21話 到着
「見てください、シナイさん! 王都が見えてきましたよ!!」
ライカは、馬車の窓から顔を出しながら、王都に到着したと報告してくれた。
ルカリアを出発して丸五日……やっと王都『レグリオン』に到着することができた。
盗賊団『デッドエンド』との戦闘以降、何回か野生の弱い魔物との戦闘はあったくらいで、基本的には快適な旅路だったなー。
道中、ライカとは色々な話をして更に仲が深められたと思う。
それに、馬車の中や夜営時に簡単な稽古をつける時間もあったしな。
流石は師匠の娘だけあって、剣の基礎はかなり出来上がっている上、筋もかなりいい。
多分、師匠にそうとう叩き込まれてきたんだろうな。
俺は長年、山で修行してきた影響か、使う剣技や身のこなしはすっかり我流になってしまったが、ベースはあくまで『ロックス流』だ。
だからこそ、ロックス流だけを磨いてきたライカとは通じるものがあるし、すごく教えやすい。
それにライカ自身、俺の指導を素直に聞いてくれる上、真面目に取り組んでくれるから教えがいもある。
まだ『斬鉄』の領域には達していないけど、このままの成長速度でいけば、そう遠くないうちに『斬鉄』を実現できるだろう。
それに俺自身、自分でも気が付かずに行ってきた事をライカに教えるために言語化することで新たな発見もすることができた。
おかげで王都までの道中、新しい剣技を三つほど作ってしまった。
ライカには、『まだ強くなる気なんですか?』と言われちゃったけどね。
まあ、何はともあれ、今は二十年ぶりの王都だ。
久しぶりに王都の姿を眺めるとするかな。
俺はライカの隣に立ち、窓から顔を出してみる。
「おっ、おお……大分雰囲気が変わったなぁ……」
二十年前にはなかった『魔法壁』がぐるりと王都を囲んでいる。
壁の高さや範囲もルカリアの街とは比べ物にもならない。
壁の上には王都で一番高い建造物……城の上部がわずかに飛び出ているくらいだ。
そういえば、ルカリアの守衛が、王都の『魔法壁』は強度や防衛能力は桁違いった言ってたっけ。
しかも壁自体に迎撃機能があるから、侵入者を排除できるとかなんとか……。
俺の実力で斬れるか試してみたい……けど、そんな事したら壁に反撃される上、間違いなくお尋ね者になっちゃうな。
「変な事、考えないでくださいね」
ライカは疑いの目をしながら忠告してきた。
「変な事ってなんだよ」
「シナイさんのことですから、『あの魔法壁、斬れるかなー』とか考えていたんじゃないですか?」
「ソンナコトナイヨ」
師匠への理解が深い弟子ですね。
どうやら、この数日の間に仲を深めたことで、俺の考えることが分かるようになったらしい。
「シナイさんなら王都の魔法壁を斬れるかもしれませんが絶対に辞めてくださいね。大変なことになるんで」
「……ウッス」
これじゃあどっちが師匠かわかったもんじゃないな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「承認が終わりました。お疲れ様です」
王都の正門につくなり、王都の守衛から積荷の検査や通行手形の確認をされる。
流石王都、警備も厳重だねぇ。
ちなみに、俺は通行手形を貰っていなかったけど、どうやら冒険者ギルドの方が話を通してくれていたらしく、名前を伝えたら通してもらえることになった。
「それと、盗賊団『デッドエンド』の捕縛、ありがとうございました! 最近こいつらの被害も多く、付近の商人達も迷惑していたんですよ」
守衛に『デッドエンド』のメンバーを引き渡すと、お礼を言われる。
「それにしても、盗賊達を連行する際は普通、もっと抵抗するもんなんですが、こいつらはやけに大人しいですね……」
「はははっ、何か怖い思いでもしたんじゃないですか?」
心が折れるまで完膚なきまでに叩きのめしまた!……とは言わないでおこう。
それにしても、この盗賊達、守衛の口ぶりから、相当悪さをしていたようだな。
あれだけやられて暴れるような馬鹿はいないだろうけど、折角だしダメ押しをしておくか。
俺は連行中のゴランを見つけると、笑顔で歩み寄る。
「ひっ!?」
俺の姿を見るなり、ゴランは小さい悲鳴をあげた。
……ちょっと、失礼じゃないか?
ゴランの部下を全滅させた上、自慢の鉄魔法を簡単に斬ったくらいしか心当たりがないぞ。
「なぁ、ゴラン。もし、お前たちが罪を償いもせずに脱走してみろ。……俺が地の果てまでも追いかけるからな。この意味……分かるよな?」
「はっ、はいぃ……」
ゴランの肩に手を置きながら優しく伝えると、ゴランは小刻みに震えながら首を縦に振る。
分かってもらえたようでよかったよ。
さて、王都への入場許可も貰ったし、盗賊達の引き渡しも終わった。
後は冒険者ギルドに向かって要件をさっさと済ませてしまおう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……すっげー……」
マネホーシ達と別れた後、二十年ぶりに王都に入ると、その街並みの変貌ぶりに圧倒される。
まず二十年前では見なかった魔道具が街中に溢れていた。
火を使わないで輝く街灯に、馬が引かずに自動で動く馬車。
他にも見慣れない物が至る所にあるから思わずキョロキョロと見回してしまう。
「ふふふ、二十年ぶりの王都はどうですか?」
お上りさんのようにはしゃいでしまって、ライカ笑われてしまった。
「いやー、俺の知ってる王都と全然違って驚いたよ。こんなに変わるもんなんだなー」
「数ヶ月来ないだけでも王都は変わっていきますしね。色々と案内をしたいですけど、まずは用事を終わらせましょうか。シナイさんはギルドの場所は覚えていますか?」
覚えている……と言いたい所だけど、これだけ街並みが変わっていると辿り着ける気がしない。
記憶も曖昧だしな。
ここは素直にライカに道案内してもらおう。
「自信がないから、案内して貰っていい?」
「はい! お任せください!!」
こうして、俺はライカに着いていきながら冒険者ギルドに向かうことにした。




