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10話 おんぶ

 

「さて、それじゃあダンジョンを出ようか。立てるかい?」


 ワーウルフに頭を下げた後、俺はライカに声をかける。

 本来の目的はワーウルフの討伐じゃなくて、ライカの救出だ。


 ライカはワーウルフとの戦闘で全身ボロボロだけど、さっきまで普通に喋っていたし、命に別状はないだろう。

 いやー、本当に間に合ってよかった。


 俺は、いまだに座っているライカに手を差し出す。


「ああ、ありがと……っ!?」


 ライカが俺の手を取って立とうとしたが、再度その場に座り込んでしまう。

 どうやら右足に怪我を負っていて、その痛みで立てなかったようだ。



「すいません、怪我で上手く力が入らないようです。今度は立ちますから……っ痛!」


「無理しないでいいって!」


「ですが、回復薬(ポーション)は切れてますし、私は回復魔法なんて使えないから、ここでの治療はできません……。それに、いつまでもダンジョンにいる訳にもいきませんし、これくらいの痛み、私が我慢すれば!」


 歯を食いしばりながら、再度立ちあがるけど、その場に立ってるのも辛そうだ。

 多分怪我以外にも戦闘で体力とか使い果たした疲労の影響もでかいんだろう。


 だけど、ライカの言う通りいつまでもダンジョンにいる訳にもいかないしなぁ……。

 肩を貸せればいいけど、歩くどころか立ってるのも辛い状態なのに、肩を貸したくらいで街まで歩けるとも思えない。


 ……やっぱり、これしかないか。


「しょうがない。俺がライカを背負って街まで運ぶよ」


「そんなっ! 助けてもらったばかりかそこまで迷惑をかけるわけにはいきません」


「でも、ここにいても怪我が治るわけじゃないし、これしかないと思うけど。……まぁ、こんな見ず知らずのおっさんに背負われるのは嫌だとは思うけど、そこは我慢してくれ」


「嫌とか、そういう訳ではないのですが……。でも、えっと……、うーん……」


 ライカは相当悩んでいるようだ。

 口では嫌ではないと言ってるけど、実際抵抗はあるだろうしなぁ。


 こんな手段しか思いつかなくて申し訳ないと思う。


「……私、重いですよ?」


 ライカもこの手段しかないと思って諦めたんだろう。


 顔を赤らめながら上目遣いで、そう呟いた。


 不覚ながら、その顔をみて微かにドキッとしてしまった。

 おっさんなのに、年下の子にトキメいてしまってすいません……。


 だけど、女性経験なんて全くないままこの年齢になってしまったけど、神に誓って邪な気持ちはないと言える。


「任せとけ」


 ライカに不信感を抱かれないように、自信満々でそう言い切ってみせた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 街に帰るために、ライカを背負いながら歩き始めて十分程経過した。


「あの、本当に大丈夫ですか? 重いなら降ろしてもらっていいですからね」


「ハハハ、ゼンゼンダイジョウブダヨ」


 嘘つきました。

 全然大丈夫じゃないです。


 いやね、別にライカが重いって訳じゃないんですよ。

 ライカは急所を防ぐための簡易的な鉄の鎧をつけているけど、ライカ自身は細身でスタイルがいいから、鎧の重さを足したところで大した重量じゃない。


 そもそも、山にこもって修行している間、身の丈の数倍くらいある岩を丸一日担ぎながら剣の素振りをしてたこともあるし、それに比べればライカなんて羽毛のような軽さだ。


 問題なのは俺の女性への免疫力の無さだった。


 だって、ライカからすっごくいい匂いがする上、鎧のない箇所は柔らかくて、正直とてもドキドキします。


 アラフォーのおっさんが十代後半から二十代前半であろう女性に欲情……もとい興奮……もといドギマギしてる姿は見苦しい上犯罪臭がする。


 表情はあくまで無表情を装っているけど、内心、心臓はバックバクで所々で変な汗までかいてきた。


 もしこんな事を考えていることがライカにバレたらキモがられて軽蔑される上、街に着いたら即逮捕だな。


 こうなったら、とにかく無表情を貫き通すしかない。


「……シナイさんは、一体何者なんですか?」


 背負っているから表情までは分からなかったけど、どこか真剣な声でライカが質問をする。

 会話をしてれば少しは気も紛れるし、助かった。


「何者って言われてもねぇ……。どこにでもいる平凡なおっさんだよ」


「平凡って、そんな訳ないじゃないですか! 単独であの『バグ』を討伐するなんて、ミスリル級の冒険者に匹敵しますよ!! しかも、魔法を使わずになんて……、この目で見なきゃ信じられませんよ」


 話の流れから『バグ』ってのは、あのワーウルフの事を指してるんだろう。

 ミスリル級の冒険者ってのがどれだけ強いのか分からないけどね。


「俺からしたら魔法を使える人の方が凄いよ。俺は剣しか使えないしね。ライカも魔法を使えるの?」


「私は『魔剣士』ですから。魔法も剣も使えますよ」


「へー、凄いじゃん!」


「どう考えてもシナイさんの方が凄い事をしたんですけどね……」


 ライカは今度は呆れたように言ってくる。

 うーん、本当に魔法を使える人はすごいと思うけどなぁ。


 なんなら俺も魔法を使ってみたいもん。


 魔法で炎や雷なんて出したらカッコいいと思うし。


 ……まあ、剣技で似たような事はできるけどね。


「それにしても、さっきから真っ直ぐ歩いてるようですけど、こんな道ありましたっけ? 私たちがダンジョンを探索してる時には無かったと思うんですけど」


「ああ、これね。実はライカのとこに早く辿り着くために壁を壊しながら進んだらこうなっちゃった」



龍脈波紋(りゅうみゃくはもん)』でライカを見つけた際、そこに辿り着くまでのダンジョン内の道は、文字通り迷宮のように入り組んでいた。

 いくら正解のルートが分かっていても、そのまま道なりに進んでいたら時間がかかり過ぎる。


 だから、俺は最速最短でライカの元へ行く手段をとった。


 その手段はとっても簡単。

 ダンジョン内の道を剣で破壊しながら、掘り進んだだけだ。


 こうすればタイムロスなく、真っ直ぐにライカの所に辿り着く事ができるって寸法だ。


 うん、俺って頭いい!


「……色々と言いたい事がありますけど、シナイさんを私の規格で考えたらダメだって事が分かりました」


 ライカは、まるで理解する事を放棄したように、そう呟いた。

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