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一部端末で表記がおかしくなっている部分を見つけたので修正しました。対応が遅くなり申し訳ありません。
まずはランクとも呼ばれている『位階』。
他のゲームのようにレベルやパラメーターの数値で強さを把握できないアナザーワールドフロンティアでは、プレイヤー達はこれを見て各々の強さを大まかに把握しているらしい。
当然ではあるが『○○のタマゴ』と言うのは最低の位階だ。
位階が上がればNPCやギルドからの評価も上がり、受けられるクエストの数も増えるらしい。
続いて『称号』だが、これは様々な役割があるらしく、プレイヤーによって得られる物がまるで変わってくるようだ。
例えば腕力の高いプレイヤーなら『豪腕』の称号。
そして防御の高いプレイヤーなら『堅守』の称号等を獲得できるので、これもプレイヤーの能力や特性を知る目安になるらしい。
そして、もう1つの称号の重要な役割。
『闇の心得』や『炎の心得』がこれに当たるのだが、どうやらコレ等の称号は属性系の特技の取得条件らしい。
例えば初歩的でお馴染みの魔法であるファイアボールを例にすると、『炎の心得』がなければ絶対に使えない。
つまり、現状では私は『闇の心得』しか持っていないため、闇魔法しか使えないという事になる。
加えて闇魔法は破壊力に欠ける上に扱いが難しいらしく、魔法特化種族の私は今のままでは私は単なるお荷物になる可能性が高い。
幸い、チュートリアル後に行くことになる最初の街には魔導ギルドがあるらしく、そこで修行することで属性系の称号を取得できるらしい。
どうやら私の最初に行くべき場所が決まったようだ。
そして他にも『女神の祝福』やアニキの『守護者』等のようなものも有るが、これ等は現状詳細不明であり、おそらくステータスボーナスやイベントフラグの役割を持っていると考えられているそうだ。
……随分と曖昧な説明になってしまったが、正確に能力値を把握する方法が未だに無く、きちんと検証が全く出来ていないから仕方がないそうだ。
最後に『特性・技能』だが、これは文字通りプレイヤーが持つ特殊能力や技術を示しているらしい。
私の『魔呪角』やアニキの『獣身・狼』は選択した種族によって得られた種族特性と呼ばれる物で、それぞれ『魔呪角』は魔法の効果を高める力を、『獣身・狼』は狼が持つ特性が使える事を示しているらしい。
アニキの場合は狼の能力を使えるのだろう。
他にも人によって幾つか最初から持っている場合があるとの事で 、私は『魔見眼』で魔力を見る能力を、イツキは『精霊感応』で精霊と意思を交わす能力を持っているとの事だった。
そして、イツキの『純真』だが…セージさんも知らないそうで、今のところ正体不明なので放置するしかない。
ちなみに技能の方だが最初は一切所持していないが、適切な行動を取ることで随時追加されるらしく、とにかくリアルスキルが物をいうらしい。
つまり、料理が元々得意なアニキがゲーム内で料理をすれば即座に料理技能を取得出来るということだ。
だが、困ったことにリアルスキルが物をいうのは戦闘に関しても同じらしく、私達はチュートリアルの仕上げとして戦闘技能を取得するべく、武器を振り回していた。
「驚いたね…こんなに簡単に戦闘技能を取得するなんて本当に凄いよ」
セージさんが驚きと感心が入り交じったような声で言いながら視線を向けるのはイツキとアニキ。
セージさんがギルドから預かって来たという色々な武器の中から好きな武器を選び、黒いサンドバッグのようなターゲットを攻撃して適性のある武器探していたのだが、この二人に関してはあっという間に修得してしまった。
イツキは手に取った槍で何度か突いただけで槍技能を修得し、アニキにいたっては武器も使わずに適当に素手で一発ぶん殴るだけで格闘技能を修得してしまった。
アニキが元々空手経験者なのは知っていたが、いくらなんでも早すぎるだろう。
「あとはちーちゃんだけだよ、頑張って!」
「チバ、落ち着いてしっかり振るんだ。」
残るは私だけな訳だが、自分でも驚くくらい苦戦していた。
元々は魔法のための杖技能でも修得しようと思っていたのだが、杖を魔法の補助に使うのに戦闘技能は必要が無いそうなので、私も普通の武器を試すことにしたのだ。
今は両手剣を試しているわけだが、正直ただ構えているだけなのに怖い。
最初は小振りな片手剣を試していたのだが、斬りかかった時に刃が立たずに弾かれて手からすっぽ抜けてしまい、それが思いっきり自分に刺さって軽いトラウマになってしまったのだ。
幸いこの空間ではダメージは無いのだが、首筋に刺さった時の衝撃が頭を離れない。
