慈悲
後ろから走る足音が聞こえる。
「カナタ!なんであんなこと…ヒロカズさんに
謝りなさい!」
母が目元に皺を作り、僕を押した。
そして僕はまた連れ戻された。
ヒロカズがこちらに気づくや否や怒鳴り出す。
「こんのクソガキ!!」
「まあまあ、そんな怒らなくても…ね?
まだ17歳だし、落ち着きましょう」
そう言って僕を初めに連れてきた、
自称お姉さんが仲裁に入る。
「カナタくんも、謝りましょう?仲直りね?」
「…」
「なんとか言ったらどうなんだ!」
「…女の子」
「ん?」
「…あの、それより、女の子は
何号室の患者さんなんですか!」
母と同僚さんが驚いたように目を開く。
「こんな、えと、髪の毛が長くて、肌が真っ白
で…」
「…誰かしら?そんな子知らないわ」
「…私も」
「それよりとは!それよりとはなんだあ!」
ヒロカズはまだ怒っているようだ。
でも、そんなことどうでも良かった。
僕が知りたいのは、あの女の子のこと。
ただそれだけ。
でも、皆知らないってどういうことだ?
まさか、幽霊とか。そんな筈は…
でも、天使みたいだった。
サンタが唯一僕にくれたもの。
哀れな僕を思ったクリスマスプレゼントだったの
かも。
でも、もう一度だけでも会いたい。
とにかく何か手掛かりはないだろうか。
気づけば僕は、怒るヒロカズを背に
走り出していた。