SS2 異世界転移
「ようこそクソったれな異世界へ」
「………は?」
気がついたら見たことがない部屋にいた。
部屋の奥で一人のどこか貴族風の女性が気怠そうに座っている。
その女性は見たことがないほどの美女で、少しの間見惚れてしまった。
「……おい、ジロジロ見んな。脳を焼き切るぞ」
とても荒い口調でそんなことを言ってくる。
その声音は本当にやりそうで怖かった。
「……ここはどこなんですか!? 皆は!?」
「あ? お前の後ろに転がってるだろうが」
女性が指を指した後ろを振り向くと俺の他に三人が床に寝転がっていた。
「チッ――冷水よ」
「うわっ!」
女性が何かを言った瞬間に、何も無い空間から水が寝ている三人にかかる。
三人は水を被って寝ぼけ眼のままゆっくりと起き始める。そして、俺と同じくキョロキョロと辺りを見回して女性に視線が行って止まる。
……というよりも先程の水何だ?
まさか魔法?
……いや、それは無いだろう。きっと侵入者か何かの罠とかそんなものだ。
「そこのガキには言ったがもう一度言うよ。ようこそクソったれな異世界へ」
女性の言葉に反応した奴がいた。
そいつは大柄な男だ。通っている高校では野球部のエースとして様々な表彰を受けている。
学校行事の運動会や球技会でも結構活躍していて、俺も見たことがある。
「異世界って何だそりぁ!? さっさと状況を―――」
「――黙れ」
「――――!? ――――!!」
男が何かを言おうとしたのを女性が一言で黙らせる。
本当に口を塞がれてるように口を頑張って開けようとしている。
男の謎の行動に俺を含める他の人は不思議な顔をしている。
「……よし、うるさいのが黙ったところで自己紹介といこうか。私はオリヴィエだ、よろしくな」
女性はオリヴィエというらしい。
オリヴィエさんには色々聞きたいことがあるのだが、質問していいのか気迷いしてしまう。
「……おい、人が名乗ったんだから、さっさとお前らも名乗れガキ共」
いちいちこの人は口調が厳しい。
オリヴィエさんも十分若いと思うんだけどな。俺達とニ才しか変わらない見た目なのに………。
だけど、それを口に出すと男みたいにされてしまいそうで言えない。
「俺は滝田光弥です」
「よろしく、見た目ヘタレ。次」
………酷い言われようだなぁ。
「私は清水緑です」
「青と緑どっちかにして。次」
「飯島由香です」
「つまらん。次」
「…………」
「お前は……あぁ、そういえば塞いだままだったな。もう解除していいぞ」
「…………藤井龍輝だ」
「カッスい人間のくせに龍とか大層な名前だな。龍に謝ってくれば?」
「何なんだよお前はさっきから――ァアア!?」
リュウキが突然吹っ飛んで壁に思い切り激突する。……何がどうなっているんだ?
「……さぁて、運悪くクソ神とアホ天使に拉致られた少年少女の諸君。とりあえず乙でーす(笑)」
オリヴィエさんはどこまでも馬鹿にしたように、俺達にそう言ってゲラゲラと大声で笑っている。
この場にいる全員がオリヴィエさんにムカついているだろう。もちろん俺だってそうだ。
リュウキなんて額に青筋を立てているけど、さっきの謎の衝撃が怖くて言えない感じだ。
「先程、異世界って言ってましたけど本当なんですか?」
「おお、ちゃんと聞いていたのか真面目くん」
「光弥です」
「へいへい、コウヤね。了解しやした、どうもサーセン」
ちゃんと言えば聞いてくれるようだ。いつもこれだと嬉しいのだが。
「……それで質問の答えだけど、答えはイエスだ。……まぁ私達からしたらあんたらの住んでる世界が異世界だけどな」
「………信じられません」
いきなり異世界と言われて「はいそうですか」と信じられるわけがない。
「じゃあこれで―――信じてもらえるかな?」
「―――なっ!?」
さっきまで椅子に座っていたオリヴィエさんが目の前から消えて、その瞬間に耳元からオリヴィエさんの声が聞こえた。
驚いた俺は慌てて振り向くけど、オリヴィエさんはもう居なかった。元の場所を見てみるとドヤ顔でふんぞり返って座っていた。
「どう? これがイッツァ、マジック!」
両手をバッ! と広げる。その右手には炎が、左手には冷気が纏っていた。
「じゃあ……あの声もオリヴィエさんの仕業なんですか?」
「え? 声ってなんじゃ? ………あぁ、邪神の仕業か」
「――邪神!? それって悪い奴なんじゃ」
「まぁ待てって。めんどくせぇけど全部話してやるから。………マジでめんどくせぇけど」
もう異世界だか魔法だとか邪神とか訳がわからない。
「お前らは天使に拉致られて異世界に来た。……あぁ、あの銀髪のクソ無表情な幼女が天使な。ここまではOK?」
「………とりあえずは大丈夫です」
「質問良いですか?」
恐る恐る手を挙げたのはユカさんだ。
「お? ユカちゃん。いいよ何でも質問しちゃって」
この男性陣と女性陣の差は何なのだろうか。
「ここにいる私達以外の人はどうなったんですか?」
「ん、まさか心配してる? いいねぇ優しいねぇ。
質問の答えはね、君達以外にも異世界に来てる人はいるよ。……というか君達の学校にいた人全員が異世界に来てるよ」
「――っ! その人達はどこに居るんですか!?」
学校にいた全員が異世界転移というやつに巻き込まれたのか。
「まぁまぁ焦らない焦らない。君達以外の人達は残念ながら教国ってところに囚われてるよ。いやぁ、その人達は運が悪かったね」
「それなら助けに行かなきゃ!」
「は? バッカじゃねぇの? 何を思って雑魚が助けるとか言えるんだよ。脳内お花畑ですかぁ?
……あ、もしかして異世界に来れたから異常な力に目覚めて最強になれてるかも! とか思ってるんですかぁ? そういう奴ってほとんどが最強じゃなくて雑魚だし―――ギャハハハハハッ!」
何が面白いのかオリヴィエさんが足をバタバタさせながら椅子の上で笑い転げている。
流石に俺も我慢ならなかった。囚われてる人には俺のクラスメイトもいるはずだ。それなら助けに行こうと思うのが当然だ。
……だけど、オリヴィエさんが言ったのは「助けるとか馬鹿じゃね?」という否定の言葉だ。
「おい! さすがに言い過ぎだ!」
俺はオリヴィエさんに無謀にも掴みかかろうとしたら、オリヴィエさんは面倒そうな顔をして腕を振るった。
その動作だけで後ろから盛大に物が崩れ落ちる音がする。振り向くとそこには真っ二つにされた屋敷が見えた。さらに目を凝らして見てみると屋敷に連なっている建物も何軒か被害を受けている。
「……だぁれに口ごたえしてんだ?」
ただ腕を振るっただけでこんなに被害が出る。それはもう恐怖でしかなかった。
「お前らは力の使い方も分からないただの赤子同然。助けに行きたいんなら力を貸してやる。そのかわりに私達の計画に手を貸せ。………どうだ、いい条件だと思うぜ?」
オリヴィエさんがニヤリと笑って手を差し出してくる。それは悪魔の囁きにしか聞こえなかったけど、俺達の選択はそれしかなかった。
リュウキ、ミドリ、ユカと目配せして同意を得る。みんなも覚悟は出来ているらしい。
「……話を、聞かせてください」
「聞き分けの良い子は好きだぜ」
どうしてオリヴィエの口調がこんなになっているんだろう(困惑)




