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部屋中会議(へやなかかいぎ)  作者: へいへい
1/3

詠唱ってさ…

「かいと、詠唱って何で必要なん?」


家族との夜ご飯を終え自室で漫画を読んでたら、ベランダから幼馴染のゆうきが、僕の人生史上初となる質問をしてきた。


「…詠唱は必要だからとりあえず僕の部屋に入ってよ…。」


ゆうきは隣の部屋に住んでいる。

集合住宅の3階ではあるが、慣れればベランダから隣の部屋に行くなんて簡単だ。

ゆうきはここ3年、つまり、人生の1/6以上は毎日のようにベランダから進入してくる。

今やそこらのプロよりもプロだ。

ちなみにそんなプロがいるかは知りません。


「でさ!詠唱って必要なくない?」


ブ○ーチを読んで詠唱してる所を見られた恥ずかしさを紛らわそうとしてゆうきの紹介をしてたのに。

追撃してくるとはどこまでも鬼畜…。

そして僕は今途轍もなく恥ずかしい。


「必要でしょ。ブリ○チの詠唱かっこ良いし。」

「ブリー○の詠唱がかっこ良いのは分かるけどさ、戦いの中であんな詠唱するなら斬っちゃった方がよくない?ぶっちゃけ鬼道って弱いし。あと、いくらかっこ良くても堂々と声に出すのは恥ずかしい。」


ひとまず鬼道しか使えない夜○さんに謝って。

あと声に出して詠唱してた僕にも謝って。


「鬼道って10番台とか弱いけど90番台とか相当強いじゃん。黒○で隊長を一撃で倒してたよ?」

「それは人面犬が弱いんじゃない?」


人面犬言うな。というかそれを言うなら犬面人だ。

ちなみに犬面人という言葉があるかは知りません。


「てか90番台とか詠唱めっちゃ長くね?あんな長くないとダメなん?あんだけ長かったら、俺なら詠唱中に月○天衝するけどな。」


詠唱中に月牙○衝食らったら、また一から言い直しになるじゃん。

そんな恥ずかしい事をさせようとよく考えれるね。

そして僕の詠唱中によくもベランダから入ってきたね。


「それにあんな叫びながら詠唱してたら『今から鬼道打つからな!絶対打つからな!!』って相手に言ってるようなもんじゃね?せめてもっと小声で詠唱した方が奇襲にもなって良いと思うけどな。」


剣持った黒装束がボソボソ何か言ってるとか通報案件でしかない。

嫌だよ、そんな不審者同士の戦い。


「鬼道って無詠唱でも発動出来るし、いよいよ詠唱の必要性わからん。」

「それは詠唱した方が威力上がるって言ってたよ、真っ白な人が。」

「それもさ、何で詠唱した方が威力上がるん?」


それは…そうなるから、としか言えない。

でもゆうきはそれでは納得してくれない。

別にゆうきを納得させる必要も無いが、納得させれないと僕が悔しい。

ゆうきのためじゃなくて、僕のために、こんなくだらない質問にも真剣に考える。

これは僕のプライドでもあり、趣味でもあるのだ。


今回ゆうきが気にしてるポイントは3点だ。


・詠唱が長く隙が大きい

・詠唱を叫ぶ必要性がない

・詠唱する事で威力が上がる意味がわからない


この3点に対して反論出来る合理的な理屈があれば良い。

「漫画的迫力を求めた」といった作り手側の視点ではなく、「漫画の中に自分がいたとして、どういう理由なら違和感を感じないか」というキャラ側の目線に立つ。

あの世界では詠唱が当たり前のようにあり、しかもそれを戦闘中に時間をかけて唱える程のメリットとは何か。

改めて考えるとやっぱり…


「気合いの問題じゃない?」

「そんなテキトーな答えかよ!?もっとちゃんと考えろよ!?」


問題を丸投げしてきた人に「考えろよ」と言われるのは心外だ。

それに、全く考えてないわけじゃない。


「まず詠唱が長いっていう点だけど、例えばゆうきが砲丸投げするとするでしょ。その時に『てゃ』って言いながら投げるのと『てやぁあああああぁああああぁあああ』って言いながら投げるのだとどっちの方が投げれそう?」

「…その選択は悪意ないか?」


悪意はあります。


「長く言った方が飛びそうでしょ?それと同じで詠唱も長い方が威力上がるんだよ。長い間詠唱してるってことは、それだけ1つの鬼道に力を込めてるって事なんだから。」

「そんなもんかぁ?」

「そんなもんだよ。叫ぶ理由も同じね。『てゃ』ってボソボソと言うのと、『てや!!!!!!!!!!!』って叫ぶんだったら、叫ぶ方が気合い入りそうでしょ?」

「まぁ…なぁ。じゃぁ詠唱した方が威力あがるってのも?」

「無言より叫んだ方が気合い入るから。」

「えぇ…そんなもんー?」


こじつけ臭いけど、理論の方向性は間違ってないだろう。

「気合い」はザックリしすぎた説明だとしても、「詠唱する事で集中し力を込める」「叫ぶ事でさらに力を込める」=「強力な鬼道を放てる」という事だ。

つまり相手を鬼道で倒すために必要な行為だと言える。


「でもそうだとしても、あんな言い回しは必要か?」

「後世に広く伝えるためには体系化が必要だからね。本当はどんな言い回しで良かったとしても、『この言い回しすると、この効果が発動する』っていう事を体系化するのは大事だよ。」


あの世界で鬼道というものは死神なら誰でも使える程広く伝わってる。

つまり、それだけ体系化されているという事だ。


詠唱というのは、「威力を上げる。」「体系化し誰もが使えるようにする。」という2つの側面があるのだ。

恐らくこの考えは、詠唱を必要としている他の漫画にも適用出来るだろう。


また「技名を叫ぶ」にも、似たような考えが適用できる。

叫ぶ理由は「威力を上げる。」であり、技名をつける事は「誰もが使えるよう体系化する」からは少し変わり「技名をつけ体系化する事で、その技を即座にイメージし使う事が出来る」というメリットになるだろう。


「確かにそう言われたら、そうかも知れないな。」

「でしょ?」

「じゃ、最後にあと1つ!」

「え?まだあるの?」

「あんなオシャレな言い回しは必要なくね?」

「…そこは完全に作者の趣味だね…。」


僕らはこんなどうでも良い様な話を毎日している。

この会話は無駄だけど有意義で、下らないけど大切な、僕たちの部屋中会議へやなかかいぎだ。

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