13話 護衛
「初めまして、商人のマネホーシと申します。今回はよろしくお願いします」
魔法壁の外に出ると、すでに十は超える馬車達が待機していた。
小太りの見るからに商人といった風貌のこの男が、この商会のトップのようだ。
「初めまして、シナイです。今回は王都までの道のり、よろしくお願いします」
マネホーシが差し出してきた手を取り、挨拶を返す。
「いやいや、あの『バグ』を相手に戦って生き残るどころか、勝利する程のお方が道中一緒にいてくれるのは心強いです!」
マネホーシはどこか胡散臭い笑顔でそう返してくる。
「シナイ様は装備を見る限り……『魔剣士』でしょうか? もし装備が入用でしたらいつでもご相談ください。折角の縁ですし、お安くさせていただきますよ!」
うーん、流石は商人。
隙があれば営業を仕掛けてくるなぁ。
「ありがとうございます、機会があれば是非。あと、俺は『魔剣士』じゃなくてただの『剣士』です。魔法は使えないんですよー」
「……魔法が使えない」
「はい」
「全く?」
「全く」
「……分かりました、少々お待ちください。守衛、ちょっとこっちに来てください」
そう言うと、マネホーシは守衛の腕を掴み、俺から少し離れていく。
「おい、どういうことだ!? 優秀な護衛が食費を負担するだけでつくって言うから、こっちは今回の同行を許可したんだ! それなのに魔法が全く使えないなんて、聞いてないぞ!!」
「そう言われても……。でも、おっさんが『バグ』を倒したって証人もいるし……」
「そんなのいくらでも嘘をつけるだろ!? 常識的に考えて魔法を使えない奴が役に立つはずがないじゃないか! こんなんじゃ、食費分大損だ! お前、責任とれるのか!?」
「そんな事、俺に言われても困りますよ……」
小声で話しているつもりなんだろうけど、このくらいの距離の内緒話なら、俺は耳をすませばバッチリ全部聞こえてしまう。
山ごもりの修行で五感もしっかり鍛えられたからなぁ……。
本人達は聞こえてないつもりだろうから、余計に気まずい。
俺の移動中の食費が気になるって言うのなら、馬車を使わずにさっさと走って王都へ向かってもいいんだけどね。
馬車では五日くらいかかるなら、俺がその気になれば半日くらいで着くだろうし。
まあ、これで馬車に乗らないで、行商人が盗賊に襲われても目覚めが悪いし、何より恩がある守衛への顔を立てる意味もあるし、そんな事はしないけどさ。
「……はぁ、しょうがない。ただの剣士でも、いないよりはマシだろう。……おい、あんた、精々見回りくらいは役に立ってくれよ!」
マネホーシが戻ってくるなり、俺への態度があからさまに変わってしまった。
……あれ?
別の人かな?
「ほら、何をしている。こっちはただの剣士とは違って一分一秒を争う仕事をしているんだ。さっさと指定の馬車に乗ってくれ」
これはもう、別の人だわ。
さっきまでの商人らしい愛想笑いが今は懐かしい。
まあ、こっちはお世話になる身だし、素直に従っておくか。
「それじゃあ世話になったよ。ありがとう」
俺は守衛に礼を伝える。
服をもらった上、一晩、宿と食事まで用意してもらったし、山から下りて最初に会った人が守衛でよかった。
二十年も人と接することがなかったから、久しぶりの厚意が身に染みたし、いくらお礼を言っても言い足らない。
「こっちこそ、おっさんに会えて嬉しかったよ。今度はゆっくり街に遊びに来てくれ」
「ああ、必ず来るよ」
守衛と握手を交わしながら再会の約束をする。
「おい! 早くしろ!!」
「はいはい、分かりましたよ。それじゃあ、またな」
「ああ、また」
マネホーシが急かすから、急いで別れの挨拶を済ませて指定された馬車に乗り込もうとする。
ライカ達に別れの挨拶ができなかったのは心残りだけど……しょうがないか。
馬車の扉を開けながらそんなことを考えていると……
「遅かったですね!」
「……どういうこと?」
馬車の中にはついさっきまで思い浮かべていたライカが先に座っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺が馬車の椅子に座るなり、行商の一団は王都へ向けて出発する。
「……なんでここにいるんだ、ライカ?」
先日、ワーウルフの『バグ』から救出した冒険者のライカが俺の正面で座っている。
「私は冒険者として依頼をこなしてるだけですよ」
「……クエスト?」
「はい! 今回の依頼は、行商人の護衛任務です」
ああ、そういうことか。
俺はマネホーシが王都までの道中に、ついでに乗せてもらってるという立場だ。
その際、旅費は取らない代わりに、万が一盗賊や野党に襲われた時は助けるっていう暗黙の了解は互いにあるけど、正式な護衛ではない。
つまり、マネホーシにとって俺は保険程度の役割ってことだ。
そして、マネホーシ自身が王都までの護衛として正式に契約したのが、俺の前に座っているライカって訳ね。
……それにしても、冒険者ってのは大変だな。
ダンジョン探索やモンスター討伐だけじゃなく、こんな護衛の仕事までやるのか。
実質、日雇いの何でも屋みたいなものだね。
「って、そういえば他の仲間はどうしたんだ? 他の馬車に乗り込んでるとか?」
「いいえ。今回の護衛任務を受けたのは私ひとりです。リナ達は怪我がまだ完治していないので、もうしばらく『ルカリア』で休養をとるそうです」
「とるそうですって……まるで他人事だな。同じパーティーならライカも仲間と一緒の方がいいんじゃないのか?」
冒険者って職業は詳しくないけど、パーティーの仲間は家族みたいに苦楽をともにする家族みたいなものだと思っていた。
それとも案外、ドライな関係なんだろうか?
「確かに、固定でパーティーを組んでいる人たちはそういう関係の人たちが多いと思いますけど、私達は今回のクエストのためだけに組んだ臨時のパーティーなので、クエストが終了したら自然と解散しますよ」
「はぁー、なるほどねー」
「私は普段、ソロで冒険者活動をしているのですけど、今回は元々友人のリナに、クエストを手伝ってくれって言われたんですよ。それがまさか『バグ』に遭遇するなんて思いもしませんでしたけどね」
「へぇー、ソロの冒険者なんてのもいるんだな」
「実際、数はそんなにいないですけどね」
そりゃあ、そうだろう。
冒険者なんて危険が常に付きまとう職業だ。
危険回避のために、最低でも二人組でクエストをする方が無難だろうなぁ。
「リナ達がいない理由はわかったけど、それでももっと休んだ方が良かったんじゃないか? 見た限り、ライカもまだ完治はしていないだろう?」
動けるようにはなったのかもしれないけど、それでも体の所々に昨日の怪我の跡が残っている。
少なくとも、万全の状態には程遠いはずだけど……。
「……仕方ないじゃないですか、シナイさんのせいですよ!」
「俺のせい?」
「だって、シナイさんが私に何も言わずに『ルカリア』を出発しようとするから、急いでこのクエストを受注したんですよ!!」
……つまり……どういうことだ?
俺を追いかけるために、クエストを受けたって言われても意味が分からない。
そりゃあ、挨拶が出来なかったのは悪いと思うけど、挨拶をするためだけにわざわざクエストを受けた訳はないと思うし。
「シナイさん、お話があります!」
「はっ、はい! なんでしょうか?」
ライカが真剣な面持ちで話そうとするから、こっちも緊張して思わず背筋を伸ばしてしまう。
「あなたに惚れました!! 私を側に置かしてください!!」
……へ?




