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35話 お仕置き

 

「くそっ、ライカとオリビアはどこにいるんだ?」


 二人を探すため山に入ったはいいけど、この山も決して小さい山じゃない。

 この中から、ユージン達より先に二人を見つけるのは骨が折れそうだ。


 さて……どうするか。


「……なんだ、あの光は?」


 どうするか考えていたら、山の中腹部で強力な光が発光しているのを見つけた。


 自然にあんなものが発生するとは思えない……ってことはアレは魔法か。


 強力な光を出す事で得られる効果は敵への目眩しか、それか、救難信号のように自分の位置を相手に知らせるため。


「とにかく行ってみるか」


 闇雲に探してもキリがないし、あの光がライカからの『ここにいる』というメッセージだと信じて急いで向かう。


 そして、光の元へ辿り着くと……


「……なんだこれ?」


 棘のついた(つる)がまるで檻のように周囲を囲っていた。

 これも魔法のひとつか?

 蔓はびっしりと巻き付いており、檻の中を目視では確認できない。


 どこかに入り口がないか周りを見てこようとすると………


「だい……わた……ビアも……るから」


 わずかに声が漏れてくる。

 この声は間違いない……ライカだ!


 この中にライカがいるのは間違いない。

 という事は、この魔法はユージン達の内、誰かの魔法で、ライカが閉じ込められているってことか。


 だとしたら、もう、入り口を探すだなんて悠長なことを言っている場合じゃない。


「邪魔だぁっ!!」


 剣を使って、正面突破でぶち破る!


 蔓の檻を剣でぶった斬って中に侵入すると、そこにはライカとオリビア、そして『スターロード』の四人が集合していた。


「悪い、ライカにオリビア。少し遅くれた!」

「大丈夫です。シナイさんは必ず来てくれるって信じてましたから」


 全幅の信頼を常に寄せてくれるのは少し困るけど、悪い気持ちはしない。

 それにライカもオリビアも怪我はほとんどなさそうだし、間に合ってよかった。


「あの光はライカの魔法?」

「はい。シナイさんに私の居場所を伝えるのに利用しました」


「そっか。おかげですぐにライカのいる場所が分かったよ。ありがと」

「いえ、そんな……役に立って良かったです」


 お礼を言うと、俺に褒められて嬉しかったのか、ライカは照れくさそうにはにかむ。

 ……こんな状況だけど、俺の弟子、かわいいな。


 それに成長もしていると思う。


 ちょっと前までのライカだったら、親の仇を前に、激昂して無策で襲いかかっていただろう。

 だけど、今回のライカは、自分が不利な状況であると冷静に判断した上で、オリビアを守るためにすぐに俺を呼んでくれた。


 俺ならこの状況を何とかしてくれると思ったんだろう。


 それなら、師匠として、そして兄弟子として、その期待には応えてあげないとな。


「なるほどねぇ。あの光る魔法は僕たちの視界を奪うのが目的だった訳じゃなくて、仲間に居場所を知らせるためのモノだったんだね。いやー、一本とられたよ。……それで、そのおじさんが来た事で何か変わるのかい?」


 俺が加勢に来たのを見ても、ユージン達の余裕な表情は変わらない。

 まあ、彼らにしたら、冴えないおじさんが一人増えたところで戦況は変わらないって思うだろうなぁ。


「変わるさ」

「……はぁ? おじさんに何が出来るのさ!?」

「お前達に勝てる」


「……は? ……ぷっ……あははははは! おじさんがゴールドランクの冒険者である僕たち『スターロード』に勝てるって本気で考えてるのかい!?」


 ユージンが笑いだすと、それにつられてミカゲ、リンネ、ザックスの三人も笑い始める。

 ……まあ、バカにしたければすればいいさ。


 すぐに戦闘を始めても良かったけど、その前にひとつ、ライカに確認をしなければいけないことがあるから、それを済ませないとな。


「なあ、ライカ……俺がやっていいよな?」


『スターロード』は俺の師匠を利用し、侮辱し、傷つけた上、師匠との約束を破ってオリビアにも手をかけた。

 それは絶対に許されないことだし、その報いは絶対に受けてもらう。


 だけど、俺と同じかそれ以上に怒っているのは、師匠の実の娘であるライカだ。


 そのライカを差し置いて、俺が暴れるのは筋が通らないからな。

 一応、許可はとらないと。


「構いません……けど、ひとつだけ条件があります」

「条件?」


「はい。シナイさん……思いっきりやっちゃってください!」


「……!? ふっ……アハハハ!! 了解、思いっきりやってやるよ!!」


 全く……最高だよ、ライカ!!

 ご指定通り、ユージン達には思いっきり痛い目を見てもらおうか!!


「なぁーに余裕ぶってんだ、おっさん! お前等なんか、俺がぶっ潰してやるよぉぉ!!」


『スターロード』のひとり、ザックスは、背負っていた大斧を構えながら前に出る。


「ライカの師匠っていうくらいなんだから、おっさんも魔剣士なんだろ? それなら近接戦闘でケリつけようぜ!!」


「近接戦は望むところだけど、俺は魔剣士じゃなくてただの剣士だから魔法は使えないよ」


「……は?」


 ザックスの勘違いを訂正すると、ザックスを含め『スターロード』の全員が驚いた顔をする。

 そして……


「ギャッハッハッ!! 魔法も使えない奴が俺様達にケンカを売ってきたのか!?」


 ザックスが大笑いをすると、それにつられるように他の『スターロード』のメンバーもそれぞれ笑い出す。

 うーん、ここまでバカにされるなら、俺も本気で魔法のひとつでも覚えた方がいいかな……。


「……ふぅ、あんまり笑っちゃ可哀想だよ、皆んな。魔法も使えない凡夫に現実を教えてあげるのも、優秀な人の役目だろ?」

「だ、だってよう、ユージン。こんな面白い話があるかってんだ! ギャハハハ」


 ……いや、ユージンもさっきまで一緒に大笑いしてただろ?

 ザックスはまだ大笑いしてるし。


「はー……分かった分かった。いいからさっさとかかって来い」


 このやり取りももう飽きたし、さっさと始めよう。


「ギャッハハ、ハ、ハ……。あー……調子にのるなよ、この雑魚がぁっ!!」


 俺の態度に腹を立てたのか、ザックスが突然大声を上げる。


「あーあ、怒らせちゃった」

「終わりましたね」


「……やれ、ザックス」


「あぁ、グチャグチャにしてやらぁ!!」


 ……あれ?

 ザックスの奴、さっきまでと比べて少し強くなった?


「俺様の扱う魔法は強化魔法! お前には『筋力向上』に『速度向上』、そして『体力向上』の三種の強化(バフ)をかけた状態で相手してやるよ!!」


 魔法で手軽に身体能力を強化できるなんて便利なもんだ。

 俺は古い人間だから、筋力も速度も体力も修行して高めることしかできないからなぁ。


「死っねぇぇぇぇ!!」


 ザックスは雄叫びを上げ、突撃しながら、大斧を振り下ろしてくる。


 太刀筋、足運び、型、その全てがめちゃくちゃだけど、高めた身体能力のおかげでそれなりの一撃にはなってるな。


 ……まあ、それがどうしたって話なんだけどな。


「よっと」

「……へ?」


 そんな驚いた声をあげるなよ。

 ただ、ザックスの斧を指で挟んで止めただけじゃないか。


 さて、それじゃあ……


「お仕置きの時間だ」

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