県大会に向けて
久々に投稿しました。
お待たせして申し訳ございません。
失踪はするつもりはないので、書く時間とモチベの確保できるよう努力します、(*'ω'*)
翌日。
綺羅と水瀬は待ち合わせをして一緒に登校する。
中学から変わらない、重いスポーツバッグを抱えながらの登校は足が重い。
学校では綺羅、水瀬と篠田で行動を共に過ごしていたら、あっという間に放課後になっていた。
三人は部室に入り、練習着に着替える。
着替え終わると、先に来ていた部員たちはウォーミングアップを行っていた。
三人も参加するべく、野球グランドの周りを軽くランニングを行う。
グランドを10周程走り、体が火照ったところで、筋トレとストレッチをする。
「高校に入ってから、ウォーミングアップが厳しくなったね……」
「そうね、大人に近づくんだもの。 体力作りと下半身強化は大事だからね」
「うん、身体能力を向上して浅野先輩みたいにマウンドで無双したいっ!」
第四土曜日から県大会が開催される。
その間、シード権を得られなくても出場資格をもっているこの部は、開催までの期間はこれまでより練習量が増えた。
「入学して即レギュラーで試合に出られて、県大会も出られるだなんてラッキーだよね」
「そうね。藤枝みたいな強豪校だとレギュラーになるのは突出した選手だけだし、それにこの高校は浅野先輩が入部以降試合に勝てるようになった部だからね」
「辛辣だね……」
藤枝との試合で、攻撃と防御が脆い面が見れた。
それにより、まずは捕手や投手が捕球して塁に送球する守備練習とその後は試合形式の3本勝負による打者の攻撃練習を当面行うことになった。
攻撃面の練習では打者は打順ずつに交代していき、守備は1年生が中心に行い打順が回って来てない者も参加している。
ただし、捕手は七草、綺羅の間は水瀬が担当して、浅野と中野は芝居が担当をしている。
最初の投手は七草がマウントに上がり投球をしていたが、昨日の試合で投げていた投球より力強さを感じなかった。
それにより、上位打者はヒット確実の打球を飛ばし打順の4,5番の芝井と高橋はフェンスを直撃させている。
「今日の七草は迫力がないデスね。 あのキレがある縦スライダーを飛ばしたかったのデスが」
「辛かったら私や綺羅に交代してもいいぞ」
「っ!? やれます……、やらせてくださいっ!」
七草は動揺したが、気を取り直して自分が得意の球種である縦、横のスライダーを鍛えるべく多用した。
凡そ50球投げたことで、選手を交代する。
次は綺羅の番となり、マウンドに上がる。
藤枝戦では何とか失点せずに済んだが、もし5回まで投げていたら七草のように失点していたであろう。
「私もナナちゃんに偉そうに言える立場じゃないもんね……」
「セイちゃん、最初は神園先輩だよ。いきなり上位打者だね」
「うん、結構打つから速球で攻めていい?」
「それもいいけど、コントロール重視で打ち取らせた方がいいかな。 コントロールの練習したいし、神園先輩は力はある方じゃないから」
「分かった!」
神園との一騎打ち。
一球目の外角低めに投げたが、手を出さずに見送られる。
『勢いもあって速いわね。 これで一年生なんて今年の一年生は豊作ねぇ、県大会なら充分に通用するレベルだわ。 でも、このチームの上位打者を任されているからしっかりと打たせてもらうわよっ!』
二球目は内角高めで、高低差を使った攻撃を神園は打つが打球はファールゾーンまで飛んでいく。
『あらら、レフト前まで飛ぶと思ったのに、惜しかったなぁ』
「あ、危なかったぁ~、」
「すぐにセイちゃんの直球をバットで当てられるなんて、さすがね」
ツーストライクの追い込みで余裕が出来たことにより、水瀬は攻めた構えをする。
「外れても構わないから、少し中を抉るようなツーシームをお願い」
「うん、決めるよっ!」
三球目を投げる。
最初は直球の動きから途中で右寄りに軌道が少し変わる。
『また直球? いや、違うっ』
三球目も投球を捉えるが、軌道が変わったことによりバットの芯から外れたことによりフライ気味に飛んでいく。
打球が外野まで打ちあがり、新一年生が球を取りこぼしたが、転がった球を追いかけて内野方面に投げる。
「綺羅さん、ごめんなさーいっ!」
「ドンマイっ! 次は取れるように頑張ろうねっ!」
『私ってストレート系の変化球苦手なのかな、この前の試合も打ち取れたし……』
神園は打球を見ながら、打った時のことを思い出しながら反省していた。
次の打者は、4番芝井。
芝井はバッターボックスに立つと直ぐに水瀬に話しかけた。
「水瀬さん、綺羅さんにスプリットで投げて貰えるように指示してくれる?」
「分かりました。 でも、打てないからって後で文句を言わないでくださいよ?」
「ええ」
水瀬は芝井を観察しているとあることに気づく。
両手首に重りを付けており、バットもバットリングを付けていた。
素振りのスイングは、いつもと変わらない角度に調整しつつ、力強い風を起こしている。
「これでセイちゃんの決め球を打とうって言うの!?」
驚きながらも、これは勝負事であるから油断せずに綺羅に指示を出す。
「スプリットをゾーンに入るように、ね。 指示が曖昧……。 変化球のコントロールが悪いことは知ってるけども。 なんか複雑な感じがする……」
綺羅はいつもコントロール練習をしている。
だからこそ、練習の時ぐらいは的確な指示が欲しかった。
『藤枝の時に投げていた、あのスプリットを打ちたい。 今まではブルペンで傍から見てただけだし』
芝井との勝負をして、三球スプリットで狙うもアウトを取れずに四球目を投げる。
四球目で芝井はバットに当て、内野に転がっていく。
打球は二塁と三塁の間を抜けて、ヒットの記録を出していく。
『上手く決まらなかったけど、アウトにならなくて良かった。 格好つけて重りを付けていたけど、空振ってたら笑い者だったわ……』
次の打者は5番の高橋だ。
バッターボックスに立つとテンション高めで水瀬に話しかける。
「レイちん、ワタシもスプリットを打ちたいデース!」
「はぁ、高橋さんもね。 この順だけよ、セイちゃんの握力とスタミナが消耗しちゃうし」
「おぉっ! 有難いデス!」
水瀬は5回目の連続でスプリットの指示を出す。
綺羅は指示に従うも、球の握り余力があるか確認をする。
「さすがに握力を使う球種を連続に全力投球は疲れるよ」
綺羅は少し愚痴を吐きながらも気を引き締める。
相手は打率が高くパワーもある打者。
全く油断が出来ない。
『かかってこいデス、セイちん!』
高橋の視線から感じる熱い闘志が、少し疲れ気味の綺羅に感化させて、こちらも負けずと闘志を再燃させる。
「次の打者からはフォーク系の変化球以外でお願い、ねっ!」
一球目。
途中まで直球の軌道で、中間ぐらいから大きく下に沈み高橋のスイングを空振らせていく。
『すっごい変化デス! スプリットじゃなくてフォークじゃないデスかっ!?』
二球目のスプリットは浅く沈むことで、さっきの球筋《残像》が残っている高橋にとっては痛い一手だった。
球は前方上方向に弾き、内野フライで打ち取る。
『まんまとハメられました』
高橋は悔しそうに俯いていた。
さっきの芝井との戦いでは浅く沈むことがなかったので、それをバッターサークルで観察していた高橋は沈む高低差に引っ掛かったのだ。
こうして、強敵との投球練習が終わり40球ぐらいで中野と交代した。