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第7話 300年経っていた

「私達は近隣のクールー村の依頼を受けてゴブリン狩りに出ていたその帰りだったのですが、この道にまさかあんな大物のモンスターに遭遇するとは。本当に運が悪かったです」


「この辺りはモンスター出ねぇのか?」


「はい。冒険者組合に所属している者たちが、国からの依頼を受けてこの辺りは巡回していますので。

普段は出たとしてもオークやゴブリンまでですね」


「ふーん」


グレイは興味があるのか無いのかよく分からない態度で話を聞く。


「お礼は必ず支払います。ですが、私達は今出稼ぎとして出ている身ですので、まとまったお金は組合に預けているんです。申し訳ないのですが、町に着くまでお待ち頂けませんか?」


「かまわねーよ」


「とりあえずは、今手持ちにあるこちらのお金を受け取ってください。後で追加で支払いますので」


グレイは小さな袋に入ったお金を手に出して確かめる。


女性の顔が彫り込まれているコインには、4530の文字も刻まれていた。


「ん・・・・?・・・なぁ、今誕歴何年だ?」


「えーと、今は誕歴4536年ですね」


次の瞬間、グレイはドミトリーの胸倉を掴み、カルでさえ見たことのない様な殺気に満ちた顔で怒鳴る。


「おいテメェ!嘘つきやがったら承知しねーぞ!!!!」


「ひっ・・・」


馬車の中が騒然とする。


カルでさえ、グレイの怒鳴り声にびくっと体を震わせた。


ドミトリーはカタカタと震え、少しでもグレイをなだめようと両手を上げながら告げる。


「うぅ、う、嘘ではありません。ほ、本当に4536年です・・・」


グレイはしばらく黙った後、すっとドミトリーの胸倉を離した。


「・・・すまない。取り乱した」


「い、いえ・・・」


むすっとした表情でグレイは腕を組んで下を向く。


カルはいったいどうしたのだろうかと戸惑っている。


車内はかなり気まずい空気だ。


カルはさすがに心配したのか、グレイに顔を寄せてクンクンと匂いを嗅ぐ素振りを見せる。


グレイはぐしゃぐしゃっとカルの頭を撫でた。


「悪ぃ。お前にはまた後で話すよ」


顔を上げたグレイは、少し悲しそうな笑顔を作っていた。


「ドミトリーさん、悪かったな。お詫びにあんたのチームを回復してやるよ」


「えっ?」


ドミトリーがきょとんとしたのも束の間、グレイが右手を上げると辺りが光りだした。


すると怪我で横になっていたものや、腕や足を骨折していたもの達がみるみるうちに治っていく。


「え、今何を?もしかして回復魔法を使われました?」


「ん?ああ、そうだ」


「グレイさんは治癒魔法使いだったんですか!しかも無詠唱とは・・、そういったものがあると噂には聞いてましたが凄いですね。

仲間を回復して頂き、ありがとうございます。しかしこれでは、お礼に見合うものをお渡しできません・・・」


「いや気にしなくていい。俺の詫びだ」


「いえ、何か事情があったのでしょう。グレイさんも気にしないでください」


車内は空気が悪かったのが嘘のように、怪我が治った剣士達の喜びの空気に満ちていた。


グレイが穏やかになったおかげなのか、他の剣士が話しかける。


「しかし、グレイさんっていうのも珍しい名前ですよね」


「キュ?」


「お、君は分かんねーよなぁ。昔、『黒寄りのグレイ』っていう異名を持つ大魔法使いがいたんだよ。結構有名な話でな。」


カルはしっぽを振りながら興味津々でその話を聞く。


「黒、白、灰の話は知ってるか?」


カルは顔をぶんぶんと横に振る。


「神のご意思で、精神が悪のものの中で一番の強者は、身に着けるもの全てが黒に染まっちまうんだ。

その逆もあり、白は正義、そして白にも黒にも属さないものが灰ってわけだ。」


