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28話 疑惑

 

「『スターロード』って、今日会ったユージン達のパーティーのことだよな?」


「はい、そうです。ユージン、リンネ、ミカゲにザックスの四人組のゴールド級冒険者パーティーです」


 やっぱり、あの四人組かー。

 正直、あの四人にはいい印象がないんだよな。


「そういえば、ユージンが去り際に言ってた、『君の父親には貸しがある』って言葉、もしかして師匠の怪我に関係あるのか?」


「……あくまで、ユージンからの一方的な話ですよ」


 そう言うと、ライカはぽつりぽつりと話しだす。


「もう七、八年くらい前になるでしょうか……。ユージン達『スターロード』がまだ駆け出し冒険者の時、父はサポートメンバーとして一時加入していました。そして、その時に引き受けたクエストがとある小さな村の護衛というものでした」


「一時加入?」


「はい。当時から既に冒険者の戦闘スタイルは魔法が主体になっていましたが、父は魔法を使えませんのでどこのパーティーにも正式加入ができませんでした。だから、クエストを受けるために、一時的にどこかのパーティーに入れてもらうしか方法はなかったようです」



 ライカは話を続ける。


「父が『スターロード』と村の護衛をして数日がたった頃でしょうか? 村の近くで魔物の大量発生が起こりました。本来なら、ゴブリンやワーウルフ程度の魔物がたまに現れるくらいの村だったので、村中がパニックになったそうです」


「……そりゃあ、普段は平和な村の近くで魔物が大量に現れたら大変でしょ」


「はい。その際、父はあまりの魔物の数を前にビビって敵前逃亡したとユージンが言っていました」


 ……ん?

 師匠がビビって逃げた?


 なんだか風向きが変わったぞ。


「『スターロード』は前衛の父を失いながらも大量の魔物を相手に村を死守。一方、逃走した父は途中、魔物に襲われて重傷を負ったそうです」


「……それをライカは信じたの?」


「そんなはずありません! 私もおかしいと思って何回も父に真相を尋ねましたが、『ユージンが言うならその通りだ』と否定しませんでした」


 なるほどね。

 師匠が否定しない限り、ユージン達の話が真実になるってことか。


「……この話を聞いて、シナイさんはどう思いましたか?」

「いや、普通にユージンの作り話でしょ」


「……っ!」


 不安そうにライカが尋ねてくるけど、俺は即答する。

 だって、あまりにも師匠らしくない。


 確かに師匠は普段はダメ人間だ。

 だけど、守るべき人を前にビビって逃げるような人じゃ絶対にない。


 それだけは断言できる。


 それに、いくら元々の実力があったとしても、駆け出し冒険者の四人で魔物の大群から村を守れるだろうか。

 絶対に何か裏がある。


「そう、ですよね! 父はそんな人間じゃないですよね!!」


 俺がユージンの話を否定して、ライカも安心したようだ。

 ライカ自身、誰かにこの話を否定してほしかったんだろう。


「基本的にダメな人だけど、臆病者でもなければ無責任な人でもないからね」


 むしろ、師匠なら魔物の大群を前に滾って大暴れするまである。


「ただ、問題があるとすれば、師匠がユージンの話を否定しないってところなんだよなー……」

「そうなんですよね……」


 ユージン達に弱みでも握られたか、あるいは……。

 あー、ダメだ考えても分からん!


 こうなったら!


「よし、明日、師匠達が護衛してた村に行ってみるか!」


 ここで悩んでいても仕方ない。

 それに、ユージン達から真相を聞こうとしても絶対に口を割らないだろうし、こうなったら直接村に行って調べてみるしかないな。


「私も行っていいですか?」

「勿論。でも、ライカはその村に行ったことあるんじゃないの?」


「……実はないんです。父の真偽を調べて、もしそれが本当だったらと思うと怖くて中々踏み出せませんでした。でも、シナイさんが否定してくれて私も自信が出ました! 一緒に調べさせてください!!」


 ……そうだよな。

 七年以上前って言っていたから、当時のライカはまだ子どもだ。


 調べた結果、万が一、ユージン達の話が本当だったらと思うと怖いに決まってるよな。


「こちらこそ、頼りにさせてもらうよ」

「はい、お願いします!」


 実際、ライカが協力してくれるのはこっちとしても心強い。

 俺はライカと拳を合わせて、師匠の真相を調べることを決意する。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝、まだ酔い潰れている師匠に置き手紙を残して、俺とライカは件の村に向かった。


「ここが、師匠が護衛で来た村……」

「はい。『ボーディン村』です」


 馬車で半日ほど揺られて着いたボーディン村は、ルカリアや王都のように『魔法壁』で囲われることはなく、昔ながらの田舎町といった様子だ。


 高い建築物がない村だけど、そんな村の中心には大きな銅像が建っている。

 その銅像に近づいてみると、ユージン、リンネ、ミカゲ、ザックスの四人の顔をした像だった。


 その銅像の下には『この村を守った英雄『スターロード』をここに讃える』と彫られていた。


 確かに、四人は魔物の大量発生から村を守ったのなら英雄として崇められるのも分かる。


 だけど……


「……なんで師匠の銅像がないんだ? 師匠も村を守った英雄の一人だろ?」

「父は『スターロード』の正式メンバーではないですし、逃げた汚名もあるので省かれたのでしょうか」


 だとしたら気に食わないな……。


「なんか気に食わないですね」


 どうやらライカも同じ気持ちだったようだ。

 俺たちが師匠のことをバカにするのはいいけど、何も知らない奴が師匠を見下してくるのは気に食わないよな。


 こうなったら聞き込みでもなんでもして、なんとしてでも真相を調べて、師匠の汚名を返上してみせる!

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