シオン
開いてくれてありがとうございます。
遠くで電車の汽笛が鳴り響いた。僕はチラリと腕時計を見やる。
23:45
時間的に終電だろうか。そう思うなり僕は手に持っていた缶コーヒーを一口飲んだ。程良い甘さのミルクに程良い苦さ。まさに缶コーヒーっていう感じだな。ああ、けど美味いや。僕は缶コーヒーを机に置いてキーボードを叩く。検索エンジンにくだらないキーワードを入れて、くだらないサイトを開いてくだらない時間を過ごす。その繰り返しだ。開いたのは動画サイトだ。確かさっきも開いたはずだけど、また無意識に開いてしまったようだ。そうしてまた動画を見始める。はは、これ昼にも見たな。ま、いっか。
……
…
どれくらい時間が経っただろうか。画面右下のデジタル表示の時計を見てみると1:25分と表示されていた。俺はいったい何をしていたんだろうか。思い出せないや。確か延々と動画を見ていた気がする。けどその内容も思い出せない。ああ、また無駄な時間を使過ごしたようだ。けどいいんだ、もうどうでもいいから。
「フーッ」
煙草を吹かしてみる。辺りに紫煙が漂うが気にしない。だって気にする必要がないんだから。煙草を咥えながら家中歩き回ったっていいさ。けどそうする気力もわかない。僕は煙草を灰皿に置いた。そうして、またさっきと同じようにキーボードを叩き始める。
……
…
スピーカーで昔好きだった音楽が流してみることにした。それまで空虚だった空間が彩られる。こんな時間に音楽を大音量で聴いていいのかって?大丈夫だよ。だって誰も注意しないんだからさ。
ふと、キーボードを叩く要領で近くにあった写真立てを触った。そこには俺と……
あれ?
おかしいな。涙が溢れてきた。あはは、なんでだろうな。
僕はそっとスピーカーの電源を消した。
けれど涙は止まらなかった。
……
…
あれからまた時間が経った。今度は僕の部屋を出て隣の部屋にいた。そこはさっきの紫煙で染まった匂いではなく花の香りがしている。はは、そうだった。君はこの匂いが好きだったね。辺りを見渡すと整然としていた。ほら、君が居なくなってから掃除してみたんだよ。だからさ、戻っておいでよ。
……
…
遠くで電車の汽笛が鳴り響いた。僕はチラリと腕時計を見やる。
7:35
気がつくと朝だった。どうでもいいさ。また一時間したら寝て夜に起きて、また朝までさっきと同じことをする。それだけだ。
ちょっと前までは君がこの時間には朝ごはんを用意してくれていたね。僕はそれを食べて会社へ行く。それが僕の当たり前の繰り返しだったのに。
ポトッ。
手の甲に涙が落ちた。途端に身体が震えてしまう。
なんで……
なんで君は僕の前から消えてしまったんだ。
今度は声を荒げて泣き崩れてしまう。頭を抱えて、わめいて、手を叩きつけて……
これも繰り返しやってきたことだ。
けどいいんだ。
もう、君はいないから。
もう僕に怒ったり笑ったりしてくれる人はいないから……。
最後まで読んでくれてありがとうございます。