第1話 カーバンクルを拾う
数ヵ月前、カーバンクルと呼ばれる獣が生を受けた。
耳が長く、顔は狼に似ていて、体系は狼よりすこし丸っこい。
成獣となれば大人の人間の胸あたりまでの大きさになる。
そのカーバンクルの兄弟の中でたった1匹、毛並みが違うものがいる。
兄弟も親も輝かしいほどの鮮やかな緑の毛色なのに、その1匹だけが灰色なのだ。
その灰色のカーバンクルは、当然のように兄弟達から嫌われた。
親から乳をもらおうにも、兄弟達が邪魔して上手に飲めない。
3ヵ月が経ち、肉が食べれるようになってからもそれは続いた。
食事にありつける兄弟達との体格の差は、半年が経つ頃には明らかになっていた。
ある日、母親に連れられてその灰色のカーバンクルは初めて遠出をした。
兄弟達が狩りの練習に連れていってもらっている中いつも留守番だったが、やっと自分も連れていってもらえるのだと心が躍る。
初めての巣の外の世界が楽しくて、足取りが軽い。
新しいものを見るのも聞くのも楽しかったのだが、いつまでたっても狩りの練習が始まらない。
母親に咥えて貰いながら崖を登ったり、大きな川を泳いで渡ったり、いつの間にか一週間が経過していた。
木の実や果物を食べながら移動していたのだが、そろそろ肉が食べたいと思っていた頃、ちょうど母親が肉を持って来た。
今は兄弟達がいないので、独り占めできると喜んでその肉にかぶりついた。
食べ終わる頃、母親はもういなかった。
灰色のカーバンクルは、すぐに母親を探した。
はぐれたのだろうか、それともまた狩りに行ったのだろうか。
薄々は感づいていたが、認めることができない。
きっとはぐれたのだとカーバンクルは自分に言い聞かせる。
獰猛な猪に追いかけまわされ、蛇に噛まれ、熊に吹っ飛ばされ。
ボロボロになった頃には、ようやく認めることができた。
自分は捨てられたのだと。
そうして静かに横たわっている時、かつて世界最強だった魔法剣士に拾われた。