第5話
オフィス街、その中にある変哲のない当たり前のビル。
ヤマト工機と書かれていた。
「本当にそんなものができると思っているのかね?」
「社長! 今すぐにでも始めないと間に合わないんです! すでに他社で同じ計画が進行しているんです! 技術的にはもう十分可能なんです! 今なら! 国家間交渉と税金投入処理に手間取っている今なら! ヤマト工機にも潜り込むチャンスがあるんです!」
机をバンと叩いて三浦が吠えた。その勢いに社長が身をのけぞらせる。
「無茶を言う‥‥」
「追加レポートです」
三浦が机の上にどさりと書類の束を投げた。
「カーボンナノチューブの強度計算と自重分散設計システムです。衛星側からの強度計算も出しました。全て現行のヤマト工機のみで設計可能な技術です!」
社長がレポートの見出し部分のみ、ぱらぱらとめくる。見出しだけで頭の痛くなってくるような単語のオンパレードだ。
社長がうんざりするような顔をする。
「‥‥もう少し言葉をわかりやすくして再提出してくれ、技術面は信じる。それよりもプレゼンできる形にしてくれ」
「社長! ありがとうございます!」
「一存では決められん、どのみち政府となると前社長に会わなければなるまい。ご老体にもわかる言葉を使いたまえ。……役員会議にはかけておいてやる」
「わかりました」
三浦は「技術者あがりの前社長ならあんたより理解するだろうよ」と内心で呟いたが、もちろん口には出さなかった。
廊下を早足で。
「みていろ・・・俺が一番なんだ!」