「武器は別って聞いたけどなー」


「いや、俺は武器や鎧、髪まで染まるって聞いたな」


その話を聞きながら、他の剣士達も意見を言い合う。


「それでな、一昔前に断トツで強かったと言われている1人の灰がいたんだ。それが黒寄りのグレイ。

ガーディアンっていう召喚獣を4人も従えててな、そりゃ勿論3色の中で一番強かった。

まぁ、いつの時代も3色の中で灰が一番強いって言われてるんだけどな。白も黒も多いわけでは無い。大多数が灰寄りだからな。

その黒寄りのグレイってのは、大多数の灰の頂点。しかし、その性格は灰というより黒に近かったと伝わっているんだ」


「いくつもの町を潰したとか、気まぐれに山を吹っ飛ばして焼け野原にしたとかな」


「俺は神に喧嘩を売ったって小さいころ絵本で読んだ」


「その大魔法使いの名前が大きすぎるせいで、あまりグレイっていう名前は使われねーんだよ。まぁ、黒寄りっていうのもあるだろーけどなぁ」


「しかし、ガーディアン4人ってのがすげーよな。王国にいる最高位の魔法使いでも2人だろ?」


「スペルス共和国にいる白の御仁も2人らしいしな。灰の御仁は・・・確か3人だったか」


カルが楽しそうに剣士達の話を聞いていると、無表情だったグレイが突然口を開いた。


「7人だ」


剣士達は皆「えっ」と口を揃えた。


「俺が契約していたのは7人だ。黒寄りのグレイっつーのは俺のことだ。300年前はそう呼ばれてた」


剣士達は戸惑いながらも、冗談だと思ったのか控えめな笑い声があがる。


「は・・・はは。グレイさんは冗談とか言うタイプなんすね」


「冗談なんかじゃねぇよ。信じても信じなくてもどっちでもいいけどな。

だが、黒寄りのグレイは7人と契約していた。4人じゃねぇ。

俺の家族をいないことにすんじゃねぇよ」


相変わらず無表情のグレイに、にわかには信じられない話ではあるが笑い飛ばすわけにもいかない空気で、車内は静まり返る。


「ああ、あと、気まぐれに山を吹っ飛ばしたんじゃなくて、あれはガーディアン達が喧嘩をしたら山が吹っ飛んでただけだ。

町もそんなに潰してねぇし、神に喧嘩を売ったんじゃなくて、喧嘩を売られたから買っただけだ」


「へ、へぇ~・・・。そう、なんですね・・・」


(町を「そんなに」って、結局町は潰したってことか?)


(ガーディアン同士で喧嘩だと!?そんな事この世であっていいことなのか!?)


(いや、そもそもこの人本当に黒寄りのグレイなのか?灰に染まってねーけど・・・)


(神の喧嘩を買った!?ってか、神様って本当にいたの!?町に帰ったらちゃんと神殿でお祈りしよう・・・)


剣士達は様々な思考を巡らせていた。


グレイはまた口を開く。


「なぁ、さっき王国と言ったな。なんて名前の国だ?」


「あ、ああ・・・えっと、ここはイスガニア王国ですよ。今から行く町は、王都から北に位置するニューアートという町です」


「聞いたことねぇな・・・。クルシェットとか、ビアンゴって国は知らねぇか?」


「いえ、存じませんね。初めて聞きました」


「クレモア、ユースラシア、コンドラは?イグニル魔法学院は聞いたことねぇか?」


「コンドラやイグニルは聞いたことはありますね。確か王国最高位の魔法使いはイグニル魔法学院の出身だとか。

しかし、どちらも正確な場所までは分かりません。グレイさんはコンドラからいらしたので?」


「いや、ただの迷子だ」


「そ、そうですか・・・。もし位置を確認したいのであれば、町にある図書館で調べてみるといいかもしれません。

ニューアートは王都に次ぐ大きい町ですから、図書館もそれなりに大きいですよ」


「ああ、町に着いたらそうしてみるよ」


しばらく走っていると、ようやく町の門が見えた。


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