マジもんの人類の敵になりました
いくらなんでもこれはアカンでしょ。
リッチの時よりステータスがニ倍に上がってるやん。
流石にやり過ぎだと思いますよ私は。
そしてスキルや称号も所々変わっていて、いつも通りの怪しい称号も増えているしさ…………もう、嫌な予感してきたんですけど。
あーもー!(言いようのない文句)
「……なによ……これ」
ん? ラビの様子がおかしい。進化する?
……まあ、冗談は置いといて、ラビも私のステータスを見たのかな。
「鑑定で見たんですね?」
ラビの驚いた顔からして、どうやら正解らしい。今の状況で考えられるのはそれしかないからね。
「ごめんなさい、盗み見してしまって」
なんで盗み見したのを謝るんだ?
敵を知ることは大切なことなのに、ラビ達の感覚じゃあ、私は仲間扱いなのかな。
「別に良いですよ。どうせ言おうと思ってたんですから」
どうせ共に行動してたらそのうちバレるんだし、ラビ達の反応から私が化物扱いなのは知ってるからね。
これ以上私が化物になっても、さほど対応は変わらないと思う。
「……で、どうだったんだ?」
ああ、ガビルは『鑑定』取ってないからわからないのか。
別に二人を仲間だとは思ってないけど、仲間外れみたいにしてごめんね。
と言ってもなんて説明しようか。
私が「強くなった」と言っても、二人からしたらリッチの時の私も充分強いから意味がわからないよね。
「ラビさん。説明任せました」
「ええっ!?」
いやだって面倒なんだもん。
「規格外ってだけ教えとくわ」
「大体、前のニ倍になってますね」
「……嘘だろ?」
おっと信じられないって顔してますねぇ。
戦ってればそのうち信じるだろうから別にどうでもいいよ。
……そういえばスキルポイントもいっぱい取得できたらしいね。
ちょうどいいから新しいスキル取っちゃおうかな。
「スキルポイントも入ったのでついでに取って良いですか?」
「良いけど、何ポイント残ってるの?」
【現在のスキルポイントは1850です】
うわぉ、めっちゃあるやん!
「1850だそうですね」
「……どんだけ貯めてたのよ」
別に取りたいスキルがなかったんすよ。だって勝手にスキル取れちゃうからね。
「まぁ、貴女がリーダーみたいなもんなんだから好きにしてちょうだい」
疲れたように寝そべってため息をつくラビ。
うん、完全にどうにでもなれって感じですね。
お言葉に甘えて好き勝手やらせてもらいますわ。
でも、何を取ろうかなー。どうせなら強くて使い勝手がいいスキルがいいよね。
スキルポイントを消費して取れるスキルで、一番大きいのが1000ポイントだっけ?
どれも国家レベルのスキルだから使うには注意が必要だよね。……よし、それを取ろう。
【消費スキルポイント1000のスキルは『石化』『分身術』『不死』『空間魔法』です】
石化はだんだんと相手を石に変えていくスキル。
私はそれと同じようなスキルの『腐敗』――今は『死滅』だっけ? それを持っているからいらない。
分身術も眷属を出したほうが速いよね。これもいらないな。
不死に関してはもう持ってる。……というかスキルで不死になれたのか。長い年月、不死の薬を作り続けた私って…………
――いいんだよ昔のことはぁ!
これもう空間魔法しか取るやつないじゃん。
【スキルポイント1000を消費して『空間魔法』を取得しますか?】
はーい。
【『空間魔法Lv1』を取得しました。残りスキルポイントは850です】
残りスキルポイント300を使って『空歩Lv1』も取ろうか。
どこかのボスで飛んでた奴がいたから、次にそういう奴が出た時の対処が可能だからね。
そして『隠密Lv1』と『幻惑魔法Lv1』も取った。
隠密はラビから「ポイントも50だからいいんじゃない?」とオススメされたので取った。お手軽だね。
『幻惑魔法』も『空歩』と同じノリでなんとなく取っておいた。
後で使う時が来るかもしれない。ついでに幻惑魔法を取った時に新たな称号の『詐欺師』を貰った。詐欺師とは失敬な。
これで残りスキルポイントは50……これは残しておくか。
「さて、そろそろ行きますか。準備は大丈夫ですか?」
「俺は問題ないですぜ」
「私もよ」
焚き火を消して立ち上がる。
時間が足りないので、眷属にはいつもより速く次の階層の奴らを殲滅しろと命令しておいた。
そして第六層のキメラ、第七層の炎竜、第八層の虫軍団には第九層のボス攻略を命令した。
ちなみに虫軍団は絶対に見ないようにした。だって眷属と言ってもトラウマだからね。
本当なら召喚もしたくないけど戦力としては充分なので、本当に嫌なんだけど、本当に嫌なんだけどっ!
