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フィラート魔法学園-3

詠唱魔法は五つの属性ごとに存在し大きく二つに分ける事が出来る。


自らを対象として補助的な効果をもたらすことを目的とする詠唱補助魔法と直接相手に攻撃することを目的とした詠唱攻撃魔法。

どちらも古くから編み出され、多くの応用方法が存在する。詠唱補助魔法の中には、比較的簡単に習得できる物があるため、基礎学科の一つとして学園都市では学ばれている。

欠点を挙げるとすれば誰にも習得できる分、降霊魔法と比べ効果が弱く、必ず自らの魔力を具現化するための媒介が必要である。また自らの魔力がつきたら回復するまで一切魔法が使えなくなる事も大きな特徴である。

「次の人達どうぞ」

 中庭に移動し待機用の部屋で順番を待っていたセフィーに声がかかる。

彼女は腰掛けていた椅子からすっと腰をあげると部屋の外に出て中庭の試験場所まで行く。

彼女の後に続けて数名部屋から出ていく。

薄暗い室内から外に出るとよく晴れた日の光がセフィー達に降り注ぐ。急に明るい場所に出た為か、セフイーは眩しさに目を細めた。

眩しさから逃れるように何気なく後方へと視線を移すと教員塔と連絡棟で遮られた反対側の中庭で降霊魔法の試験を行っているのか火や水の飛沫があがっているのが時折見て取れた。

中庭は全体に草原の様な草が植えてあるのだが試験場所に近づくにつれ所々それが剥げ土が剥き出しになっている事にセフイーは気がついた。

試験場所まで来ると検定員らしい男性に指示され、セフィー以外の生徒は少し離れた位置に用意された椅子に腰掛ける。

セフィーは指示されるまま実際に実技試験を行うであろう場所まで歩く。

一際草が剥げた場所の手前まで来ると剥き出しの地面を挟むような形で3人の大人が椅子に腰かけていた。それぞれ右肩に違った模様の描かれた腕章を付けている。

金色に輝く瞳とまぶしいほどの金色の髪にとても整った顔立ちの男性。

赤い髪に赤い瞳。豊満な体つきにそれを隠そうともしない服装の女性。

褐色の肌の色が印象的な顎に白いひげを長々とたくわえた土色の瞳の老人。

3人とも一度見れば忘れられない様なとても印象的な3人だった。

「番号と自分の名前を」

いつの間にかセフィーの隣に立っていた若い女性の検定員がセフィーに尋ねる。

セフィーは一度軽く深呼吸してから一気に話す。

「24番。セフィルーナ・クレセントです」

対面にに座る3人は無言で頷くと書類の束を何枚か捲り始めた。。

「君があの不老のセフィルーナ君かね」

3人の内、真ん中の老人が手元の書類を見ながら不意にセフィーに話しかける。

手で髭を整える様に触りながら興味深げに訪ねてくる老人

「えっえぇ、まぁそう何だと思います」

突然の事に質問の意図については分からなかったセフィーだが、老人が何を訪ねたいのかは解った。それは、彼女の二つ名についてだった


……不老のセフィルーナ……

 それは彼女が媒介なしで魔法を使うことからついた呼び名だった。

一般的に詠唱魔法の発動には、術者の魔力を具現化するために何かしらの媒介を必要とする。術者の魔力を具現化しやすい様にと殆どの場合それは杖や細剣と言った棒状のものになる。その中でも杖上の物はその姿形がが老人が歩く時に使う物と同じである事が多い。

