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11話 感謝

 

「おーい、おっさん!! 無事かー!?」


 ルカリアの街の外壁に到着するなり、守衛が大声を上げて俺たちの方へ駆けてくる。


「ああ、おかげさまでね。ライカも怪我はしているようだけど命に別状はないよ」


「ご心配をかけたようですいませんでした。私もこうして無事です」


「おおっ、そりゃあ本当に良かった! 俺はてっきりおっさんも冒険者さんも『バグ』にやられちまったのかと思ったよ……」


 守衛が俺に背負われたままのライカを見て安心したようだ。


「心配かけてごめん。でもこうして助け出したから安心してくれ」


「だけど、まだ『バグ』はダンジョン内にいるんだろ? この街はダンジョンから近いし、討伐隊が来る前に街が襲われないか心配だよ」


「その心配もありません。シナイさんが単独でワーウルフの『バグ』を討伐したので街に危害が及ぶ事もありませんよ」


「……へ? いやいやいやいや、そんな事ある訳ないだろ。あの『バグ』を相手を一人で討伐するなんて話、聞いた事ないぞ」


「私が自分の目で確認したので間違いありませんよ。シナイさんは凄い人なんです!」


「いや、だって、おっさんは盗賊に見ぐるみ剥がされた可哀想な人のはずじゃ……」


 あー、そういえば守衛はそんな勘違いしてたっけなー。

 訂正するの忘れてたよ。


「実はおっさんって凄い魔法使いだったりするのか?」


「いいえ、シナイさんは魔法を使わずに剣だけで『バグ』を討伐していました」


「それこそあり得ないだろ!? たかが()()()()()がそんな事できる訳ない!」


「それができたから私はこうして生きてられたのです。あなたもシナイさんの事を『おっさん』などと気安く呼ばずに『シナイさん』と呼びなさい!」


「いや、でも……」


 何故かライカが自慢気に俺の戦果を誇っているけど、守衛はどうやら信じきっていないようだ。


「別に俺のことは『おっさん』呼びで構わないよ。守衛さんには服を貰った借りがあるしね」


「シナイさんがそう言うのなら構いませんが……」


 本当、なんでライカが不服そうにしてるんだろう?

 助けた事で懐かれちゃったのかな?


「詳しい説明は後にして、とにかくライカを治療してあげてくれないか?」


「ああ、それもそうだな。守衛室の近くに医務室を用意しているから、そこを使ってくれ。あんたの仲間もそこで治療中だ。ほら、こっちだ! 着いてきな!!」


 守衛の案内の元、俺はライカを医務室まで連れて行くことにした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ライカを背中から降ろして、医務室に入ると扉から人影が急に現れて、そのままライカに抱きついてくる。


「ライカっ!? 無事で良かった!!」

「ちょっ! リナ!?」


 どうやら、人影の正体はリナだったようだ。

 ライカの無事を確認し、安心した事で抱きついてきたようだった。


「っと、危ない」


 まだライカの体調は万全じゃないからだろう。

 リナの体重を支えきれなかったライカが転びそうになるのを後ろから支えてあげる。


「すまない、シナイさん、助かりました。悪いが、ちょっと離れてくれないか、リナ?」

「嫌よ。絶対に離さない!!」


 リナは泣きながら、更に強くライカに抱きつく。

 そんなリナを見て無理矢理引き剥がすのに抵抗があるのか、ライカはあからさまに戸惑っているようだ。


 そんな光景を見て、俺と守衛は微笑ましくなってしまう。


「ライカっ! 無事だったのか!?」

「よかった、よかったよー!!」

「俺たちのせいで危険な目に合わせてごめんなさい。でも、また会えてよかった……」


「みんな、心配させてごめん。私はこの通り無事だから安心してくれ」


 リナに続き、他の仲間たちも次々とライカの周りに集まってくる。


 ああ、本当にライカを助けられて良かった。


 もし間に合わなかったと思ったらこんな素敵な光景も見られなかったんだな……。

 そう思えば、山にこもった二十年も無駄じゃなかったと思える。


「はいはい、全員まだ怪我をしてるんだから安静にしてくれ」


 抱き合って再会を喜んでいる冒険者一同を守衛が間に割って入る。

 まだライカの治療を始めていないし、他の冒険者達もまだ万全に動けるような状態ではなさそうだしね。


「ライカさんは医者に治療してもらってくれ。他の奴らはベッドで引き続き安静! おっさんは……怪我はしてないな? それなら守衛室の方で部屋を用意したから休んでくれ。俺は冒険者ギルドへの報告をしてくるから」


 守衛がテキパキと俺たちは指示をしてくれる。

 それに、部屋を用意してくれるのは助かる。


 無一文だから宿に泊まることもできないし、このままだと野宿でもしようと思ってたからね。


 それに、体力的にはまだまだ余裕はあるけど、二十年ぶりに寝室のベッドで寝られると思うと年甲斐もなくワクワクする。


 守衛の指示通り、寝室で休むために着いていこうとすると……。


「シナイさん!」


 ライカに呼び止められた。


「今回は助けていただいて本当に……ありがとうございました!!」


「「「「ありがとうございました!!」」」」


 ライカが深々と頭を下げると、それに続くようにライカの仲間たちも頭を下げてくる。

 俺としてはそれほど大した事をしたつもりはないし、こうして正面から感謝されると嬉しいけど気恥ずかしくもある。


「いいよ」


 照れ隠しのために、手をひらひらさせながら素っ気なく返事をしてその場を去る。


「……おっさん、照れてるだろ?」


 笑顔を堪えてるのを横にいた守衛にはバレていたようで軽くいじられてしまった。


「……やかましいわ」


 そんないじりに対して、そう返すのが精一杯の抵抗だった。

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