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17話 鉄人

 

「ハッ……ハッ……ハッ……」


 ふざけるな……。

 ふざけるなよっ!!


 なんだ、あの人の皮を被った化け物は!!


 あんなのがなんで護衛なんて仕事してるんだ!?


 これでも数年前までは『鉄人ゴラン』として、冒険者界隈では名を馳せていた。

 ゴールドランクの冒険者として様々なクエストに挑んできたし、ここまで生き残ってきた自負もある。


 ……だが様々な経験をしてきたからこそ、直ぐにわかってしまった。

 アレは関わってはいけない生物だ。


 プラチナ級の冒険者とは比べものにならない。

 ミスリル級……いや、それともまた違う。


 あれは……『バグ』に近い何かだ。


 見た目はただの冴えないおっさんだった。

 だけど、アレがオレたちに敵意を向いた瞬間に死を感じてしまった。

 それほどの実力差。


「くそっ、くそっ、くそっ!!」


 折角集めた部下も、おそらくアレによって全滅させられるだろう。


 ……まあ、いい。

 最後くらい、オレが逃げるための時間稼ぎに役立ってくれ。


 今はとにかく、アレから逃げないと!


「やっと追いついた」

「っ!?」


 全力で逃げていると、追っ手に回り込まれて進路を塞がれてしまう。

 くそっ、もう追いつかれたのか!?


「……って、なんだお嬢ちゃんか」


 オレを追っていたのはアレじゃなくて、金髪のお嬢ちゃんだったようだ。

 ……なんだ、助かった。


 出来損ないの部下達だけど、どうやら時間稼ぎくらいは出来ているようじゃないか。


「盗賊団『デッドエンド』の頭領ゴラン。お前は私が討つ!」


「威勢がいいのは結構だけど、今は急いでるんだ。……見逃してやるからどっか行きな」


 本当だったらこんな上玉逃すだなんてありえない。

 自分で遊んでもいいし、売っても高値がつきそうだ。


 だけど、命あっての物種だ。

 お嬢ちゃんと遊んでいるうちにアレに追いつかれたら笑い話にもなりゃしない。


「私はシナイさんにお前の足止めを頼まれたんだ。……どくわけがないだろ?」


 どうやらアレの名前はシナイって言うようだ。

 ……まあ、二度と会うことはないからどうでもいいか。


 今は、オレの邪魔をするこの女をどうにかしないと。


「……いいからさっさとそこをどけ。ぶち犯すぞ、くそ(アマ)ァ!!」

「だったら力づくでどかしてみせなさい!!」


 ……上等だ。

 連れが強いからって自分まで強くなった気でいる勘違い女に分からせてやる。


 本当ならゆっくりと遊んで、力の差を分からせるのが一番楽しいんだが、今は一分一秒を争う。

 一撃で殺してやるよ。


「死ねっ……っ!?」


 お嬢ちゃんの細い首をへし折るために手を伸ばそうとした瞬間、お嬢ちゃんがオレの視界から消えた。


「遅い」

「ぐがっ!?」


 背後から強烈な一撃をくらい、オレは地面に倒れ込む。

 な、何が起こった!?


「『流星(ミーティア)』……私の移動速度を上げる星魔法だ。反応すらできなかったか?」


 星魔法?

 中々レアな属性の魔法を使うじゃないか……。


 ……なるほどね、この魔法を使ってオレに追いついたわけか。


「ゴールドランクとはいっても現役を引退していたらこんなもの……っ!?」


 ちっ、オレの攻撃の気配を察知して、さっきの『流星』って魔法で空中に避けやがった。

 オレを倒したと思って油断しているうちに、ぶちかましからの鯖折りで仕留めようと思ったんだが、そう上手くいかないか。


 だが、新しい情報は得た。

 あの『流星』って魔法は、ただ速度を上げるだけじゃなく、どうやら数秒間くらいなら飛行することもできるようだ。


「……なんで動ける? 私は確かに後頭部を打ち抜いた。しばらくの間は目眩で動けないはずなのに」

「ああ、オレが無防備だったらそれで決着だったろうなぁ」


 迷いのない、いい一撃だった。

 だけど、打撃技や剣術はオレには通用しないんだよなぁ!!


