硬度は鉄にも匹敵する。


 ただ、あくまでも瞬間的に防御力を上げることで大ダメージを防ぐだけで、魔法が直撃すればそれなりに痛い。

 だけど、それを相手に察せさせるようなことはしない。


「お前達の魔法なんて、直撃したところで痛くも痒くもないんだよ」


 あくまでも格の差を見せつけるために余裕たっぷりに言い放つ。


「ぐっ、こ、の……くそジジィがぁっ!!」


 もうユージンには、さっきまでの余裕は無さそうだ。

 ……地味にジジイ呼びが一番傷ついたかもしれん。


 これでもまだ三十五なんだけどな。


「リンネ、ミカゲ! 奥の手を使うぞ!! こっちに来い!」

「ええ!」

「はい!」


 そう言うと、三人は集まって、手を重ね出す。

 奥の手って言ってたけど、何をする気だ?


「この魔法は僕たちの最強魔法。これで僕たちはあのガルビオンを討伐したこともあるんだ!!」


 いや、あのガルビオンとか言われても、ガルビオン自体知らないから凄さが伝わらない。


「消え失せろ!! 合体魔法(ユニゾンレイド)……『トライアブソリュート』!!」


 ユージンが魔法名を唱えると、三色に彩った魔力の塊が放たれる。


 ……なるほど、要は三人で魔法を重ねて放つのが奥の手だったわけか。


 確かに、この魔法は『剛鉄鬼』で受けたとしてもかなり痛そうだ。


 それなら、いい機会だし、山に降りてから開発した技を試してみるか!

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