どうやら私は死んだようです ~前編~
篠原 一香。
ゲームの道を究めたゲーマである。
休日の9割はゲームに費やしており、学校なんて何の意味があるんだと文句を言いながらも、ちゃんと学校に行っているゲーマー。
一応引きこもりではありませんよ。
帰宅部という暇人が集まる部活に所属しており、帰り道にはゲームセンターに寄り店員さんが泣くほどにクレーンゲームの商品を取りまくり、家に帰ればテレビをつけて最新ゲームのswitchをやり、ご飯を食わずにエンドレスゲーム。
人生の3分の2がゲームで埋め尽くされているもんだった。
親は共働きで、私に関しては完全スルー状態。
朝は机に野口を3人を置いて「これで食事は何とかしろ」と言われてなくても伝わってくる。
元々小食だから野口3人は多すぎるぐらいだけど、余ったお金はゲームに費やすことにした。
両親二人は学校の行事は仕事を理由にこないし、家に帰って来ない日もある。
だが、私はそれをいいことにして夜中はゲームで深夜テンションの状態。
学校はいけば何も文句は言わない親だったし、正直小さいころからこんな冷めた関係を持っていたから苦ではなかった。
しかし、それらが原因で私は死ぬことになった。
原因は、栄養失調と睡眠不足(あと過労も入っていた)による生活の原因で死亡。
ああ何と呆気ない。
だってこんな、30年代のおっさんがしそうな死に方をして16歳の私は恥ずかしく死にそうになった。
いやもう死んでいるか。
死んで今、私は天界と呼べるところに来ていたのだった。
我ながらびっくりしている。
自分が死んだことにまだ自覚ないし、天使とかいう想像上の生き物って本当にいるんだなぁと感心している。
天界に来た私の目の前には、受付らしい天使が立っていた。
うわ、翼生えてんよすげぇ。と呑気に考えていたら、天使が私のカルテを見ながらしゃべった。
「篠原 一香さんですね?」
「はい」
「確か、生活の原因による死亡…。失礼ですがあなた高校生ですよね?」
「そうですが」
「いやすいません。中年男性のような死に方をしたなぁと思いまして」
ほっといてください。
親に叱れていないせいで自堕落に生きた結果がこれなんです。
「高校1年生で、趣味はゲーム。好きなものはゲーム。休日の過ごし方はゲーム。嫌いなものはバグとクソゲーって全部ゲーム関係じゃないですか!」
「ええ、まぁ」
照れる様子も恥じらう様子もなく、堂々と答えてやると受付天使はあり得ないと言わんばかりに、顔をしかめて驚いた。
「高校1年生にして青春を謳歌していないなんてっ!嗚呼、神よ!この哀れな少女に救出を!」
「祈っているところ悪いんですけど、私もう死んでますが…」
いちいち失礼な天使だ。
手を組んで目をつぶっていて真剣に祈っているところ悪いが、私は自分の生き方には後悔はしていない。
死に方には、後悔だらけだが。
「しかし、ゲームが趣味だというのなら。ちょうどいいです」
「?それは、どういう意味で?」
「あなたには、これから二つの選択肢があります」
「二つ?」
驚く私に、天使は指を立てて説明をした。
「一つ、また同じ世界で生まれ変わる事。記憶を完全消去して、どこに生まれるかはわかりません」
「まぁ、魂のリサイクルってやつですね」
「ええ、よくある転生ですよ」
天界だし、そんなもんだろうなーと思っていた。
「そして、もう一つは記憶を引き継いで異世界に生まれ変わる事」
天使が指を二つに立てて、意味深な笑いを浮かべる。
ふむ。よくある異世界転生か。ラノベとかアニメの話ならありがちだな。
「え!そんなことできるんですか?」
「ええ!あなたにはその世界で今度こそ青春を謳歌して欲しいのです!」
「わぁ!嬉しい!わかりました、私異世界転生します!」
「良い返事です!では、早速―—―」
天使が満面の笑み浮かべて私の手を引いた時だった。
「なーんて言うと思ったか、クソ天使」
私は、引いていた手を離した。
天使は少し驚いたが、やがて気づいちゃったかぁと言わんばかりの顔をした。
「その異世界には何かあるんだろ?じゃなきゃ易々こんな提案なんかしない」
「あら、やっぱり気づいてらっしゃるのですね。人間風情なのに勘だけは良いなんて、忌々しいですわ」
睨みつける私に対して、天使はどこまでも笑みを浮かべて余裕だった。
「言えよ!その異世界には何があるんだ」
「そうですねぇ。可愛く言ったら教えてあげましょう」
…こいつっ!