実際の痛みよりはだいぶ小さいのだろうが、ろくに喧嘩もした事も無い私は痛みと衝撃で反射的に本当に死んだと思ってしまった。
「や、やぁっ!」
情けない掛け声と共に振り下ろした両手剣はヘロヘロとした軌道を描き、ぺちんとターゲットに当たる。
こんな様では当然ではあるが、ターゲットは傷ひとつ無く、技能も習得できていない。
「ちょっと!もっと良い剣無いの?当たってるのに全然斬れないじゃん!」
イツキがムッとした表情で武器に文句を言うが、駄目なのは自分自身が一番わかっていた。
「やめろ、イツキ。私がショボいだけだ…。」
「う~ん、確かにそこまで切れ味は無いけど…そんなに悪い剣じゃ無いんだよ?」
私が差し出した剣を受け取ったセージさんが、一見無造作に剣を振るいターゲットを見事に切り裂く。
「このゲームはリアリティー重視だからね…キチンと刃筋を立てないと上手く斬れないんだよ。」
セージさんの言葉に思わず私は顔をしかめた。
セージさんの言うことは調べて事前に知ってはいたのだが、実際に振って見るまでちゃんと理解できて無かったようだ。
そして、実際に振ってみても理解が身体に追い付いてないのが現状だった。
「大丈夫、剣以外にも武器はあるから…色々試してみよう!」
優しいセージさんに遠回しにやめるように言われてしまった。
魔法に全ての望みを託してしまおうかとも思ったが、セージさんが言うには魔法職でも護身用の武器は使えた方が良いとのことだった。
「ちーちゃん!ちーちゃんなら大丈夫!」
「落ち着いて考えながらやってみろ…お前なら大丈夫だ。」
正直ちょっとだけ諦めて街に引きこもって生産職でもやろうかと思っていたのだが、兄妹が傍に来て何やら期待のこもった目で私を励ましてくる。
ある日アインに突然VRMMOについて教えて欲しいと頼まれた事で始まった私達3人の関係だが、思い返してみると一緒に冒険したり戦ったりした事は数える程しかなかった。
元々グローリーファンタジー内では私はそれなりにベテランだった。アイン達にゲームを自分達の力で楽しんで欲しかったから最低限の指導や援助しかしなかったし、アイン達もそれを望んでくれた。
経歴の違いや生産職と戦闘職の違いもあり、3人一緒に本協定で闘った事なんて、最後のレッドドラゴンキング戦くらいじゃないだろうか?
だが、今は違う。
種族や生まれ持った能力は違うが、私もアインもアニキも、皆同じ新人冒険者だ。
「ハァ、解ったよ…でもあんまり期待するなよ?」
あたかも仕方が無いといった体で私は答えた。
決して口に出すつもりは無いが、私だって二人と冒険はしたいのだ。
我ながら素直じゃ無いが、二人の足を本格的に引っ張ってしまわない限りは一緒に頑張っていきたい。
「チバちゃん、武器はまだまだ色々あるよ!次はどれを試してみようか?」
何故か兄妹とセージさんに妙に生暖かい視線を向けられつつも、私は一度大きく深呼吸をした。
アニキに言われた通りに動くのは少し悔しいが、一度冷静になって考えてみる。
イツキがあっさりと修得したから勘違いしてしまったが、よくよく考えてみるとアインは体力と筋力が体質的に弱いだけで、運動神経が悪いわけでは無いのだろう。
まずは大人しく自分の運動神経の悪さを受け入れる事から始めなければならないようだ。
そう考えると近接武器は絶望的だろう。センスが無くても棍棒等は頑張れば力押しで何とかなるらしいが、私の場合は基本的な防御や回避すらも怪しい気がする。
此処は思いきって近接武器は諦めるべきだろう…痛いのは嫌だし。
考えがまとまった私はセージさんに問いかける。
「中距離とか遠距離の武器ってあります?」
そこからが大変だった。
弓にボウガンにスローイングナイフ、さらにはブーメランやチャクラムまで様々試すことになった結果、弓の弦が引っ掛かったりナイフが自分に刺さったり、チャクラムで指を切ったりと色々大変だったが、何とか一つだけだが武器技能を修得することが出来た。
「やったね!ちーちゃん!」
「よく頑張ったなチバ。」
「僕も一安心だよ、これで戦闘チュートリアルは終了だね!」
3人とも嬉しそうに声をかけてくれるのだが、私だけは素直に喜べなかった。
私は複雑な気持ちと共に手にした武器をターゲットに向かって振るう。
ースパッァァァァァンッ!!ー
ターゲットに命中し草原に乾いた破裂音が響き渡る。
結局私が修得出来たのは、まさかの鞭技能だけだった。
「ちょっと待て!何かの本で鞭は殺傷能力が低いって聞いたことあるけど大丈夫なのかッ!?」
確か、痛みを与えるのには適しているが致命傷を与えるのは難しく、主に拷問に適しているとか何かの本で読んだ気がする。
私、拷問する予定も拷問するつもりも一切無いんだけど!