フルのためだと思って頑張った(泣)
◆◇◆
いやぁ〜、風を切って走るって気持ちいいですね。
ん? 今何をしてるって?
私達は眷属のウルフの背中に乗って優雅に散歩中です。
攻略は全部眷属に任せっきりだから、めちゃくちゃ暇なんだよね。
別にただ散歩してるだけじゃないよ。
一つ問題点を見つけたからそれの対策を考えている最中でもある。
眷属には死体の運搬も命令して、適度に|食事(魔物の死体)が運ばれてくる。
それはいいんだけど、なぜか食事に触った瞬間に、黒い物体となって消えてしまった。
新しく手に入れたスキルや称号の影響か?
…………とりあえず調べてみよう。
『軽業師:身軽な体を手に入れた者。常人には真似できない動きができる』
お? これで私もアクロバティックな動きできる?
最初のアンデッドじゃ絶対に考えられなかったことだね(しみじみ)
けど、これじゃないな。
『虐殺王:殺すという行為に快楽を求めるようになる。許されざる罪の証』
いやいやいやちょっと待てぃ!
やめて! 私はそんな酷い人じゃないよ! ……確かに人ではないな、ってそうじゃなくてね。
う……うーん、人を殺すのを躊躇うことがなくなるのはいいけど、これに慣れないようにしなきゃな。
私は魔王になろうとしてるんじゃないんだから。
とにかく、これも違うっぽい。
『ソウルイーター:殺した相手のステータスを奪う狂者。生命の魂を視ることが出来、それを喰らうことで成長する』
とてつもなく凄いやつ来たー!
マジか! 食うだけでステータス上がるのか!
これは嬉しい。……けど、触って消し炭になるなら意味ないんだよなぁ。
というかこれって『ソウルイーター』と『虐殺王』混ぜるな危険じゃね?
……気にしちゃダメだし、これも違う。次。
『詐欺師:虚言を言うのが得意。相手を騙すことに長けている者』
うんうん、化かし合いに向いてそうだね。次!
『死滅:触れたもの全てを無差別に殺す。安易にものに触れることは避けるように』
「――これじゃねぇかぁああああっ!」
「何っ!?」
「あ、なんでもないですー」
笑って誤魔化す。
『死滅』ちくしょうマ・ジ・で!
どうすんだよ。ステータス上げたいのに食えねぇよ!
【眷属の食事でも『ソウルイーター』の効果は発動します】
「マジかっ!?」
「何だぁ!?」
「な、なんでもないですぅ」
これはいいこと聞いた!
早速、眷属達に新たな命令を下す。
『総員、殺した獲物を食べてよし!』
ふっふっふっ、これで勝手にステータスが上がるようになった。
……でも、進化したことで一気に強くなったな。
それにしても『死滅』か。
もし、この手でラビやガビルを触ったらニ人は死んでしまうのだろうか。そう考えるとなんとも言えない欲求が…………
――って、アカン! 虐殺王ヤバい。……平常心平常心。耐えろ私、やればできる。
【新たなスキル『忍耐Lv1』を取得しました】
ナイスッ!
このスキルを上げれば欲求を少しでも我慢できる。ありがてえ。
【経験値が一定値に到達しました。『ソウルイーターLv1』が『ソウルイーターLv2』になりました】
【熟練度が一定値に到達しました。『死霊術Lv4』が『死霊術Lv5』になりました】
レベルが上がったということは雑魚の殲滅は終わったのか?
そういやボスに向かわせた奴らは…………反応を感じない?
なーんか嫌な予感がするな。
「少し急ぎますよ」
ウルフを最速で走らせる。
やがて今までのボス部屋で一番大きい広場に出た。
「……チッ、やっぱりか」
ボス攻略に向かわせた眷属達は、九層のボスにグシャグシャに潰されて無残な姿で転がっていた。虫軍団は更に気持ち悪くなってるじゃん。もう最悪。
やられた眷属を消す。眷属の血痕と激しい戦闘をしたであろうと思われる跡だけが残った。
その中心に悠然と佇む一際大きなシルエット。
大きさは巨人以上で体は象という動物に似ている。それがニ本足で立っているので余計に大きく見えてしまう。
こいつは私も本で見たことがある。
だけど実際に会うとは思わなかった。
予想していたから平然としていられる私の横で、ガビルは悲痛に叫ぶ。
「――嘘だろおい! なんでここにベヒモスが居るんだよ!」
全てを圧倒的な質量で潰す。暴力の権化『ベヒモス』がそこにいた。
過去最大の敵現る!




