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12話 出発

 

「いやー、よく寝たー!」


 ライカを救出してから翌日。


 守衛に案内された個室で、二十年ぶりにベッドで寝たけど驚くくらい快眠することができた。


 山にいる間は葉っぱや枝、藁とかを敷いて寝てたけど、横になった時の快適度が全然違うね。

 ベッド最高!!


 しかも、昨日は守衛が晩飯としてシチューとパンを用意してくれた。

 守衛は『簡単なモノしか用意できなくてすまない』と謝ってきたけど、とんでもない。

 俺にとってはご馳走だ。


 あまりの美味しさに、綺麗に完食してしまった。


 人間らしい生活って素晴らしいんだなぁ……。

 もうこの生活を知ってしまったら、あの修行期間の不自由な生活には戻れなさそうだ。


「おーい、おっさん。起きてるかー? 入るぞー?」


 ベッドや昨日の食事に感激していると、ドアの向こうからノックと共に守衛の声が聞こえる。


「ああ、どうぞ」


 俺が返事をすると、すぐに守衛が部屋に入ってきた。


「おはよう、昨日は寝れたか?」


「まあね。おかげさまでグッスリだったよ」


「『バグ』と戦ったんだ。そりゃあ疲れもするよな」


 戦闘で疲れたんじゃなくて、ベッドの眠り心地がよくて熟睡

 しただけなんだけどね……。

 まあ、一々訂正しないでいいか。


「それより、昨日の件を冒険者ギルドに連絡したら、ギルドの方からおっさんに色々と話を聞きたいそうなんだけど大丈夫か?」


「話? わざわざ話す事なんてあるかな?」


「そりゃあ、『バグ』を相手にしたんだ。ギルドも確認したい事もあるだろ?」


「そんなもんかな……。それでどこで話をすればいいんだ? この街のギルド支部にでも向かえばいいのか?」


「……それが、先方がどうしても直接会って話したいとのことで。おっさんにはギルドの本部まで出向いてくれないかって依頼がきたんだ」


「ギルド本部……それって」


「……まあ、王都だな」


「……まじか」


 王都『レグリオン』


 この国で一番大きく、発展した街。


「どうする? おっさんに予定があるなら断ってもいいと思うけど」


「……そうだなぁ……」



 修行を終えたばっかりの俺に予定なんて無いし、遅かれ早かれ王都には向かおうと思っていたところだ。

 まあ、正確には王都の近くにある集落に住んでいる師匠に山を下りた報告をしようと考えていたんだけど。


 まさか、こんな流れで王都に向かう事になるとは思わなかったけど、ある意味好都合だな。


「分かったよ。冒険者ギルドの本部に行くって伝えてくれ」


「了解。それなら通信オーブで伝えておくよ。詳しい事が決まるまでおっさんは部屋で待機しててくれ」


 そう言うなら守衛は部屋から出て行ってしまった。


 ……つうしんおーぶ?

 聞いたことがない名前だけど、口ぶりから何らかの方法で情報を伝達をする道具なんだろう。


 多分『魔法壁』のように魔法技術を利用した道具だろうか?

 興味があるし後で見せてもらいたいな。


 まあ、何はともあれ守衛がまた来るまで暇になってしまった……。


 勝手にこの辺を探索する訳にもいかないし……どうしよっかなぁ……。


「……しょうがない、ゆっくりするかー」


 手持ち無沙汰なんだからしょうがないよな。

 折角だし、このベッドの柔らかさを堪能させてもらおうかな!


 俺は二度寝をするためにベッドにダイブして眠りにつこうとする。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ぜっ、ぜっ、ぜっ……」


 なぜ休むはずだったのに、息を切らして疲れているのだろうか……。


 いや、違うんだ。

 本当に休もうと思っていたんだ。


 だけど、この二十年間、ここまで体力を持て余したことはなかったし、ほんのちょっとだけ体を動かそうと思っただけなんだ。


 だけど、ゆっくり寝て休んだ事で体も驚くくらい軽いし、つい興が乗って、今までより剣の素振りに熱中しすぎただけなんだ。


 流石に無呼吸で一時間剣を振り続けるのはやり過ぎだったな。


「……って、誰に言い訳してるんだか……」


 額の汗を拭いながらベッドに腰掛ける。


 心地よい疲労感が残り、改めて二度寝を試みるため寝ようとすると、守衛が部屋に入ってくる。


「おーい、入るぞー……って、何で汗だくになってるんだ、おっさん!?」


「いやー、ちょっと暇だったから体を動かしてたんだ。……それで、冒険者ギルドからは連絡がついたのか?」


「おお、そうそう、連絡はついたよ。それで、おっさんは王都行きの行商人の馬車に乗って向かってくれ。5日ほどで王都には着くけど、馬車の中では食事も出るから特に準備するものも必要ない」


「飯があるのは助かるけど、よく都合よく王都行きの馬車があったな」


 俺がギルドに招待される立場だから、来賓として王都に着くまで三食ついてるのは理解できるけど、いくらなんでも準備が出来すぎている気がする。


「……実は、行商人はずっと街に待機してたんだ」


「待機?」


 なんでまた待機なんてしてるんだ?

 行商人なら、すぐ王都のような大都市で商売したいだろうに。


「おっさんに会った時、この辺に盗賊団が居座ってるって言ってたのを覚えているか?」


「ああ……って、なるほど、そういう事か」


 守衛の言葉で納得がいった。


 行商人としては今すぐ出発したいけど、盗賊に襲われる危険があるから出るに出られない。

 そこで、『バグ』を倒した実績のある俺が王都まで同行するのは渡りに船だったわけか。


 つまり、俺は(てい)のいい護衛って訳だ。


 まあ、どのみち王都には行く予定だったからいいんだけど、何だか上手く利用されたようで面白くないな……。


「騙すみたいで悪いな、おっさん。でも、できれば行商人に力を貸してやってくれ」


 恩人でもある守衛に頼まれたら断る訳にもいかないよね。


「いいよ、分かった。王都まで連れて行ってもらうついでに護衛は引き受けたよ」


「助かるよ!」


「それで、何時間後に出発する予定なんだ?」


「……あー、それなんだけど……今すぐ出発するのは可能か?」



 ……思ったよりも弾丸スケジュールだった。

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