第2話 ポジションは弟
灰色のカーバンクルを拾った男は、つり目で灰色の髪をした人間だった。
フードを目深にかぶり、肩に紐付きのバッグをひっかけている。
その人間はカーバンクルを抱え移動し始めた。
洞窟のような場所へ到着すると、人間はカーバンクルに手をかざし光を発する。
するとカーバンクルの怪我はみるみる内に治っていった。
怪我が治り切ったところで、カーバンクルは目を覚ます。
カーバンクルの目の前にはいきなり見たことも無い生き物。
なんだこれ、が最初の感想だった。
体の怪我が治っていることに気が付いたカーバンクルは、戦えると思ったと同時に威嚇を開始する。
「グルルーー」
ゴンッッ
唸り始めた途端、その男に殴られる。
あまりの早さに、頭がじんじんと痛み出すまで何をされたのかも分からなかった。
「おい、お前を助けたのは俺だ。俺に向かって唸ったら次は2発殴るからな」
何かを言っているのであろうが、言葉が分からない。
カーバンクルはもう一度威嚇を開始する。
「グルーー」
ゴンゴンッッ
痛みが重なる。
「お前カーバンクルだろ?カーバンクルっていう生き物はもう少し賢いはずなんだがな」
「グーー」
ゴンゴンゴンッッ
なるほど、とカーバンクルはようやく気付いた。
自分が唸るたびに殴られる回数が増えている。
そして、この男の攻撃が見えないのであれば自分に勝ち目はない。
であれば、殴られて腹は立つがこの男に勝負を挑むのは止めておくべきだろうと。
「お。その顔はようやく分かったか」
「・・・・・」
「さて、ご褒美をやろう」
男はバッグに手を突っ込み、掴んだ肉をカーバンクルに向かって投げる。
怪我が治ったとはいえ、腹は極限まで減っているし肉を食べたいのだろうが、カーバンクルは戸惑っている。
「食えよ」
「・・・・・」
「食えって。毒なんか入ってねーよ」
男はそのまま自分の肉も取り出すと、もぐもぐと食べ始めた。
その様子を見て、カーバンクルも匂いを確認して食べ始める。
「お前の名前決めねーとなぁ。カーバンクルだろ~・・・
じゃあお前は今日からカルだな」
男は自分とカルを交互に指をさし、カルに語りかけるように繰り返す。
「俺グレイ、お前カル。グレイ、カル。グレイ、カル。な!」
「・・・・・。」
男はニカッと笑い、カーバンクルに向かってそう告げる。
カーバンクルは、恐らく自分のことを「カル」と呼んでいるのだろうと悟った。
グレイと名乗った男は続けてカーバンクルに話しかける。
「さてと、飯も食ったしもう寝るか。カルも寝とけよー」
そう言って、男は横になり「カーッ」といびきをかき始めた。
カルはグレイをしばらく見つめた後、このまま逃げるか考える。
外を見ると、雨は降っているし薄暗い。
しばらく考えていたが、心地よい雨音のせいで眠くなり、そのまま考えるのを止め眠りについた。
「カル、そろそろ起きろ。朝飯だ。朝飯っつーか昼飯だな」
翌日カルがグレイに起こされた時には、すっかり日が昇っていた。
「お前よく寝てたな~。俺が起きてもまだ寝てるなんて、お前は番犬に向いてねーな」
何を言われたのかは分からないが、恐らく当分前に起きていたのであろうグレイに気が付かずずっと寝ていた自分にショックを受け、その感情が表情に出る。
「ハハッ。まぁそんな落ち込むなって。ほら、飯だ」
そう言ってグレイは昨日と同じ肉をカルに向かって放り投げた。
カルが昼食を食べ終えると、その様子を見ていたグレイは立ち上がり話しかけた。
「よし、行くぞ」
カルは歩き始めたグレイをどうすればいいのか分からずただ見ていた。
グレイは歩き出さないカルに気付き、また話しかける。
「何やってんだよ、お前も行くんだよ。一緒に旅しよーぜ」
「・・・・・?」
「ん~・・・。お前1人じゃこの森で生きていけねーだろ。とりあえず俺に付いてこい。
俺らはもう家族だ。ポジションは~・・・俺の弟な。他にも家族はいるんだが・・・まぁ追々紹介するよ。
家族は一緒にいねーとな。ほら、来いよ」
そう言ってグレイはまた歩き出した。
何を言われたか分からないが、カルはなんとなく付いて来いとグレイが言っている気がした。
家族に捨てられた今、生きる道は強者に付いて行くしかない。
1人で彷徨うよりはましだろうと判断し、こうしてカルはグレイの旅に付いていくことにした。