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フル

「グガァアァア!」


「――どけやぁ!」


 ―――ドン!


「――ギャウ!?」


 怒りのままに殴り飛ばしたのは第七層のボス。


 眷属を進軍させて第五層と第六層を難なく攻略した。


 第七層に到着したんだけど、ここが私にとって最悪だった。


 第七層はマグマに覆われていてそこらじゅうから熱気が吹き出ている階層だった。


 今の私は不死系モンスターだから炎属性は相性が悪いし、出てくる魔物も炎を纏う奴らだからイライラが溜まりに溜まりまくっていた。


 まあ、それでもポジティブにとらえて、炎属性の耐性を上げようかとマグマに浸かったりしたけど、死にそうになって二人に慌てて引き上げられて終わっちゃった。


 そのおかげで『炎属性無効』を手に入れたから、弱点の克服になったけど…………二度とやるかボケ!


 残りの弱点の日光と聖属性は、ラビが新しく回復魔法を覚えてくれたので、それをちょくちょく掛けて貰って克服していた。

 本当は人を癒やす回復魔法も私にとっては猛毒だからね。最初に掛けて貰った時はぶっ倒れたよ。

 これも耐性できたけど二度とやらない。



 結果的に『炎属性無効』を取得したのはいいんだけど、それでも景色は一面マグマ。

 暑さは感じないけど、景色が景色だから結局暑く感じる。

 

 それに、マグマのせいで足場も限られるから、急いでいる私にはストレスが凄かった。


 その時、徘徊中の第七層のボスと鉢合わせしたから怒りのまま殴り飛ばしたのが、事の顛末。


 もちろん七層のボスも美味しくいただきました。うん、今までで一番美味しかった。


「本当に食べないんですか? そこら辺の雑魚とは違う美味しさですよ?」


「やっぱり魔物を食べるのは抵抗があるんだよなぁ。ルーナさんが全部食べていいぜ」


「それに暑さで食べる気にもならないわ」


 ラビ達はまだ魔物を食べるのに抵抗があって、全部私が食べちゃった。ホント勿体ないなぁ。


【新たな称号『暴食』を取得しました】


 怪しいスキルや称号はすぐさま鑑定で調べる。


『暴食:全てを貪り喰らう者。喰らったものの保有しているMPを自身のものとして使うことができる。保管できるMP量は無制限』


 …………ソッ閉じ。


 確かに攻略した時に殺した魔物全てを食っていたよ。


 私自身も腹が満たされないのはおかしいなぁ、って思っていたけど、まさかこんなチート称号を手にいれることができるとは。


 ……おっと、私に休憩している暇なんてないんだった。

 さっさと次に行かないと。


「……さぁ、次行きましょうか」


「ちょっと待って!」


 ……あん?


「ルーナさんどうしたの? カガリ村の話をしてから何かにとり憑かれてるみたい………」


 確かにラビから話を聞いた後は、眷属をフル活用して攻略を進めている。それこそ破竹の勢いってやつ?