学生や年の若い術者などは見た目を気にする為、杖の形が細剣や指示棒に似た物を使う事が多かった。

それでも年を重ねるにつれ、その様な物より扱いがたやすく高度な魔法でも術者に負担がかかりにくい杖へと変わっていくのが普通だった。

しかし、媒介を必要としないセフィーにとってそれは無関係の話だった。

……いくら年を重ねても杖を必要としない……

その事からいつしか彼女は歳を重ねても肉体が衰えない、不老との噂が立ち始め、それが影の二つ名となり広まった。

もちろんセフィーが不老というのは事実無根である。

「前から噂を聞いて一度、直に会ってみたいとは思っていたんじゃが、まさかこんな年頃の娘さんだったとはのぉ」

土色の瞳をした老人の言葉になんと言えばよいのか解らず、セフィーはただ立ちつくすのみだった。

そんなセフィーに変わって検定委員の女性が老人に言う。

「学園長、そんなことより早く試験を行って下さい後が控えています」

少々とげのある言い方に老人はううむと髭を擦りながら頷く。

セフィーは目の前の老人がフィラート魔法学園の学園長であるという事に驚いていた。

また、自身の中で思い描いていた人物と実際の人物との相違が大きすぎて焦っていた。

老人の隣に座っている男性が無言で突っ立っているセフィーに確認するような声で話しかける。

「セフィルーナ君、今回の君の希望、 詠唱魔法で属性は光となっているが間違いないね。そして受ける位が最高位である第5、合っているかい?」

セフィーはゆっくり頷きそれに付け加えるる。

「はい。後、補助魔法の方は前回受けたので今回はっ」

「今回は攻撃魔法だけってことね」

言い切る前に豊満な体つきの女性が言う。

いきなり語りかけられてセフィーは驚いたが静かに首を立てに振る。

「学園長、どうします。」

学園長の隣に座る男性が尋ねる。学園長は「うむ」と頷き立ち上がる。

「この娘にはわしが課題を出そう」

そう言うと彼は脇に抱えておいた杖を手にとると、それを宙にかざし目をつぶり魔法言語を唱える。

「我が力の具現ここに示す。立ちはだかれ強靱なる岸壁の土よ」

魔法言語を唱え終わると彼の持つ杖に無数と埋め込まれた石が光る。

同時にセフィーの前の剥き出しの地面が音をたてながら隆起していく、隆起した地面は次第に形を整えながらそびえ立つ壁になる。その壁は彼女の身の丈の倍はある高さで、厚さもその半分はあった。

壁と呼ぶよりもただの岩に近いそれを見上げながらセフィーはいよいよだと気を引き締める。

その彼女に老人の声が届く。

「今回の試験内容はその壁を完璧にに破壊すること。制限時間をこえたら、こちらが知らせる。それまでにどんな方法でもいいかそれを破壊すること。ただし使って良い魔法は詠唱魔法に限る。もちろん光以外の属性の使用も禁止じゃ。それ以外なら魔法を使わずとも殴るなり蹴るなり好きにしてかまわん。まぁそんなことではその壁に傷一つつけれんじゃろうがの」

