15話 既視感
「そういえば、シナイさんって今まで何をされてきたんですか? それほどの実力があればもっと有名でもおかしくないと思うんですけど」
「いやー、俺程度の実力者なんて世間にはいっぱいいるでしょ?」
「単騎で『バグ』を討伐できる人がそんなに沢山いてたまりますか」
……そうなの?
世界は広いし、全然いてもおかしくはないと思うけどな。
「何をされてたって言われても、ずっと山奥で修行しながら生活してただけだよ」
「山奥!? ……なるほど、やはりそれほどの力を身につけるためには、それ相応の修行が必要なんですね。そういえば、父の知り合いにも山籠りの修行をしてた人もいますし……私もシナイさんを見習って何年か山籠りの修行をするべきでしょうか」
「いやいやいや!! 絶対辞めときなよ!?」
山籠りの修行は俺に合っていたからといって、ライカに合うとは限らない。
むしろ、合わない場合がほとんどだと思う。
何より、年頃の女の子を山奥に修行なんて行かせるはずもない。
……それにしても、俺以外に山にこもって修行する人なんているんだなぁ。
珍しい人がいるもんだ。
「シナイさんがそう言うなら分かりました。……でも、シナイさんがどこか世間ズレしてるのもこれで納得しました。普通、堂々と魔法が使えないなんて言えませんもん」
「あー……みんなの反応から薄々気がついていたけど、もしかして、この世界で剣の価値ってかなり低くなってるよね?」
「はい。低いどころか、魔法が使えない『剣士』は役立たずの烙印を押されるってのが、冒険者の中では常識になっています」
山にこもっている二十年の間に常識が大分変わったもんだなー……。
俺が山に行く前は、冒険者は剣や槍、弓のような武器を使って戦うのが標準で、魔法を使う魔術師なんかは希少で、後方支援がメインの職業だったのに。
『魔法壁』や『通信オーブ』といった便利な魔法道具も流通しているし、魔法を使えない俺は時代遅れってことか。
この魔法世界に順応するために、もっと知識を得る必要があるな……。
「ライカにお願いがあるんだけど、今の世界の常識とか教えてもらっていいかい?」
「はい! 任せてください!!」
俺に頼られて嬉しかったのか、満面の笑みで答えてくれる。
全く……頼りになる弟子だよ。
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「……っと、こんな感じでしょうか。他に聞きたいことはありますか?」
「いや、知りたいことは大体分かったよ。ありがとう」
王都まで向かう道中で、俺は今のこの世界の常識をライカから教えてもらった。
魔法がどれくらい世間に浸透しているのか。
今の冒険者は魔法による攻撃がスタンダードだということ。
剣や槍を使う冒険者もいるが、それはあくまでサブの武器として使っていること。
他にも冒険者ギルドの仕組み等も教えてもらえた。
本当、どっちが師匠なのか分からないな。
だけど、おかげでやっと世間の流れに追いつけた気がするし、後は実際に自分の目で確かめていこうと思う。
「ふふふ、話せば話すほどシナイさんは私の父の知り合いと印象がそっくりです。だからなのか、昨日会ったばかりなのに、昔から知ってるような気がします」
「お父さんの昔の知り合いって、さっき言ってた山で修行してる人?」
「はい。私は直接会ったこともなければ名前も知らないんですけど、昔から父が酔うと、その方のお話しをよくされてたんですよ。ほとんどが愚痴でしたけど、その方のことを話している時は父もどこか楽しそうだったんで、私もつい聞き入ってしまったんですよね」
「へー。そんなに俺に似てるなら、俺も会ってみたいなー」
「そうですね。私もいつか会ってみたいと思います」
「似てるっていえば、俺も最初にライカを見た時、誰かに似てるって思ったんだよね。……それが誰かは分かんないんだけどさ」
「そうだったんですか? ふふ、それなら私たち、同じことを考えてるんですね」
まあ、俺の場合はライカの性格ってよりは見た目に既視感があったんだけどね。
でも、ライカみたいな美少女に一度でも会っていたら普通忘れないし、何よりライカの年齢は二十歳。
俺が山に籠り出した年と丁度被るから会ってるはずはないんだけどな。
だけど、ここで一々否定していたら野暮ってもんだ。
「そうかもな。……なぁ、もし良かったら次はライカのことを教えてくれよ」
弟子になることを認めたといっても、俺自身ライカのことはほとんど知らない。
王都に着くまでまだまだ時間はあるんだ。
これを機にライカのことも色々と知っていきたい。
「私ですか? そうですね……何から話しましょうか」
「あー、じゃあ、なんでライカは『剣士』にこだわるんだ? 今の魔法世界では剣なんて対して役に立たないって言われてるんだろ?」
悩んでいるライカに助け舟を出す。
それに、これは俺がずっと疑問に思っていたことだし、ライカが剣にこだわる理由を教えてもらいたいな。
「それは……私の父が剣術道場の師範だからです。剣の基礎も父から教えてもらいました。……父の剣術道場は何年も前に閉まってしまいましたけどね」
「へー、お父さんが師範だったんだ。なんて名前の流派だったの?」
「多分知らないと思いますよ。私の元々の流派は……っ!」
ライカは答え切る前に言葉を止める。
いや、正確に言うならば俺が止めさせた。
俺が自分の口元に人差し指を当てたのを見て、ライカは反射的に言葉を止め、息を潜める。
反応が速い。いい子だ。
「……どうしましたか?」
ライカが小声で聞いてくる。
「お話しはここまで……仕事の時間だよ」
「仕事……っ!? それって!?」
「ああ、お客様のご到着だ」
……さて、護衛として一仕事するとしますか。