ヒモになりたい
家族が不慮の事故で亡くなっていたり、莫大な借金を抱えていたり。
そんな小説の主人公じみた背景など僕にはない。
家族は両親どころか曾祖父母まで健在だし、父も年相応の管理職に就いているから、何だったら収入もそこそこある。
幼馴染みの女の子はいないし、仲のいい友達なら、数える程度はいる。
勉強は苦手だけど、馬鹿じゃあない。
運動は得意だけど、一流には程遠い。
特にこれといって特別とは言えない僕だが、特にこれといって特別なこともなく死んだ。
死因は悪性新生物である。
若者の死因順位のうち、3本の指に入る程度には普通の死因だ。
他の2つは不慮の事故と、自殺である。
そんな訳で命を失った僕であったが、どうやら死は終わりでなかったらしい。
気付けば、僕は知らないところに立っていた。
先述のとおり、僕は勉強が苦手だ。
ついでに言えば、日本から出たこともない。
だからといって、世間知らずでもないし、今この時勢ならインターネットで多くのことが知れる。
世界の絶景や秘境、都市や街々など、余すことなく。
とは言え、僕も勤勉な方じゃあないし、その全てを知ってるのかと聞かれても、首を横に降らざるを得ないのだけど。
閑話休題。
兎にも角にも、ここは僕が今までテレビやネット、ラジオや新聞などあらゆるメディアでも見たことがない、知らない場所であった。
いや、嘘をついた。
地球の何処にもない、地球の何処でもない場所なのは確かなのだけれども、僕は知っていた。
知らないけれど、知っていた。
おそらく、僕と同じような日本の若者で、サブカルチャー文化に少しでも傾倒したことがあれば、この場所は知っているはずだ。
この真っ白な世界を。
しんでしまうとはなさけない
それは違う。
この場合、出てくるのは王様じゃあなくて、
私が神だ
そうなんだろうけれど、どうも一昔前のお笑い芸人のように聞こえてしまう。
だが、しかし、である。
このような白い世界で神様と会えたなら、これは勝ったも同然だ。
いやまあ、人生は勝ち負けではないし、その人生さえも終わってしまっているのだけれど。
ともかく、チートか何かをもらえるのだろう。
望んだ力を貰えるのだろう。
生前よく妄想したものだ。
神様に能力が貰えるなら何にしようかと。
聖剣や魔剣でばったばったと敵を薙ぎ倒して快刀乱麻を演じるのもいいだろう。
もしくは、強大な魔法で悪を薙ぎ払うのも捨てがたい。
現代知識で内政を極めるというのも悪くない。
けれど、僕は喧嘩も強い訳ではないし、頭も良くない。
強い力を貰ったところで、使いこなせないだろう。
そもそも悪い大人に騙されて、最後には処刑される未来さえ見える。
だから僕は、僕自身が強くなるよりも、強い仲間が欲しい。
贅沢を言えば、若い女の子が仲間なら言うことはない。僕だって若い男だし、いろいろと。
故に、願った。
「ヒモになりたい」
了解した
貴殿をヒモにしてやろう
了承された。されてしまった。
別に良いのだけれど、人からヒモにしてやる、と言われるのはどうもダメ人間感がすごい。
別に良いのだけれど。
言うが早いか、僕の身体は次第に光の粒子に分解されて。
3次元から2次元へ、そして1次元の存在へと成り代わった。
1次元の広がりを持つ弦へと。