老人は説明し終えると椅子に腰掛ける。

壁の前に立ち試験開始の合図を待つセフィーに女性の検定員が尋ねる。

「あなた何か魔力を具現化する物は持っている。ないなら私が貸してあげられるけど」

心配そうに尋ねる女性にセフィーは明るく笑いながら答える。

「大丈夫です。私はいつも何も使わないから。それにちゃんとお守りもつけてるし」

セフィーは自らの髪飾りを見せる。

本当にこの少女は何の媒介なしでこの壁を破壊するというのか、検定員の女性はにわかに信じられなかった。

彼女がお守りと言って検定員に見せる髪飾りは、何らかの魔法の効果のある物なのだろう。

が、どう見てもこの岩を破壊するのに役に立ちそうにないものだった。

試験の開始をためらう検定員の変わりに老人が声を上げる。

「それでは、、、」

その声にセフィーはきゅっと下唇をかむ。

口の中にかすかに塗られたベージュの口紅の味が伝わる。

「試験、、、」

彼女の目にはすでに隣で心配そうに自分を見つめる検定委員の姿は映らなかった。

「はじめっ」


試験開始の合図と同時にセフィーは右腕を前に突き出す。セフィーの服が風に煽られたようにはためきだす。広げた手のひらに力を集中させ同時に魔法言語を唱える。

「我が命に答えし汚れ無き無数の光の剛剣。我に刃向かいしものを打ち砕けっ」

唱え終わると同時にセフィーの頭上に巨大な光の剣が五つ現れる。

セフィーは右腕を外向きに振る。

光の剣は彼女の動きに反応して壁の周りを円を描くように取り囲み旋回し始める。

先ほどとは逆に右腕を自分の体へと引きつけるセフィー。

再び彼女の動きに反応して動く光の剣。

旋回を止め一斉に壁へと突き刺さる。

すさまじい轟音とともに四方八方にと小さな破片を飛ばす壁。

「さすがじゃな。開始早々に何の迷いもなしに第4位範囲の詠唱魔法を使うとは。それも媒介なしで」

老人は感心したように言う。

セフィーは右手を下におろす。それと同時に壁に突き刺さっていた五つの光の剣がゆっくりと消える。

壁は五つの穴をあけ隙間から崩れる様に小さな欠片を落としてゆく。

しかし欠片がいくら落ちようと、壁本体はに砕けるところかそれ以上崩れ落ちさえもしない。その光景に老人はどこか満足そうに笑う。

「フォッフォッフォッその壁はその程度では崩れんよ」

セフィーは一瞬ちらりと壁の向こうへと視線を向ける。

そして老人と目が合うとにこりと笑顔を向ける。

「思ってたより苦戦しそうです」

笑顔で言う彼女の言葉とは裏腹にきりりと壁を睨む目はすでに普段の彼女の物ではなかった。獲物をねらう獣の目。セフィーの一番近くで彼女のことを見ていた女性の検定員はそう思った。

「正攻法でいかないなら」

そういいながらセフィーは右手をもう一度壁に向ける。そして先ほどと同じように手のひらに力を込めると同時に魔法言語を発する。

「我が敵を討て光の魔弾」

一瞬のうちにセフィーが唱え終わると、彼女がのばした手のすぐ前に、拳大ほどの光の玉ができる。

その光の玉は動き出したかと思うと凄まじい速度で壁へとぶつかる。

光の玉が壁にぶつかり音を立てる前にセフィーは全く同じ魔法言語を唱える。

最初の光の玉が壁にぶつかり壁の一部を破壊し始めた頃には三度、同じ魔法言語を唱え終える。

それによって作られた光の玉が動き出すと同時に二つ目の玉が壁にぶつかり音を立て始める。そしたらまた、とセフィーは同じ魔法を連続で、殆ど間をあけず発動させる。

セフィーはしばらくの間、同じ行程を繰り返す。壁は何度もぶつかり削られていくがやはり全体が崩れ出すことはない。

「そんなことしても魔力の無駄よ」

豊満な体つきの女性がセフィーに声をかける。

その声にセフィーは軽く笑って一礼すると途中までだった魔法言語を唱えおえ、降ろしていた左手を右腕の変わりに壁に向かって突き出し入れ替えるように右腕を降ろす。

左手の手のひらに力を集中させ、新しい魔法言語を唱え始める。

「悠久の時の流れし光の裁きよ。我が命に従いその裁きをここに下せ」

他の魔法言語と同様に唱え終わると同時にセフィーの周辺にいくつもの光の固まりが出現する。

最後に放った光の玉が壁にぶつかるのを合図にセフィーは左腕の手のひらを強く握りしめる。

その瞬間いくつかの光の固まりだったそれは数え切れないほどの無数の矢となりその全てが壁へと飛ぶ。

矢が壁に刺さるのを確認することもせずセフィーはまた右と左の腕を入れ替え、突き出した右の手のひらに力を込め魔法言語を唱える。

「立ち向かいし物を打ち砕く光の牙、今その力、我放たん」

唱え終えると、セフィーの目の前には彼女の身の丈半分はある円錐状の光の固まりが、その先端を壁に向けて出現する。

その光の固まりも今までと同じ様に壁に向かって高速で突き進む。

壁にぶつかった光の円錐は強引に前へ進みながら壁をえぐる。それに伴い壁全体にいくつかのひび割れが入り始める。が、そこまでだった。

光が消えた後には数え切れない数の丸い抉られたくぼみと無数の刺し貫いた様な小さな穴、穿たれたいくつかの大きい穴とその中でもひときわ大きな穴にそこからのびる何本かのひび。

