第十三話 この身が抱くのは 【ルシフェル視点】
ーー最初はただの興味だった。
ーーメリアが興味を持っていたから、私も会ってみよう。ただ、それだけだった。
ーー聞けば、彼は今回の異世界召喚に巻き込まれたのだそうだ。
ーー私が思ったのはただ「可哀想」だった。
ユウがメリアと別れて少し後の事ー
「ねえ、メリア。その子・・・・・・えっと、幻桜ユウ君だっけ? どこが気に入ったの?」
ここは神性領域。神族達は神域と呼んでいる場所だ。目の前にいるこの世界の創造神ーー『メルトリア』が許可した者しか入れない場所である。
現在、メリアが創った椅子に座って、雑談している。
ちなみにこの創造神が特定の何かを気にいるのは絶対に『ありえない』ことだった。
「どこが・・・ですか? そうですね。強いて言うならば、心ですね」
「心?」
「はい。彼の中にはさまざまなものがあります。『人を助けたい』『人に甘えたい』『人に好かれたい』 他にもありましたが、とりあえずはこのくらいでしょう」
「?どう言う事?」
よく分からなかった。いや、心は分かるのだが、なぜメリアが気にいるのかが分からない。
「わかりやすく言えば、庇護欲です。これは貴方も感じたでしょう?」
「うん。そうだね。中々に不思議な子だったよ」
そうなのだ。あの幻桜ユウという青年の在り方は何というか物凄く危ないのだ。例えば、ここを見ているようで見ていないのだ。まるで、本を眺めているかのように。
「それはユウさんがこの世界に来た時の最初の印象でしたが、実際に話してみると少し違ってました」
「どう違ったの?」
「彼は私に怯えなかった。貴方以外の誰にもできなかった事をした。人の身で私と対等であることができた。それだけで私が気にいる・・・・・・いや、『恋をする』のは充分でした」
「ッ!?!?」
この発言には驚きしかない。あのメリアが恋と言ったのだ。かれこれ、数万年以上の付き合いだが、ここまで、メリアが感情を出しているのは私が知る限り初めてだ。それにメリアが微笑浮かべている。いつもの無表情と比べると上機嫌であることは容易にわかる。
同時にこれを神王達に見せたら、全員、倒れるだろうな。美しさで。とそんな事を考えているとある事を思いついた。
「メリアがそんなに言うなら、私も会ってみようかな」
「良いと思いますが、何をするつもりですか?」
今、メリアにはルシフェルの顔が悪い事を企んでいるように見える。
それは当たりで、ルシフェルはユウの誘拐作戦を企てている。
アスモを誘ったら、絶対に乗ってくる。私が堂々と誘拐するのは流石にまずいから、ベルゼビュートにも協力してもらって、それから、シルファ達にパーティーの準備をしてもらって、あとは・・・・・・
「メリアごめん!ちょっとやらなくちゃいけないことできたから、帰るね!」
「そうですか」
そして、私は転移して、準備に向かった。
結論から言ってしまえば、大成功だった。準備は滞りなく完了し、ユウ君をパーティーに招待することができた。
そして、メリアが言いたいことが分かった。ユウくんは私が魔王だって分かっても、対等でいてくれる。ユウ君には分からないかもしれないけど、私はとても嬉しかったんだ。そして私は彼に恋をした。彼と言う存在は私が長い間待ち焦がれていたのだから。
新年パーティーではユウ君にエスコートしてもらった。まあ、ウルもいたけど。
すごいと思った。ウルは『誓約』を司るから、メリアとはまた違った意味で公平だ。そのウルがここまで、気にいるなんて。
気づいたのだが、彼は何の気恥ずかしさもなく、人を好きだと言い、すごい褒める。
私も「可愛くて頼りなる」と言われて、思わず顔が熱くなったよ。
そして、パーティーが終わりになる頃、私は彼の様子に気がついた。見るからに具合が悪そうなのだ。だが、本人は何も感じてはいなさそうだった。ウルやシオンちゃん達も心配していた。
だから、「私が見ているから、安心してて」と言った。実の所、彼の状態はメリアからパーティーの時に聞いている。そのため、事情を知ってる私が適任だと思ったのだ。・・・・・・いや、それは建前か。本音は一緒に居たかったのだ。彼の様子を見て、ずっとそばにいたいとそう思ったのだ。
そして、私はユウ君に一緒に寝ようと言った。当然、恥ずかしかった。ユウ君もそのようで、あれこれと理由をつけて、逃れようとしていた。だから、私はメリアから聞いた『男の子にいう事を聞いてもらうための行動』をした。効果はバツグンだ!ユウ君も渋々ながらも了承してくれた。あのメリアにしては役に立つ事を言ったものだ。
そして、彼の頭を撫でながら、言葉をかけ続けた。ユウ君は途中から泣いていた。とても穏やかな表情で。
私はもっと私に心の内を出して欲しいと思ってしまった。
ああ、怪物だった私がこんなに執着するなんて。
私の愛しい愛しいユウ君。今はどうかこの腕の中で安らかに。