「鉄魔法『我は鉄なり(アイアムアイアン)』! オレは自分の体を鉄に変換できるのさ!!」


 この鋼鉄の体にダメージを与えるには、鉄をも溶かす火力の炎魔法やオレを水没させる規模の水を操る水魔法くらいしかない。


 だけど、お嬢ちゃんの職業(ジョブ)は魔剣士。

 魔剣士は魔法で肉体を強化しての接近戦が得意だが、攻撃手段は剣に依存している。


 だが、いくら強化していても剣は剣。

 オレの体を斬ることは不可能だ!


「鉄の体か……厄介だな。お前の言う通り、今の私にはお前にダメージを与えることは出来なさそうだ。……でも!」


 お嬢ちゃんは再度『流星』を発動し、オレに斬りかかってくる。


「ぎっ、がっ……くそがっ、煩わしいわ!!」


 いくらダメージは無いといっても衝撃は受ける。

 何度も何度も斬りかかられたら鬱陶しくて仕方ない。


 だけど、お嬢ちゃんは止まることなく高速移動をし続けながら、オレに剣で攻撃をし続けてくる。


我は鉄なり(アイアムアイアン)』は防御力は高いがその分敏捷性は下がる。

 この魔法を発動している間、『流星(ミーティア)』を発動しているお嬢ちゃんを捕まえるのは難しいな。


 だけど、いつまでお嬢ちゃんは無駄な攻撃を続ける気だ?

 互いに魔法を発動し続けているといっても、オレの魔法よりお嬢ちゃんの魔法の方が魔力消費量が高いのは明らかだ。

 つまり、こんな無意味な攻防を続けたところで先に魔力切れを起こすのはお嬢ちゃんの方。


 ……そうか、こいつの狙いは足止めか。

 オレに勝てないと判断するなり、仲間が駆けつけてくるまでの時間稼ぎに徹することに決めたのか。


 ……いいぜ、乗ってやるよ。

 お前の仲間が来るのが先か、それともお前の魔力が切れるのが先か、我慢比べといこうか。


「はぁぁぁぁ!!」

「面白ぇ!! こいやぁぁぁ!」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はっ……はっ……はっ……」

「……まぁ、結構もった方じゃないか?」


 我慢比べは時間にして数分程度で決着がついた。

 必要以上に無駄な動きが多かったからか、オレの予想より早くお嬢ちゃんの魔力が切れたようだ。


 お嬢ちゃんは目の前で肩で息をして、剣で体を支えていないと今にも倒れてしまいそうだ。

 自身の限界を超えた過度な動きと大量の魔力消費で、魔力も体力も限界なんだろう。


「なぁ、お嬢ちゃん。オレはお前のことが気に入ったから、出来ることなら殺したくない。……オレの女にならないか? そうすれば見逃してやるよ」

「……はっ、ふざけるな。お前の女になるくらいなら死んだ方がマシだ」


 ああ、分かってる。

 お嬢ちゃんならそう言ってくるよな。


 だから気に入ったんだけど……しょうがない。


「残念だ。……なら、死ねっ!!」


 鉄魔法を発動したまま、腕を振り上げる。

 鋼鉄化した腕のままでオレのパワーで殴られたら、一撃で死ぬだろう。


 そのまま上げた腕をお嬢ちゃんの頭部目掛けて振り下ろそうとすると……。


「なっ、なんだこれは!?」


 急に足元が光りだし、思わず動きを止めてしまう。

 何が起きてるんだ!?


「……勝ったと思ったか?」

「お前、何をした!?」


「何かするのはこれからだ!」


 この光の形……魔法陣か!?


 やけに無駄に動き回ってると思ったら、この女、剣で地面を削りながら魔法陣を書いたのか!


 オレの防御を打ち破るほどの攻撃力を持った魔法か?

 ……いや、お嬢ちゃんも魔法陣の中にいるから、それほどの威力の魔法だと自身も巻き添えになるからそれはない。


 一体何の魔法を使う気だ?


「星魔法……『星に願いを』!」


 お嬢ちゃんが魔法を発動すると、周囲は更に光に包まれていく。

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