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フィラート魔法学園-1

昔書いていた「語られる鎮魂歌」を見直し修正を加えながら書いています。

主に長すぎた説明や単調な人物描写を少し変えています

登場する人物や性格に変更などは特にありません

朝、街に時を知らせる鐘の音が響く


うっすらと霧の立ちこめる石畳の道を軽やかな足音が駆け抜けていく

露店の準備をしている商人や馬車から積み荷を降ろす御者たちの横をぶつからない様にとすり抜けながら少女は走っていた。

白いシャツと膝丈のスカートが風を切るかのようにかろやかに走っていく。

右手には厚い本がいくつも握られ左手には色のうすい亜麻色のローブがしっかりと握られている。

流れる汗をシャツの袖で拭う少女。柔らかな曲線を描くその健康的な白い肌はシミ一つ無く、うっすら上気していた。溌剌とした雨上がりの空のような透き通った青い瞳、彼女の体動きに合わせて後ろへとなびく細く艶やかな髪は明るい土の色だ。

「間に合うかなぁ」

少女が石畳が続く坂道の上に建てられた大きな建物をみながら呟く。

心配そうに見つめる顔は整った顔立ちのわりにどこか幼さを残している。

「どうして宿舎から学舎までこんなに遠いのぉ」

今にも泣き出してしまいそうな顔と声で少女は叫んだ。


 学園都市セルラノフィート

中央大陸の中心に築かれた学園都市。

この都市では一般教養から始まり医学、工学、魔法学、など多種多様な学問が学べる

幼い子供から年老いた老人まで、年齢や性別に関係なく学ぶ意志があるものにとってここはまさに楽園の様な場所である。


 少女が駆け上って行く坂道の上にこの学園都市でもって一際目立つ大きな建物がある。

「フィラート魔法高等技術学園」

通称、フィラート魔法学園

この学園では魔法と呼ばれる技術を基礎から専門的な分野まで学問として教育していた。

「はあ、はあ、はあ」

苦しそうに息を吐きながら少女は学園へと続く坂道を駆け上る。

「今日は大事な日なのに」

額の汗を手の甲でふく。

時折、躓いて転びそうになりながらも一度も止まることなく少女は走りつづける。


彼女を学園の敷地から一人の少女がみていた。腰まである長く真っすぐな金髪に褐色の肌、そして特徴的な切れ長碧眼の目。駆け上がってくる少女より少しだけ大人びた顔立ちにうっすらと笑みを浮かべ物陰に隠れていた。時折物陰から顔を出して様子を伺いながら目的の人物が来るのを今か今かと待ちかまえている。


「ついたぁ、はあ、はあ、まっ、まにあったぁああ」

長い坂を登りきり学園の敷地内に入った事で少女は嬉しくなり軽く両手を挙げる。

息を切らせながら走って来た甲斐があったのか始業の鐘はまだ鳴っていなかった。

走ってきたことで彼女の白い肌は淡く赤みを帯び蒸気していた。そんな彼女の背中へ近づく影。その影は彼女のすぐ後ろまでくると勢い良く飛びついた。

「おっそいぞぉお。セフィー」

そう言って褐色の肌の少女はセフィーと呼んだ少女に抱きつく。

「ひぁっなっ何?」

一方セフィーと呼ばれた少女は突然背後ら抱きつかれ慌てふためいた。

「こらっ。ひぁっでもなっ何?でもないでしょっ」

褐色の肌の少女はそう言いながらセフィーから離れた。

「ルっルシーナ、ゴメン遅くなちゃった」

セフィーは振り返りながら褐色の肌の少女に謝る。

彼女の前に凜として立つのは幼い頃からの親友にして、学園都市からでることが少なくあまり社交的では無かったセフィーにとって唯一、心の底から信頼出来るルシーナだった。

「全く、あんたのその遅刻癖は昔のままなんだから」

ルシーナはやれやれといった感じで息を吐く。親同士も古くからの友人で会った為、ルシーナとセフィーは子供の頃から仲の良い幼馴染でもあった。

その為ルシーナにとってもセフィーは掛け替えのない無二の親友だった。

「やれやれあんたは顔や体だけじゃなくて中身も少しは成長しなさいよね」

未だ大きく息を吸いながら呼吸をととえている幼馴染みに溜め息を漏らしながらルシーナはセフィーの頬をつつく。呆れた様な口調ながらも、その表情はとても優しかった。

「それより早く学舎入らないと遅刻になるよ」

セフィーは苦笑いしながらするりとルシーナの手から逃れ、それだけ言うと急いで建物に入ろうとする。

「待ちなさい、そんな汗だくな姿でいかないで。女の子でしょ。もう少し自分の見た目に気を配りなさい」

ルシーナは今にも駆け出さんとするセフィーの腕を掴んだ。だがセフィーは学舎の鐘を見ながら着替る服も暇も無いのだと訴える。そんなセフィーをルシーナはじっと見つめる。

切れ長の碧い眼に見つめられセフィーは不思議そうな表情で見つめ返す

「セフィー、私たちの身分は?」

心底わからないとした表情にルシーナは溜め息まじりにセフィーに問う。

「フィラート魔法学園高等魔法科 3回生」

すんなりと答えたもののセフィーは何故ルシーナが突然そんなことを尋ねるのか不思議だった。

「だったら魔法を使えるでしょ」

きょとんとしているセフィーにそう言うとルシーナは自分のローブの内側から愛用の杖を取り出した。肘から手の先程の長さのそれは白を基調として全体に細かな魔法言語が刻まれていた。それを右手にもちルシーナは魔法言語を口にする。

