5.会議招集
シャルマンは緊急で会議招集を行う。
バリスタが行方不明の緊急事態、このまま見つからなければ、クリムゾン王国は大幅な弱体化を受け、周辺魔国の魔王たちが勢力拡大のためにクリムゾン王国を取り込もうと動き始めるだろう。
それに加えて、最近では人間たちの動きも活発化している。
勇者が魔界と人間界をつなぐゲートを通じて物資や領地拡大に動いているというのも配下の報告で上がっている。
そのためバリスタが行方不明なのは、幹部の間だけの秘密事項としなければならない。
協力を得た一部の配下たちには見つかったという虚偽報告をしておくか..。
最悪の場合、洗脳系の魔法を使用しなければならいことも視野に入れる必要があるな...。
バリスタがいなくなったがいなくなったと分かれば、国民は不安になり、反乱を起こしかけない。クリムゾン国が治安を維持できているのは、バリスタの存在あってこそだったのだ。
(とりあえず今は、幹部たちに情報を共有しなければ!でも、幹部たちはどうにも好きになれない。彼らと同じ空間にいると生きた心地がしないんだよな。)
シャルマンは幹部が苦手であった。
実際に会ったことがある幹部は、ごく一部なのだがシャルマンが好きになれないのにも理由がある。補佐官は幹部よりも地位は低い。
しかし、補佐官は魔王を手助けするという役割を担っているため、幹部よりも魔王と接する機会が多く魔王にとって最も身近な存在なのだ。
魔王の近くでお仕えしたいものにとっては喉から手が出るほど欲しい立場なのだ。
当然嫉妬という感情もわいてくる。
そんなに嫉妬しているなら補佐官になればよいと考えると思うのだが、実力が伴っていくと幹部に強制的に昇進となる。
幹部の特権として魔王に好きなタイミングで会いに行くことができるのだが、幹部は仕事量が多く、そっちを優先しなければならない。
そのため、結果的に補佐官のほうが魔王に会える機会が多いというわけだ。違いがあるといえば幹部たちは魔王様の事を名前で呼ぶぐらいだろうか。
シャルマンは、補佐官はとても難しい立ち位置にいるのだといつも感じている。
だが、弱音を吐いている暇などないのだ。考えるより、行動しなければなにも解決しない。
シャルマンは魔力通達を使用して幹部たちに伝える。
「緊急招集!魔王様が早朝より行方不明。直ちに大会議室まで集合してください!」
会議招集後、シャルマンを含め幹部4人が大会議室に集合した。
集まった幹部はそれぞれ鬼、少年、美少女2人といったところだろうか。
シャルマンは幹部全員を目にしたことがない。
今回初めて目にする者もいる。本当に10人存在しているのだろうか。
この国の幹部は全員で10人存在しているらしいのだがいまだかつて目にしたことがない。
シャルマンは逃げたい気持ちはあるものの、補佐官の誇りにかけて何とか耐えた。
(改めて感じる。なんて魔力だ。それぞれの魔力の質は当然異なるが、どれも洗練された質の高い膨大な魔力、同じ空間にいるだけで魔力耐性の低いものは、即死してしまうだろう。)
そう、魔力に耐性のない者は膨大な魔力放出を受けるとキャパオーバーにより、即死してしまうのだ。
通常はそうなることがないように体内に魔力をとどめておくのだが、ここには魔力耐性が低いものなどいない。遠慮は必要ないのだ。
シャルマンはこの場から逃げたい気持ちを抑えて会議の進行を行う。
