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26話 再会

 

「ただいまー」

「お邪魔しまーす」


 ライカが家に入るの続いて俺も入る。

 この家も古くなったけど、久しぶりだなー。


「おー、帰ったか、ライカ」


 すぐに奥から声がして、男が部屋から出て娘を出迎える。

 この声は、思い出の声より少し掠れているけど間違いない。


「ん? 誰だ、お客さんか……ってお前、まさかシナイ……なのか?」

「はい、お久しぶりです、師匠」


 師匠とはまさに二十年ぶりの再会だ。

 俺もこの修行期間でかなり老けたし雰囲気も変わったと思ったけど、師匠はすぐに俺だと気がついたようだ。


 互いに無言の時間が数秒流れ出す。


 静寂に対して気まずそうに、ライカが現師匠の俺と父親であるロックス師匠を交互に見比べる。


 すると……


「……プッ」

「……ふっ」


「ブハハハハハハ! なんだ、お前、いつの間に山から下りてきてたんだ!? てか、顔のシワも目立つし白髪もある。しかも最近下りたんなら、アラフォーだろ? くそオッサンじゃんかー!!」

「アハハハハハハ! 師匠こそ、なんですかその姿。昔は健康的な肉体してたのに、今じゃすっかりしぼんでおじさん超えておじいちゃんみたいですよ! 師匠まだ五十ですよね? もう八十は過ぎてるのかと思いましたわー」


「んだと、コラ!」

「やんのか、オラ!」


「えっ、ちょっ、えぇぇぇ……」


 笑い合った後、互いにキレながら胸ぐらを掴み合ったせいか、ライカが戸惑いの声をあげる。


「「……プッ」」

「……?」


 二人で睨み合っていたけど、互いに限界がきて同じタイミングで吐き出す。

 この感じ、変わんないなぁ……。


「心配しないでいいよ、ライカ。師匠とはいつもこんな感じだったから」

「本当、師匠に対しての敬意が足りないんだよ、このバカシナイは」

「あなたが尊敬できるような人だったらいくらでも敬いますよ、バカ師匠」


「んだと、ゴラァ!!」

「やんのか、アァン!!」


「そのやり取りはもういいから!」


 いい年齢(とし)した大人二人がそろって叱られてしまった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「改めて……久しぶりだな、シナイ。いつ修行を終えたんだ?」

「一週間前くらいですかね」


 ライカに叱責された後、俺たちは居間に移動した。


「ほーん。山を下りてきたってことは、お前が言っていた剣の極地とやらには到達できたのか?」

「はい、そこに至る事ができました」


「そうか……俺の腕がこんなじゃなかったら手合わせしたかったんだけどな。残念だ」


 そう言うと、師匠は左手で自分の右腕があった場所を軽く叩く。

 再会した時から気にはなっていたけど、あえて触れなかった……いや、触れることができなかった件を師匠から踏み込んでくれる。


 剣士にとって腕は命。

 しかも、それが利き腕となれば更に大事だ。


「……その腕、どうしたんですか?」

「昔仕事でしくってな。それからはこの通り片腕生活だよ」


「仕事って……」


「ふん……昔の話さ」


「師匠、仕事してたんですか!?」

「あれ、驚くのそっち!?」


 いや、実際は師匠の片腕がなくなってるのはめちゃくちゃ驚いてるけど、ニヒルに決めた師匠にイラッとして、ついイジってしまった。


「冗談ですよ。それで、何の仕事をしくったんですか?」

「お前、ほんといい加減にしろよ……。まあ、金に困って冒険者の真似事を少しした時の怪我だよ」


 師匠は自身の片腕を奪うほどの強敵に遭遇したのだろうか。

 やっぱり、冒険者は危険が伴う仕事だなぁ……。


「お前も間違っても冒険者になんてなるんじゃないぞ。どうせお前も俺と同じで剣だけを振り続けてここまできた人間だ。冒険者になったところで、魔法を使えないと冷遇され続けるだけだぞ」


「その心配は無用だよ、父さん。シナイさんはその辺の魔術師とは格が違うから」


「……なんか、やけにライカに懐かれてないか?」


「……いやー、なんでですかねー?」


 師匠の目つきが、急に娘を思う父の目に代わる。

 父親としては、自分の娘が他の男に懐くのは面白くないんだろう。


「懐くもなにも、私はシナイさんに弟子入りしたんだから当たり前でしょ?」


「はぁっ!? 弟子入りって何だそれ! お父さん聞いてませんよ!」


「今初めて言ったから知らなくて当然でしょ」


「なんでこんな馬の骨に弟子入りしてるんだよ! 剣を教えてほしいならお父さんがいくらでも教えるぞ!!」


 馬の骨って……。

 いくらなんでもひど過ぎる。

 一応俺、あんたの弟子なんですけどね。


「父さんはもう何年もろくに剣をふってないでしょ? 今更何を教えるって言うのよ」

「うぐっ……」


 ライカの正論に、師匠が口をつぐむ。


「師匠は、もう剣を握ってないんですか?」

「まあな。この腕じゃ満足に剣もふれんし、道場も廃業せざるしかないだろ」


「……なんか師匠らしくないですね」


 こんな簡単に剣を捨てるなんて師匠らしくない。

 俺や師匠のような人種には剣しかないんだから、片腕を失ったなら、残った片腕で……両腕を失ったなら口で剣を咥えながらでも剣を振り続けると思うのに。


 諦めがよすぎて違和感すら感じる。


「この年齢になれば諦めもよくなるさ。……今日は久しぶりに会ったし、積もる話もまだまだあるから家に泊まっていけよ」

「そうですよ、今晩だけと言わず何日でも家にいてください!!」


「そうですね、それじゃあお世話になります」


 行く当ても特になかったからこの申し出は素直に受け取らせてもらう。


 こうして、久しぶりの一家団欒のような時間をとることができた。

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