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34話 星光

(ライカside)


「貴様ら……オリビアを離せ!!」


 私は抜剣し戦闘の構えをとる。


「ちょっとー、この状況が見えていないのー?」


 激昂している私とは対照的に、リンネはおちょくるような態度をとる。


 ……状況だと?

 そんなの一目瞭然だ。


『スターロード』が口封じのためにオリビアを襲ったんだろ!


「動くなよ、ライカ。そこから一歩でも動けばこの女の首をへし折るぞ」

「っ!? ……貴様らは、どこまで……正々堂々戦う気すらないのか!?」


 こいつらはオリビアを人質として利用する気か……。

 数も冒険者としてのランクもそっちの方が上なのに、どこまで卑怯な手を使えば気が済むんだ!?


「僕たちなりに君を評価しているからこその手段だと思って欲しいな」

「ユージン!」


「本当に残念だよ、ライカ。『スターロード』に入って欲しかった気持ちは本心だったのにさ。まさかこんな形で決裂するだなんて」


「仲間……だと? 私の父を貶めておきながら、どんな気持ちで私を勧誘したんだ?」


「ライカは見た目もいいし、珍しい魔法も使える。しかも、ソロでシルバーランクに上がれるほどの実力もあるから、君が『スターロード』に入ってくれたら僕たちの評価も上がると思ったんだけど……見込み違いだったよ。せめて、一回くらいはその体を味わってみたかったなー」


 ……ダメだ、怒りで脳が沸騰しそうだ。

 体が震えて、呼吸が乱れてくる。


 嫌悪、憎悪、憤怒……言葉で現せられないほどの負の感情が溢れ出て止まらない。


「おっと、今の発言は我ながら品がなかったな。……それより、やっぱりこの女は君に七年前の事を喋ったようだね。全く、口の軽い女は嫌になるよ」


「うっ……ぐっ、あぁっ!」


 オリビアを絞める力が更に上がったのか、オリビアは苦しそうな声を漏らす。


「黙っていれば、ロックスが死ぬまでの間くらいは生かしておこうと思ったんだけどなぁ。まぁ、あのおじさんもそろそろ死ぬだろうし、同じことか」

「……黙れ、お前が父の名を気安く呼ぶな」


 こいつ等は、父が死んだ後、どのみちオリビアの事を手にかけるつもりだったようだ。

 今更オリビアが真相を話したところで、私やシナイさん以外は誰も信じなかっただろうに。


 どれだけ、自分たちの名誉を守りたいのか!!


「怖い怖い。だけど、ライカとしてはついてないよね。真相を知ってしまったばっかりに、ここで無残に死ぬんだから!」


 ユージンの周囲を風が纏いだす。

 それをきっかけに、リンネ、ミカゲ、ザックスの三人も魔力を練り出す。


 どうやら、四人とも戦闘態勢に入ったようだ。


「動かないでよ。もしそこから一歩でも動けば、ザックスがこの女の首を折るから」

「ご、め……なさ……」


 呼吸もろくに出来なくて辛いだろうに、自分が足を引っ張っているとでも思ったのか、オリビアは謝罪の言葉をもらす。

 こんなにいい子を手にかけるだなんて……絶対に許さない!


「大丈夫だよ、オリビア。絶対私が助けるから」


「助ける? どうやって!? 実現不可能の夢を語るのは見苦しいよ!!」


 四人が私を討つために魔法を放とうとする。

 ……だけど、油断したな。


 私の魔法は既に発動済みだ!


 突如、空中にあった白い光源から強力な光が放たれ、『スターロード』全員の視界を奪う。


「っ!? な、何が起きた!?」

「眩しくて何も見えないわよ!」

「くっ……目眩しですか」

「くそがっ!! 何だこれ!?」


 星魔法『星光(スターライト)』……いわゆる目くらましの魔法だ。

 私は、オリビアの悲鳴を聞いた時から既に、空中に『星光』を準備していた。


『星光』の元である白い光源は、普段のサイズは手のひら程度な上、淡い光を放っているだけで日中だと目立たないが、私の意思ひとつで即座に強く発光する。


 だからここまで気づかれることもなく、四人が魔法を発動するよりも速く、私が魔法を発動することが出来た訳だ。


 そして、この隙は逃さない!


「っ、痛でぇ!!」


 私はオリビアを掴んでいるザックスの腕に斬りかかる。

 本当は父がやられたように腕を斬り落としたかったが、当たりが浅い上、ザックスは肉体を魔法で強化していて、そこまでのダメージを与えることは出来なかった。


 だけど、突然のダメージに驚いたのか、ザックスはオリビアを掴んでいた手を離す。


 その隙に、私はまだ目が見えていないオリビアの手を取り走り出す。


「オリビア、こっちだ! 走れ!!」

「は、はい」


 オリビアを守りながら戦うのはいくらなんでも無謀すぎる。

 今はこの場を離れるのが先決だ。


「くそがっ! 悪いユージン、人質を逃しちまった!!」

「……ちっ、小賢しいマネを。リンネ、檻を出せ!!」


「了解! (いばら)魔法『ソーンプリズン』!!」


 リンネが魔法名を唱えると、リンネを中心に十メートルほどの周囲一体を棘のついた蔓が囲みだし道を塞いでいく。

 ……くそっ、結界の一種か。


 あくまで私たちをここらから逃すつもりはないようだ。


「ワタシの『ソーンプリズン』の蔓は鉄並の硬度! あんた達は絶対にこの荊の檻から逃がさないわよ!!」


「足手まといがいると大変だなぁ、ライカ。君一人だったら逃げ出すのも簡単だったろうに。親子揃ってその女のせいで絶体絶命って訳だ!」


「っ!? ご、ごめんなさ……」

「謝らなくていい、オリビア。悪いのは誰が考えてもあいつ等だから」


 ユージン達の言葉にオリビアは罪悪感を抱いたのか涙目になって謝ろうとしてくるが、その謝罪を言い切る前に制止する。


 オリビアが謝る必要なんて全くないんだから。


「優しいのは結構だけど、どうする気だい? 君の父親みたいな片腕を差し出して命乞いでもしてみるかぁ!? アハハハハハハ!!」


 完全に勝ちを確信しているのか、ユージンは上機嫌で高笑いをする。

 確かに、この状況で私がどうにか出来る手段はない。


 だけど、不安はない。

 なぜなら、私がやるべき事はもう終えているのだから。


 私は震えているオリビアの手を優しく握りしめる。


「大丈夫、心配しないで。私もオリビアも絶対に助かるから」

「……は、はいっ!」


「助かる? 助かるだって!? 恐怖で頭がいかれたのか? この状況でどうにかできる訳ないだろ!?」


 いかれた訳でも錯乱してる訳でもない。

 これは確信だ。


 だって……


「邪魔だぁっ!!」


 轟音と共に、リンネの『ソーンプリズン』が外部から破壊され、男性が現れる。


「悪い、ライカにオリビア。少し遅れた!」


 だって……最強(シナイさん)は必ず来てくれるから。

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