今にも崩れてきそうなのにいっこうに崩れようとしない壁だけが残った。

壁が残っていることに呆れと驚きの入り交じったため息をつくセフィー。

「めちゃくちゃ頑丈だよこれ」

独り言のように呟く。

「先ほどの連続した魔法の攻撃は見事でした。あれだけ自在に光の詠唱魔法が使える人物は私は何人も見たことがありません。ですが、まだ壁は残っていますよ」

金髪の男性がセフィーの術者としての才能を褒めると同時に課題がまだ達成されていないことを改めて言う。

言われなくても解ってるっと、セフィーはそっと心の中でつぶやく。壁が崩れていないことぐらい実際に試験を受けているセフィーが一番解っていた。

こうなれば跡形もなく粉々にしてやると心の中で宣言する。

と宣言したはいいがどうしたものかとセフィーは悩む。

第1から第4範囲のの詠唱魔法は一通りすべて試した。試した結果が目の前の状況だった。

同じことをもう何度かやればこの壁は確実に崩れるだろう。

体力的にも魔力的に問題は無い。

だが、その方法だと時間がかかり、消耗し後の降霊魔法での試験に支障が出てしまう。

魔力を消費しない降霊魔法だとしても得意ではない属性、そのような状態で達成できるとはセフィーには考えられなかった。

水の詠唱魔法を使えばいとも簡単に終わりそうだが、もしそれをやったらその場で失格となってしまう。

できることなら一撃もしくは少ない手数で、それを光の詠唱魔法だけで、何よりも誰も文句の点けようが無いぐらい粉々にしたい。

「ちょっときついけどあの方法が一番いい方法かな」

セフィーは誰にも聞こえないようにぼそりと呟く。頭の髪飾りについた飾りの石が儚く光る。

両手を広げるとセフィーはゆっくりと深呼吸する。両手に意識を手中させ目を瞑り魔法言語を唱える。

「わが敵を討て光の魔弾。われは悠久の時を、、、、、、、」

セフィーが魔法言語を唱え始めると同時に彼女の右手の前には先ほど放った光の魔弾と同じ大きさの光の玉が現れた。

その様子を見ていた豊満な体つきの女性が落胆したと言わんばかりに呟く

「また第1範囲の光の魔弾連射をするわけ?芸がないわね。あの子だめだっ」

「いいから黙ってみておれ」

ところが、彼女が言い終わる前に老人が女性に注意する。

彼女はむすっとしてセフィーを見つめる。

「過ごし光の使い手。対になりし魔弾の光よ討てわが敵よっ」

セフィーの魔法言語に反応し右手の光の玉はそのままに今度は左手の前に同じ大きさの光の玉が出現する。

その光景に検定員の女性は目を見開く。

なおもセフィーの詠唱は続く。

「我望む、対は一つとなり光は増し敵を砕く魔弾となりし」

セフィーは両手を前に突き出す。

動きに応じて左右の魔弾は両手の真ん中あたりで一つとなりより大きな魔弾となる。

目を見開きセフィーは叫ぶ

「我、今放たんっ」

一瞬のうちに魔弾は壁へとぶつかり表面を削り全体にひびを入れてゆく。

セフィーはそれを見ようともせず今度は右手を真上に真っ直ぐ上げる。

左手を右手に重ね指を絡める。

そして早い口調で魔法言語を唱える。

「汝、我の前に立ち向かいし仇となり。光の気高き裁き我が代行す。光の鎚よすべてを裁け」

唱え終わりセフィーは両手を振り下ろす。

と同時に光の魔弾によって岩の壁は音をたていくつものの岩へと姿を変える。

ついに壁が崩れたのだ。

しかしその岩が地面に落ちる前に一筋の光が崩れ落ちる壁の真上から差し込んだ。

検定員の女性は崩れ落ちてゆく岩に差し込む光に目を奪われ、豊満な体つきな女性は光のまぶしさに目を細め、金髪の男性は慌てて立ち上がる。

「お前たち伏せろっ」

そして老人は叫んだ。

次の瞬間、衝撃が周囲を襲った。

細かった光は一瞬で壁を飲み込む大きい光の柱となり地面を穿つ。

崩れ落ちようとしていた岩は落ちきる前に光の柱によって粉々に砕け散ってしまった。

その小さな欠片が衝撃の余波で四方八方に飛んでいく。いくつかは近くにあった椅子にぶつかって小さな音を立てる

音がしなくなった後も衝撃は続いていたがやがて徐々に弱くなっていった。