「今回はお忙しい中、集まっていただき誠にありがとうございます。今回招集しました件ですが、今朝から魔王様の姿が見えません。現在引き続き、捜索中です。可能性は低いですが、王国外に亡命したという可能性もあります。このまま魔王様が見つからなければ、クリムゾン国は弱体化の一途をたどるでしょう。そこで皆様のお力を貸していただきたいと、助言をいただきたいと存じます。」
シャルマンは自身の鼓動が普段より、とても大きく感じた。
悪魔に心臓があるかどうかと聞かれたらないのだがあったら爆発寸前だろう。
この報告をすると、明らかに動揺と怒りで周囲の魔力が跳ね上がった。
「どういうことだ!!バリスタ様が見つからないだと?どうなってるんだ小僧。お前は補佐官だろう。魔王の居場所は常に把握していなければいけないんじゃないか?このまま見つからなかったらお前の首をきりおとすぞ。」
大柄とは一言で表せないほど筋骨隆々な鬼が会議室全体に響く大きな声で叫んだ。声で会議室全体
が震えているようだ。彼の名は金剛丸。幹部の一人だ。
シャルマンは息が詰まるような殺気を感じる。
(恐ろしい。金剛丸様は気性が荒いんだよな。たまに廊下ですれ違うことがあるがいつも怒っているようにみえるんだよな。ほんとに苦手だ。)
その言葉に対して優しく言葉をかける少年、
「まあまあ、落ち着きなよ金剛丸。怒っても何も解決しないよ。報告ありがとうシャルマン。金剛丸も悪気があって言ってるわけではないんだ。彼なりの心の引き締めってやつだ。それでほかに何か隠していることがあるねシャルマン?」
そのひとことで金剛丸は何事もなかったことのようにおとなしくなった。彼の名はメルティ。噂だとバリスタの幼馴染で実力は魔王様に引けを取らないらしい。
見た目は美少年って感じだが相当な化け物だろう。
(助かった~。ナイスタイミングすぎる!幼馴染ということもあってか魔王様に雰囲気も似ているお方だな。しかし、鋭いお方だ。まだ話していないことも感づいておられるのか?魔王様みたいに心を読まれてるみたいだ。)
だが、いちいち驚いても仕方ない。
シャルマンは冷静に追加報告をこなす。
「はい。実は魔王様の部屋に伺った際、魔王様の存在を確認することはできなかったのですが、魔王様と同じ性質を持ち、魔力量が魔王様を超える赤子を発見いたしました。私は直ちに赤子を保護し、メイド担当の配下たちに見守っていただいております。」
すると、それを聞いた紅い髪をした美しい幼女が顔を赤らめ、目を輝かせて話し始める。幼女ではあるがどこか大人の色っぽさを兼ねそろえた妖艶な美を放っていた。サキュバスとかいう種族らしい。
「赤子ですか?それはぜひとも一度拝見したいものでございます。私、子供はとても大好物なんです。穢れが一つもない子供の瞳ってなんだかゾクゾクするのよねぇ。まあバリスタ様を超える方は現れないと思いますけど。私、バリスタ様がどうしてもというなら体を喜んで体をさしあげますわ。あなたもバリスタ様と私お似合いだと思わない?」
「あ...えっと...。」
(なんだこの人。とんでもない性癖しているじゃないか。幹部の中にはこんな強烈な方もいるのか。黙っていれば、モテるとはこういう方をいうのか...。)
シャルマンが質問に答えるのに困っていると、話を遮るようにもう一人の少女が話に入ってきた。
先ほどの妖艶な少女に対してこの少女はいかにもおてんば娘って感じだ。髪色は金髪で顔立ちは整っていて、とがった八重歯がトレードマークとでも言っておこうか。
彼女はヴァンパイアらしくとがった八重歯がトレードマークだ。
「何を言ってるのエミリー。バリスタは渡さない。私はバリスタにプロポーズしているんだから!
その赤ちゃんは、たぶん神様が私とバリスタのために贈り物として届けてくださったのよ!