 確かに他人には私が何かに取り憑かれた様に見えるだろうね。


「確かに邪龍を討伐すれば報酬も経験値も貰えるけど―――ッ!?」


 ラビは転ぶように横に転ぶ。


 一瞬遅れてラビがいた場所に炎の槍が飛来して地面に突き刺さり、爆発した。


 槍を避けたものの爆発の衝撃は防げずにラビとガビルは吹き飛んだ。


 ――チッ、避けたか。


「何をす―――ぁ、あぁ………」


 ラビは文句を言おうと私を睨むけど、ぬるい。そんなに視線じゃ赤ん坊に見られてるのと同じだよ。


 濃厚な殺気を込めて睨み返す。


 それだけなのに足腰が震えている。


 ま、それも仕方ないよね。

 だってこれは、私が本気で相手を殺そうと思った時にしか発しない『本物の殺気』なのだから。


「邪龍を討伐? 何言ってるんですか? 私は邪龍を討伐するのではなくて、邪龍を討伐しようとしてる人 達(クソ野郎共)を殺しに行くんですよ。

 それに、次は私の前で邪龍を討伐すると言わないほうが己の為ですよ。―――次は必ず当てます」


 今は天使なんかより討伐隊の殲滅が最優先になっている。


「……なんで………そこまで……」


「なんで? そんなの簡単な話ですよ」


 私がこんなにも急いでいる理由。

 それは………


「その邪龍は……フルは私の()()だからです」




      ◆◇◆




 フルとの出会いは、私が邪龍討伐の依頼を受けて『世界の終着点(ワールドエンド)』と呼ばれている場所に出向いた時だ。


 私が魔女として一番本領を発揮出来ていたのにも関わらず、邪龍との戦いは三日三晩続いた。


 邪龍はその場にいるだけで濃厚な瘴気を放つ。瘴気は魔物の体を蝕み、さらに強力な瘴気になると人にも影響を及ぼす。


 それは私も例外ではなく、時間が経つごとに体全体が脆くなっていった。


 死闘の末、私は長年の研究の末に編み出したオリジナル魔法を放った。

 その魔法は命を削る代償にルーナの魔力を十倍にもする、今思えば『禁忌魔法』に似ている魔法だ。


 そして私は全魔力を込めた最強の魔法『絶対なる終幕(アブソリュートエンド)』を放ち、邪龍は断末魔をあげて絶命した。


 それは良かったのだが、困ったことに邪龍は子持ちだった。


 邪龍と死闘を繰り広げた奥に邪龍の住処があり、ついでに何か面白いものが見つからないかな? と探索していたところに邪龍の卵を見つけた。


 最初は卵をどうしたものかと悩んでいた。そして、持ち上げた時に卵が割れてしまい新たな邪龍ファフニールが誕生してしまった。


 龍は鳥みたいに卵から出た時に一番最初に見た者を母親だと思う。それは邪龍も同じで、邪龍の赤ちゃんは私を母親と勘違いして甘えた声で寄り添ってきた。


 別に邪龍だからと今のうちに殺すとこも出来た。だけど、流石に勘違いだとしても自分を慕ってくれている赤ちゃんを殺すのは気が引けた。


 結局は育てることになり、邪龍ファフニールの赤ちゃんを『フル』と名付けた私は、邪龍討伐の報酬を貰ってから『世界の終着点(ワールドエンド)』での子育て生活を始めた。


 今思い返してもその生活はとても困難だった。

 食べ物は別に周囲の魔物を狩れば良いのだが、何よりも言葉が通じないことが最初の難関になった。

 それでも私は諦めずに、一年をかけて言葉と『念話』をフルに覚えさせて充分な会話ができるまでにした。


 次は『人化』の習得と瘴気を抑える訓練だった。

 フルは賢い龍だったので『人化』はすぐに覚えてしまった。人化をすると瘴気はほとんど抑えることが可能になって、人に害を及ぼすことは皆無となる。

 それでコツを掴んだのか、龍形態でも瘴気を自由に操作することができるようになった。


 だが、何時までも『最強の魔女』である私が姿を消すのは良い事ではない。すでにフルだけで生活できるようになるまでに十年は姿を消してしまっている。


 そこで子育ての仕上げに狩りの仕方を徹底的に叩き込んでから、私は魔導国家ギルバリンに帰ることにした。


 フルにそのことを話したら「行かないで!」と泣き叫んで私を止めた。

 私だってフルと共に生活をしたことでフルを実の娘のように愛していた。

 だからといって人の国に邪龍を連れて行くことはできない。いつかきっとバレてフルを狙う者が出てくるだろう。それだけは避けなければならない。


 時々、遊びに来る程度ならば大丈夫だろうと『感覚共有』でギルバリンの位置を教えて、フルが会いたくなった時に遊びに来いとだけ言った。


 そして、私とフルは一時的にお別れをした。


 それからはフルが時々遊びに来て親子の愛情を深めていった。

 さらに十年間、同じ生活を繰り返して「また来年会いに来るね!」とフルと約束した。


 そしてフルが遊びに来る前日。

 私は天使共に殺されてギルバリンもその日に滅んだ。


 その後、フルはどこに居るのか分からなかった。

 そんな時にラビから邪龍がいるという情報を聞いた。


 そして……フルを殺そうとしている集団がいることも。

 娘を殺されたくない。だから殺されてしまう前に殺す。


「………これが私が急いでいる理由です」

※ルーナは親バカです。

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