衝撃がおさまったのを確認してセフィーはゆっくりと立ち上がる。

「ふぉっふぉっふぉっ見事じゃのう」

老人が若干色の変わった髭をさわりながらゆっくりと立ち上がる。

「まさかここまでやるとは驚きましたよ」

金髪の男性が髪や服についた小さなかけらや泥を払いながら立ち上がる。

「全くやってくれるじゃないの」

同じように豊満な体つきの女性も立ち上がる。

セフィーは彼らに向かって悪戯がばれたような子供のように謝る。

「ごめんなさいちょっとやりすぎました」

そして右手で自らの頭を軽く小突き、ぺろっと小さく舌を出す。

そんな仕草を見て3人は軽く笑った。

3人に軽く頭を下げ、セフィーはいまだに地面に座り込み呆然としている検定員の女性のところへと歩み寄った。

「あの、、、課題達成しましたけど」

セフィーの声で女性は我にかえった。

慌てて立ち上がりほかの生徒のときと同様に対処する。

「おめでとう。とりあえず課題は成功です。この後この結果を検定委員会で判断して結果を出します」

「後で本人当てに合否の判定書が届くわ。あなたの場合いい結果を期待してていいと思う」

女性の説明に頷きセフィーは審査員のほうへと向き直り一礼する。

検定の結果はその場ではすぐに出されずいったん審査にかけられることはセフィーも今までの経験から分かっていた。

「失礼します」

そういって彼女はその場を後にしようと背を向ける。

「まぁあ待ちたまえ」

そのセフィーの背中に呼び止めの声がかかる。

彼女は立ち止まり、声のほうへと振り向く。呼び止めたのは金髪の男性だった。

「結果を待たずともすでに答えは出ているよ。セフィルーナ君」

言葉の意味が分からずセフィーは首をかしげる。

「この状況を見なさい。誰が見ても課題達成は確実だ。」

そう言われセフィーは周囲を見渡す。

あれほど巨大だった岩の壁は跡形もなくなり剥き出しになっていた地面は元の倍ほどの大きさになり、さらにそこだけ抉れていた。少しやり過ぎたとセフィーは反省する。

後方で待機してる生徒の何人かは驚きで口が開いたままになっていた

「どう考えても合格間違いなしだ。いやここで合格と決定する。どうせ誰も文句なんてつけられないからな」

一人反省していたセフィーは突然のことに一瞬真っ白になった。

「へっぇ?」

つい変な声を出してしまい顔を赤らめる。

がすぐに冷静になって聞きなおす。

「それってこの検定が合格てことですか?」

「そうだ」

男性が低い声で答える。セフィーは驚きの声をあげる。

「本当にいいんですか。合格ってことで」

驚きと喜びの色がが入り混じった声に老人がやさしく微笑みながら言う。

「もちろんじゃ。わしが保障しよう」

セフィーは一気に笑顔となる。

「ありがとうございます」

その後も一人喜ぶセフィー。

検定員の女性がこほんっとひとつ咳払いする。その音でセフィーは、はっと女性のほうを振り向く。気のせいか女性が少し怒っているようにセフィーには見えた。

セフィーは女性に小さく頭を下げる。

「それではセフィルーナ・クレセント検定合格おめでとう。後ほどあなた宛に合格書が届くはずです。それまでは誰にも合格したことは言わないように」

「はい」

淡々と説明と注意をする検定員の女性に頷くセフィー。

どことなく話している女性の口調が納得のいかない風に聞こえるのは、セフィーだけに限ったことではなかった。

検定員の女性は性格的にこのような例外的なことを認めるのが嫌いなのだ。

彼女はセフィーがその場を離れるまで硬い表情を崩さなかった。

そんな彼女の様子を見ていた豊満な体つきの女性はただ苦笑いするしかなかった。


学園都市セルラノフィートに鐘の音が響き渡る。

円形の都市の中央には巨大な時計塔

時計の文字盤に刻まれた12の数字と同じ位置に立つそれぞれの学び舎

午後の穏やかな日の光が都市を静かに照らしていた。

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