「水の力我が前に小さき渦となれ」

ルシーナの言葉に反応して彼女の杖が淡く光る。

次の瞬間セフィーの体の回りに水柱が上がる。そしてその水柱 はゆっくりとセフィーを中心に周り始め徐々にその速度を上げていく。

「わわわわわ」

セフィーはただそのことに驚くばかりだった。

やがてセフィーの周りを回転していた水は、勢いを失してゆき最後には地面へと吸い込まれていった。

ルシーナが放った水の渦でセフィーは服も髪すぶ濡れだった。とっさに放り投げた本だけは難を逃れ彼女の周囲に無造作に散らばっている。

呆然と立ち尽くす彼女を後目にルシーナは再び魔法言語を唱える

「清涼なる風邪の息吹きよ」

言葉に反応し杖が光る。

今度はほのかに花の香りのする風がセフィーの体を激しく何度も吹きぬける。

無造作に投げ置かれた本を風がしばらく弄ぶ。千切れんばかりに風に煽られ歪な形の言語が綴られた紙を次々に捲り続けたがやがてそれも収まっていく

風が治まる頃にはセフィーの髪も服も完全に乾いていた。

「これでよしっ 行きましょうセフィー」

「ほえっ?」

ルシーナは杖をローブの内側にしまうとセフィーに背を向けて建物の入口に歩き始めた。

後には今だにルシーナに何をされたのか良く解っていないセフィーが取り残された。

「待ってよルシーナァァ」

散らばった本を急いで拾い集めると彼女もすぐにルシーナの後をおって小走りで建物へとむかう。


 彼女たちの通うフィラート魔法学園は大きな学園である。入学に関して、年齢による制限は無いのだが、学園都市全体の決まりとして、基礎学校で3年以上の教育、もしくはそれと同等以上の社会的知識及び常識、を待ったものしか入学は許されない。


 そんなフィラート魔法学園の一角。

いくつもの教室が並ぶ廊下をセフィーとルシーナは並んで歩いていた。

セフィーは先ほどから自分の体や服からかすかに香る花の香りに首を傾げていた。

「どうしたの?セフィーさっきから」

そんな彼女にルシーナは少し心配そうに尋ねる。

「ねぇ、ルシーナ、さっき私に掛けた魔法って降霊魔法?」

ルシーナの心配そうな視線にセフィーは突然そんなことを言い出した。

いきなりなセフィーの言葉に、ルシーナは戸惑いはしたものの先程までの彼女の様子から何が原因か把握し、かすかに微笑みながら答えた。

「違うわよ。ただの詠唱魔法」

語尾を悪戯っぽくいう。

「でも……それなら何で花の香りがするの」

ルシーナを見つめるセフィーの瞳には不可解な事実に対する焦りの色が見て取れた。

ルシーナはセフィーの目の前に自らの右手を持っていきゆっくりとひらいた。

彼女の手の上には小指ほどの小さな小瓶がのっていた。

「ひょっとしてそれが原因?」

セフィーは首を傾げつつ言う。

「そうこれは香水。花の香りがする水をびんに収めて霧状に噴射するものよ。普段は直接服の上から付けるものだけどセフィーにはこの匂いは少しきつすぎるかなと思って」

だから風の詠唱魔法のときに少しだけ風にこれを交ぜたの、とにこやかに答える。

「そうなんだぁ。さすがルシーナだねそんな魔法の応用の仕方なんて私思いつかないよ」

セフィーが感嘆の声を上げる。

そんなセフィーに優しく微笑むとルシーナは一つの教室に入っていった。

「じゃぁまた後でねセフィー」

手を挙げて答えるセフィー。

「うん、また後で」

しばらく一人で歩き彼女もまた一つの教室に入っていった。


異世界マボロディア 

この世界には魔法が存在する。

精霊の恩恵を受けるこの世界。医学や科学と同様に魔法は身近なものであった。

研究も盛んで工学、医学と並び学問として広く普及している。

自らの体内に存在する魔力を特殊な言語で詠唱することにより具現化する方法。

それとは別にこの世界を形作る精霊を降霊させその力を具現化させるもの。

前者を詠唱魔法と呼び後者は降霊魔法と呼ばれていた。


 セフィーは席に着くと肩にかけていた小さな鞄から手のひらよりも少し大きい細長い箱を取り出す。蓋を開け中からとりだしたのは細長く片方の先端が二股に分かれ、反対には淡く水のように透き通る丸い石の飾りが付いた髪飾りだった。

そしてセフィーはぽつりと呟く。

「私がんばるよ。お母さん」

手に持った髪飾りをしばし眺めそして自らの頭につける。

明るい土色の髪とは対照的な色をした丸い石の飾りが淡く光を発していた。



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