第12話
まだだいぶ若い三井麗香。
妙ににこやかに真新しい建物の廊下を歩いていた。
鼻歌が聞こえてきそう‥‥いや聞こえていた。
新しく作り直された筑波研究所はほとんど北畠のために作られたような物だった。
もともとは単なる新研究所として設立されていたが、その施設の半分をTA開発のために当てられたのだ。
麗香は第3研究室と書かれた部屋に、胸のIDカードを通して入っていく。
まだ荷物一つ運び込まれていないその部屋は妙に白く、広く感じられた。
その小さなグラウンドのような部屋の真ん中にひとりの若者がぼーっと突っ立っていた。
「俊和‥‥」
天井をゆっくりパン。
「見てよ‥‥三井さん‥‥」
「うん。凄いね。俊和の夢のかなう場所ね」
「うーん‥‥まだ全然実感がないんだ」
北畠がばりばりと後頭部を掻く。飛び散るフケに三井が眉をしかめた。
「会社が評価するのが遅すぎたのよ」
「それにしたって、今まで大学で一人でロボット作ってきて、この会社でもずっと一人で作ってきて‥‥今日から30人の部下を渡しますって言われても‥‥」
およそ彼の人生に体育館くらいしか思いつかないような巨大な建物をひたすらに見渡す。
「あらひどいわね、大学の時ずーっと手伝ってあげたじゃない」
「そうだった。はは、ごめんね、三井さん。なんか一人でやってるって思っちゃうんだ」
「そりゃあ、ソフトもハードもよくわからなくて、お買い物と雑用ばっかりでしたけどね」
北畠が首をきょろきょろさせるがイス一つない。
それを悟ったのか、麗香は壁を指さす。
「はい」
広い部屋で、壁の真ん中に座ってよりかかると、その広さがよけい強調される。
魚眼レンズのようなゆがんだ広さ。
麗香が白衣のポケットから取り出した缶コーヒー2つ。2人は並んですすり始めた。
「‥‥あれ? そういえばなんで?」
ここにいるの? とは続けなかった。
麗香が胸のプレートを見せる『第3研究室長付秘書兼研究員』
「また一緒に作れるね」
笑顔の麗香。少し赤面する北畠。




