第十六話 純潔の神王様は愛が重いらしい
とりあえず、色々思うところはあるが、気にしないことにした。
「おはようございます。シオンさん」
「ふぁい。おはようございます。ユウさん」
廊下を歩いていると、シオンさんに会った。・・・寝不足に見えるのは気のせいか?
「何だか眠そうですけど、大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。これでも鍛えているので」
そう言って、微笑みを浮かべるシオンさん。それでも、疲れた顔が見え隠れしている。
これは休ませた方がいいな。
だが、どうする? ただ単純に休んでと言っても、真面目なシオンさんが素直に聞き入れるとは思えない。
だからといって、強制的にお休みさせる力は俺にはないわけだが。
よし。こういう時はーー
「ーーっていうことがあったんだけど、どうすればいいかな?」
「あの〜ユウさん? ここは雑貨店であって、相談所じゃないんですよ?」
とりあえず、ベルのところに行ってみた。ちなみにレナさんも一緒である。
さて、ベルが何やら言ってるようだが、魔王と知り合いの時点で一般人じゃないことは分かってる。
しかし、ベルに聞くのは意外とまともな選択だと思っている。
え? メリアとルシ? ・・・・・・あの二人からまともな提案が出てくると思えない。
「コホンッ。まぁいいでしょう。それだけ信頼してくれてると思えば。さて、つまりは息抜きできれば、良いと言うことですね」
「まぁ、そうだな」
「そうですねぇ〜。ここーー『フローリア』はどうでしょうか? もうすぐ収穫祭がありますし、息抜きできると思いますよ」
ベルは広げた地図に指を差しながら言った。
へ〜。収穫祭か〜。楽しそうだな。
ん? フローリア? レナさんのフローレンと名前が似ている気がする。
レナさんの方を見ると、目があった。すると、レナさんは微笑んで説明してくれた。
「流石、ユウさん。気づきましたか。私はフローリア出身です。フローリアはエルフの街で、毎年この時期になると、収穫祭を開きます。それに平和祭あるので、通常よりもとても賑わいます。店主さんの言う通り、シオンの息抜きにぴったりだと思います」
なるほど、タイミングがいいな。俺も参加してみたいし。
「よし! そこにしよう。って、どうやってフローリアに行くんだ?」
地図を見る限り、馬車とかで行くには適さない気がするが。
「ああ、ユウさんは異世界人ですから、知らないのも無理ありませんね。この世界には飛竜便というものがありまして、飛竜に運んでもらうことができるんですよ。ユウさんの世界のヒコウキって言うんでしたっけ? あれと同じです」
ベルが分かりやすく説明してくれた。
お〜! 竜か! ファンタジーの定番だよなぁ。
「ともかく、まずは提案してみてはいかがでしょう。オススメの方法はーー」
「フローリアの収穫祭ですか?」
早速屋敷に帰って、シオンさんに提案した。
「ああ、なるほど。レナから聞いたのですね。つまり、その収穫祭に参加してみたいと?」
「良いのでは? 最近、お嬢様も仕事ばかりですし、ここらで休憩してはどうですか?」
シフォンさん、俺は貴方が普段の性格とは違って、ここっていう時にやってくれると信じてましたよ。
そう、ベルのオススメの方法とは予め周りの人達に協力をしてもらうことだ。
これなら、いかに真面目なシオンさんであっても、提案が通るに違いない!
「・・・・・・まぁ、そうですね。後はそこまで重要ではない物ばかりですし、少し手を止めても良いかもしれませんね」
よし! 俺は心の中でガッツポーズした。
「では、神崎さんと水沢さんに伝えてきます」
俺はそう言って、執務室を出て、二人の所に向かった。
「ふふっ。ユウさんはあれでバレてないのと思ってるのでしょうか?」
私はユウさんが出て行くのを見て、そう呟いた。
「シフォン。貴方も協力してますしね」
今、紅茶のお代わりを入れてくれている『妹』を見る。
「流石に『お姉様』にはバレますか」
「これでも一応、人界で二番目に強い『白銀の戦乙女』と呼ばれていますからね」
シフォンが入れてくれた紅茶を飲むと、
「しかし、あのお姉様がすんなり提案を受けるとは、やっぱり惚れた男には弱いですか?」
「うっ、まぁ、そうですね。それにしても、ユウさんは自分が倒れたにも関わらず、他人の心配をするとは」
「そこに惚れたのでしょう?」
「うっ」
私は知っている。彼が私だけでなく、沢山の人を気にかけていることを。
「ユウさんはいい意味でも悪い意味でも純粋です。何というかほっとけない人ですよね」
だから、私は彼が好きになった。例え、彼に嫌われていても、彼を守れるならと。
貴方は知らないでしょう? 貴方にそういう意味ではなくても、好きだと言われた時、私がとても安堵していたことを。
「とりあえず、私達も準備しましょうか」
「はい。お嬢様」
神崎さんと水沢さんに旅行の件を伝えて、自室に戻ると、
「やっほ〜。ユウちゃん」
・・・・・・アスモがいた。
「この際、不法侵入は気にしませんが、一体何用でこちらにこられたのですか?」
「あれっ? 他人行儀!? ユウちゃん? 何か怒ってる?」
「いえいえ、何か厄介ごとがきたな〜なんて偉大なる魔王様にそんな不遜な事を考えるはずないでしょう? HA、HA、HA」
「やっぱり、怒ってるよね!? 待って待って、別に何もしないから! ただ、ユウ君が倒れたって聞いたから、心配で・・・」
あれ? 意外とまともな理由だった。心配で来てくれた人にいくら性格があれだからって、決めつけは良くなかったな。
「まぁ、本音は寝ていたら、襲っちゃおうと思ってただけなんだけどねって痛っ!」
おい。人が折角見直そうと思ったら、台無しになったじゃないか。
とりあえず、黒桜を出して、アスモの頭を叩いた。
「もう、ユウちゃんったら、ドS? SMプレイが好みなの?」
「・・・・・・」
俺は何も言わず、黒桜を鞘から抜いた。
「ごめんごめん! 冗談だから、それ閉まって!」
「はあ、全く」
黒桜を消すと、改めてアスモに尋ねた。
「それで、本当に何の用でここに来たんだ?」
「だから、ユウちゃんを襲いにーー」
「それが嘘だってことは俺でも分かるぞ」
「・・・・・・」
「いや、嘘ではないんだろう。だが、さっき、俺を心配していたという事を『建前』だとは言わなかった」
「はあ〜〜。全くユウちゃんってば、鋭すぎるよ〜〜。そうだよ。倒れた事とは別件で心配があったから、忠告に来たの」
「忠告?」
「うん? 多分、近いうちに『純潔』の神王ーーメタトロンが来ると思うけど、注意してね」
「注意?」
純潔の神王に注意? 一体どんな方なんだ?
「メティはね・・・・・・」
「・・・・・・」
「物凄く愛が重いの」
はい? いや待って? ドユコト?
「まぁ、もちろんユウくん限定なんだけどね」
え〜〜。
えっと。どうやら、純潔の神王様は愛が重いみたいです。
???「実際の所どうなんですか?」
傲慢「う〜ん。愛が重いっていうよりは、ほら、彼女って純潔を司るから、純粋な物が好きでしょ?」
???「そうですね」
傲慢「でさ、ユウくんって心が白い塊みたいな物だからさ。ぶっちゃけ、彼女の好みのタイプにドストライクなんだよね」
???「あ〜。なるほど」
傲慢「だからさ、愛が重いというより、愛が溢れるんじゃないかな」
???「どちらにしろ大変ですけどね」