バリスタは私のものなんだからね!!」
その言葉をきっかけに2人に火が付いたらしい。
どうやらシャルマンは知らなかったが魔王様は2人にとても人気があるらしい。
「何よ、ミリア。でもプロポーズの返事はかえってきてないんでしょ?ヴァンパイアなんだからあなたは死体の血でも吸っとけばいいのよ。」
「うるさい、エミリー。あんたこそサキュバスなんだから一途なんて言葉は似合わないわ。
バリスタは私に譲ってその辺の男で満足するのね!」
(このままじゃ話が進まない。どうにか軌道修正しないと...。)
シャルマンが止めに入ろうとすると、それを見抜いていたかのようにメルティが動いた。
「はいはい。お二人ともその辺にしといてー。まずはこれからどうするか話し合わないと。」
その言葉に金剛丸も同意を示す。
「まったくだ。幹部として冷静さに欠けるとは情けない。」
「悪かったわミリア。私としたことが少し熱くなりすぎたわ。」
「こっちこそエミリー。話し合いはまた今度にしましょ。」
ナイスタイミング!何とか話し合いに持っていけそうだ。
(それにしてもメルティ様ナイスすぎる!!まあ、おとなしくなってくれただけ感謝するけど...。)
幹部が落ち着いてきたところでシャルマンはバリスタが消えた仮説とあらかじめて決めておいたこれからの案を提案する。
「皆様、私もはっきりとは断定できませんが魔王様はおそらく召喚魔術を行った際、何らかのトラブルに巻き込まれたのでしょう。しかし、原因を探るにしても召喚魔術の知識で魔王様の右に出るものはいません。召喚魔術の解析はとても困難となるでしょう。しかし、分かったことが一つだけ。
先ほど国内の調査隊から報告がありましたが、その赤ん坊は魔法陣から召喚されたという形跡があったそうです。つまり、転生者を召喚するという段階まではうまくいったようで、この赤ん坊は間違いなく転生者でしょう。魔王様と魔力の質は同様で魔力量なら、魔王様の倍以上だと思われます。問題は赤子ということですが、私たちが教育して正しく魔力を使いこなせることができれば魔王様と同程度もしくはそれ以上の力を持った、次世代魔王になることができるという可能性がございます。対して魔王様ですが、失敗したとはいえ魔王様の事です。必ず帰ってくるでしょう!
私は、この赤子。いえ、この転生者を魔王候補として提案します!!ただそれまで魔王の席は空白になり、国力の低下が考えられます。そこで皆さまのご意見をご教授ください。」
(言った。言い切った!もう悔いはない。ここで失言として処刑宣言されたとしてもそんな簡単に権力をふりまわす国ならこっちからごめんだ。)
シャルマンが言い切った後、会議室内はさらに魔力で満たされ、空気中の魔力がキャパオーバーしようとして崩壊寸前だ。
(やってしまった。怒りに触れたか?)
シャルマンが死を覚悟したとき、幹部たちは皆、口を開く。
「素晴らしい!!よくぞ決断した。それでこそ真の漢というものだ!我もそう思うぞ小僧。今日初めて話したときは頼りない奴だと思ったがはっきりと言うではないか!バリスタ様もいらっしゃったら同じことを言うだろうよ。もちろん我は賛成だ!!魔王の座は空いていても問題なかろう。
この国の最強核10人をなめちゃいかんぞ!全力で支えてやる!」
「シャルマン君、僕も同意見だ。最初君を見たとき、この会議はどうなってしまうのかと思ったけど僕の意見を主張する前によい提案をしてくれたね。バリスタも喜んでいるだろう。誇りに思うよ。もちろん僕も賛成だよ。」
「いいこと言うわね。こんなに根性あること話す男は久しぶりに見たわ。あなた私の男にならない?」
「あなた、バリスタが認めただけあっていいこと言うわね!勘違いしないでよね。バリスタが認めているから私も認めるんだから!」
どうやらうまくいったらしい。先ほどの魔力膨張は興奮によるものから発生したものだった。ほんとに扱いづらいお方たちだ。だが、思っていたより、幹部の方たちは優しかった。
何よりも大きかったのは魔王様が事前に転生者を魔王候補にすることを表明してたことだろう。
これがあるとないとでは話の進み方は違ったはずだ。
この案にのっとって施策を行う際、基本的にクリムゾン法では魔王が不在の場合、過半数以上の幹部の承認が必要となる。今回の議会では4人の幹部が承認し、残り一人というところではあったがこの4人がほかの幹部に話を持ち出してくれてどうにか承認を得てくれたらしい。
しかも、特にその中で金剛丸様が最も頑張っていたというのだから驚きだ。
(まったく、恐いお方だと思ったが案外優しくて憎めないお方だ。)
こうしてシャルマンはバリスタや幹部に誓って赤子を育て上げようと決意した。
加えて魔王様が不在なことをどう隠すかという新たな問題点がでてきたがメルティ様が変身魔法でごまかすという結論に至った。
うまくいくかどうかは分からないが信じるしか道はないだろう。
シャルマンは、宗教の信仰などしていないが不安を少しでも和らげるために祈り始める。
「クリムゾン王国に栄光あれ。」
主人公が出てこないと思った方へ
主人公の話を中心に書きたいと思っているのですが話の入りが難しかったので
転生の背景を書かせていただいています。
今はシャルマン目線多いですが本題に入れば主人公多めで書こうと考えてます。
応援よろしくお願いいたします