こめかみに青筋を立っているほどわかるぐらい、自分が怒っているのがわかる。
「あら、どうしたんです?あ、ちなみにさっき異世界転生するっと言ったので発言の撤回はできませんよ~」
「…」
「ほら~、可愛くいってくださ~い」
こいつ絶対煽ってんだろ!何が天使じゃボケェ!
「お、おねがいしますぅう!天使さまぁああ!」
プライドをへし折って、私は手を組んで上目使いで天使に頼んだ。
ああくそ、舌が腐れるわ。
恥ずかしさと悔しさで涙が浮かんでいると、天使が口元を押さえながら笑った。
「ぷぷぷ。涙目浮かべるなんて可愛いとこあるじゃないですか。よろしい教えてあげましょう」
天使はパチンと指を鳴らしすると、大きな鏡が表れた。
「この鏡を見てください」
天使の言う通り鏡をのぞき込むと、自分の顔は映らずにどこかの風景が映されてあった。
「この鏡が映しているのは、異世界“ファントム”。あなたが行くところになった異世界ですよ」
「ふーん。なんか荒れてね?」
「察しが良くて助かります」
映し出された鏡には荒れた森や、飢えで苦しむ人々がおり、世界滅亡寸前だった。
世紀末ってこんなもんなのかな。
「この世界は長年、魔王の支配のせいで人間はとても苦しくなっており今の有様になっています」
天使はおよよと涙ぐんでいるが、お前さっき私をここへ転生させようとしたんたぞ。自重しろ。
「我々、天使たちは考えました。どうしたらこの世界を救えるのかを!
そしてたどり着いた答えが記憶を持った人間の転生なのです!」
「ちょっと待って」
私は手を前に出して、話を止めた。
「はい?なんでしょう?」
「事情は分かった。だけど、なんで私なの?」
疑問その1を口にする。
そもそもなんで私なんだ。私みたいなゲーマーじゃなくても正義感が強い子や、頭のいい子を連れてきた方がよっぽど効率的だ。それなのに、このクソ天使は私を転生の人間として選んだ。
「簡単なことですよ。あなたがゲーマーだからです」
「はぁ?」
「異世界“ファントム”は、とてもファンタジーなんです。そうまるでゲームの世界のようにね」
「…なるほど」
ゲームの経験値が豊富な私にもってこいってわけか。
しかし、それではまた新たな問題が発生する。
「異世界でも現実じゃん。指で操作するゲームと違うんと思うけど?」
あと、私は戦闘とか物騒なことしたことないんだが。
魔法の仮にゲームのような世界でも、魔法の使い方とか知らないし。
「そうですね。けど世界そのものが、ゲームみたいなものなのです。
異世界“ファントム”は、魔法、スキル、魔物、異能力、全て揃っています。あ、あと妖精もいますよ。スキルがあれば軟弱なあなたの体を鍛えることも出来ますし、魔法で傷を癒すことだって可能です。魔法なんてて唱えてなんぼですからね。使い方は向こうに行けば次第にコツをつかむと思いますよ?」
へぇー。そこらへんは親切なんだな。
「なるほど。ちなみに向こうの言葉は分かるのか?」
「そこは、我々天使のサービスで分かるようにしています。ご安心を」
「へぇ、毒舌天使わりにはやるじゃん」
「ええ、あなたは挑発に軽々乘る単細胞ですからね。きっと向こうに行ったら言葉に理解が不可能かと思って…」
お?今何て言った?このクソ天使。
お互い視線の火花を飛ばしていると、ふと気になったことがあった。
「ん?私、向こうに転生したら魔王を倒さないといけないパターン?」
「はい。そういうパターンです」
うわ、ダル。
軽々と「私異世界転生します!」なんて言うのではなかった。
「あなたは、何かと不安要素がありそうな人ですからねー。特別に3つスキルを与えてあげましょう」
「マジで!?」
「マジです。そのかわりちゃんと魔王を倒してくださいね」
やったぜ。早速三つスキルゲットだぜ。