30話 真相
「ふー、この辺は空気が澄んでいていいな」
ボーディン村から徒歩で少しした林で俺は大きく伸びをする。
朝早く目覚めたしまったから、俺は気分転換も兼ねて散歩がてら村の周りを散策することにした。
それにしてもこの辺はのどかでいいところだ。
俺が修行していた山は標高も高くて空気が薄かったしな。
……それにしても、昨日のオリビアから聞いた話は衝撃的だったな。
俺はオリビアが語った当時の事を改めて思い出す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
〈オリビアの回想〉
七年前……魔物の大量発生の報を受けて、村中の村民はみんな地下の避難壕に避難しました。
ですが、当時七歳だったわたしは避難の際、親とはぐれてしまい、村の中でうずくまって泣いていたんです。
そんなわたしを見つけてくれたのが、ロックスさんでした。
「お嬢ちゃん、こんな所で何やってんだ? 早く逃げないと!」
「おじちゃん……だあれ?」
「俺はロックス。一応村の護衛をしてるもんだ……っても、普段はほとんど同じパーティーのやつにパシらされてるんだけどな」
「おじちゃん、イジメられてるの?」
「イジっ!? ……違うよ。おじちゃんは大人だから子供の我儘を聞いてあげてるだけだよ。まあ、俺はパーティーに入れてもらってる立場だから強くでられないってのもあるけど……って、今はそんな話どうでもいい! お嬢ちゃん、早く逃げないと! 魔物がすぐそこまで来てるよ!!」
「でも、パパもママもいなくて、どこにいけばいいかわかんない……」
「あぁ、くそっ! こんな時に迷子かよ!! 今から避難所に連れてったら間に合わないし……あー、もう、仕方ない!!」
ロックスさんは頭を掻きながら何かを考えたのか、わたしの手を引いて、家と家との側溝にわたしを隠しました。
「いいか、俺が良いって言うまで、何があってもここから出るんじゃないぞ! 分かったか?」
「うん……でも、おじちゃんはかくれなくていいの?」
「おじちゃんはやることがあるからな……だから、俺に任せろ」
ロックスさんは優しくわたしの頭を撫でてくれると、そのままわたしを隠してくれました。
わたしはロックスさんの言う通り、側溝で身を隠すように屈んでいると、次第に地鳴りのようなものが近づいてきます。
百を超える魔物の大群が村に到着したんです。
「さて、ひと仕事するとしますか。悪いが俺の後ろには守らないといけない子がいるから……なぁっ!!」
ロックスさんは慌てる様子もなく、ゆっくりと剣を構えると、そのまま魔物達に突撃していきました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロックスさんの戦いは圧巻の一言でした。
迫り来る魔物達を村に一歩も入れないよう、たった一人で次々と魔物の大群を斬り続けていました。
そして、最後の一匹を討伐すると……
「ぜっ……はっ……、あー、きっつー……」
剣を杖代わりにしないと今にも倒れ込むほど、全身がボロボロになっていました。
「す、すごい……」
子どものわたしにとって、一人で村を守ったロックスさんはヒーローそのものでした。
ロックスさんに今にも駆け寄ろうとした、その時……!
「風魔法『ガル・ウルグア』」
「っ!? ……ぐっ、がぁぁぁ!!」
高速回転した風の塊がロックスさん目掛けて襲いかかってきました。
さっきまでの戦闘で既に限界だったロックスさんはその魔法を避けることができず、直撃して壁に叩きつけられてしまいます。
特に、咄嗟に右腕で魔法を受けたせいか、ロックスさんの右腕は大ダメージを受けてしまいました。
「て、めぇ……ら、一体何の……つもりだ?」
「いやー、僕たちもこんな展開は予想外だったんだよ。まさか、おじさんが一人であの魔物の大群を退けるだなんて思わなかったしね」
ロックスさんが魔法を受けた方向を向くと、そこには四人の若い冒険者がニヤニヤと笑みを浮かべながら現れました。
……そう、ユージン、リンネ、ミカゲ、ザックスの『スターロード』の四人です。
「てめぇらは……魔物の数が百を超えてると知って、さっさと逃げたんじゃなかったのか?」
「逃げたなんて聞き分けが悪いな。あくまで戦略的撤退だよ」
「はっ、ほざけ」
ユージン達は守るべき村人達を置いて、我が身可愛さにさっさと逃げていたんです。
その事を、村の人たちは避難していたため誰も知りませんでした。
たまたま逃げ遅れて現場を見た、わたし以外は……。
「それで……なんで俺を攻撃したんだ?」
「なんで? そんなの決まってるじゃないか。口封じだよ! おじさんの成果は、僕たち『スターロード』が頂くよ」
「……とことんクズだな……」
「筋書きはこうさ。おじさんは魔物の大群に恐れをなして逃亡するが、逃げきれず魔物に襲われ死亡。一方、僕たちは一丸となって村を魔物から守って英雄になる。……どうだい、素晴らしいだろ!」
「流石ユージン!」
「目撃者もいないですし、ボク達の証言を疑う者もいませんしね」
「それじゃあ、後はその魔法も使えないポンコツを消せば終わりだな!」
「その通り! しかも貴方は魔物との戦闘で満身創痍。こんな簡単な仕事はないよ!!」
ユージンの仲間達も次々とユージンに賛同していきます。
そして、四人がロックスに目掛けて武器を構えると……。
「……ぷっ……くっ、はっはっはっはっはっ!!」
ロックスさんはとても楽しそうに笑い出しました。
「……どうしたんだい? この絶望的状況で頭でもイカれたか?」
「いや、なに……単純におかしくってな。……だって」
ロックスさんはゆっくりと立ち上がると、そのまま剣を地面に突き刺します。
「まさかこの程度の傷を負ったくらいで、この俺がお前たち程度にやられると、本気で考えているんだからなァ!」
ロックスさんの気迫で空気が震えるのが幼いわたしでも分かりました。
『スターロード』の四人はおそらくわたし以上にそれを感じたのでしょう。
四人は緊張した面持ちで、改めて戦闘の態勢をとり始めます。
「お前ら全員、後悔させる!」




