天使の名
病院の隅から隅までくまなく探した。
病室も、中庭も、テラスも。
テラスのベンチの下も、トイレも。
流石に女子トイレには入れなかったけれど。
すると、天使がいた。
廊下の角にある窓を眺めている。
窓から差し込む光と、
風に揺れるカーテンによって、より一層
天使みたい。
「あの!」
僕は大きな声で叫んだ。
次に言うことは決めている。
「お名前教えてください!」
そう言って頭を下げた。
彼女はゆっくり振り向いた。そして言った。
「…なんで知らない人に教えなきゃいけないの?」
さっきより鋭い視線が背中に刺さる。
でも僕は顔を上げない。それくらい必死なんだ。
「また貴方ね。もう着いて来ないで。」
そう言って背を向けて歩き出す。
このチャンスを逃せばもう会えないかも。
僕は去りゆく彼女の腕を掴んだ。冷たい。
「…なんて言われたって、また来ますから!」
こうなると僕は諦めが悪い。
何回だって通ってやる。そう決心した。
「…はぁ。着いてきて」
そう言って彼女は僕に腕を掴まれたまま、
歩き出した。
どういうことだ?理解が追いつかない。
言われるがまま着いていくと、病室に入った。
そして彼女はベッドに座る。
「キミもそこ座って」
「…うん」
ベッドの横にある1人がけの椅子に座る。
「…アマネ」
「…え?」
「だから、名前。
キミが教えてって言ったんでしょ」
「ありがとう…!僕はカナタ。よろしく…!」