「大丈夫安心して!私はちーちゃんがドSでも受け入れられるよ!」
「誰がドSだ!あと、チュートリアル中だったから流してたけどちーちゃんはやめろ!」
明らかに悪ノリしているイツキに怒鳴るように返すが、すでに彼女の中でちーちゃんが定着してしまった気がする。
「似合ってるから良いんじゃないか?よく解らんがしっくりくる気がするぞ。」
「やめてッ!アニキに言われたら本当にマジっぽいじゃないか!」
イツキと違ってアニキは滅多におふざけや悪ノリはしない。
自分でも種族特有の見た目のせいもあって、一気に悪の女幹部感が増した気はしてたけど、そこまで酷いんだろうか?
そして、私は今後闇魔法を使い始める予定なわけで……役満じゃねぇかチクショー!
「さてと!それじゃあ、そろそろ君達を通常空間に送るよ!」
「待って、セージさん!少しで良いんで魔法の使い方教えてくれませんか?」
このままだと役立たずになりそうな気がしたので、私はセージさんに無理を承知でお願いした。
魔法に関しては魔導ギルドでしっかり教わった方が良いと称号の説明と一緒に教わっていたのだが、せめて触りくらいは聞いておかないと不味い。
「仕方ないなぁ、残り時間が少ないから簡単にしか説明できないよ?」
どうやら私の武器訓練で相当時間を浪費してしまったようだ。
一応クエストらしいので、時間を越えたらセージさんに迷惑がかかりそうだから本当に簡単な説明だけ口頭でしてもらう。
「これから本格的にアナフロの世界に行くわけだけど、イツキちゃんはくれぐれもステータスを人に知られないようにね?本当に大変な騒ぎになっちゃうかもしれないから。」
「はい、せんせー!」
魔法の説明を終え、セージさんは改めてイツキに注意し、イツキも元気にそれに答える。
その辺りに関しては本当に教官役がセージさんで良かった。
すでに運営からイツキがバグやチートでは無いという返事は届いたが、教官役が普通の人だったらすでに大変なことになっていただろう。
「セージさん、色々とありがとうございました。」
「本当に色々と面倒をかけてすいませんでした…縁があればまたよろしくお願いします。」
アニキが丁寧な挨拶とともに頭を下げ、私もそれに習いつつ別れの挨拶を済ませる。
本当ならフレンド登録しておきたいのだが、それはゲームのシステム上出来なかった。
「何となく君達とはまた会える気がするな…その時は一緒に冒険しようね!」
セージさんが優しげな笑顔を浮かべながら光に包まれ、一足先にチュートリアル空間から消えていく。
そして、次はいよいよ私達がアナザーワールドフロンティアの世界に参戦する番だ。
「いよいよだね!私ワクワクしてきたよ!」
そう言って楽しげにクルクルと槍を振り回すイツキ。
チュートリアルで使用した武器はそのまま貰うことが出来た。
「ここから先は他のプレイヤーも居るんだ、はしゃぎすぎるなよ。」
イツキに注意を促すアニキの両腕には小型の盾。
素手で戦うアニキは武器の代わりに防具を選んだようだ。
「とりあえず、はぐれないようにな…そしてまずはギルドを目指すぞ。」
私もしぶしぶ鞭を手に今後の確認をする。
まずはギルドに登録した方が色々と便利らしい。
そして、いよいよ私達も足元から光に包まれ始めた。
「待っててよ、ママ!絶対に見つけるからね!首を洗って待っててね!」
「言い方!敵討ちじゃないんだからッ!」
雄叫びをあげるように宣言し、イツキは槍を天に突き上げ掲げる。
アインの亡くなった母親はアナザーワールドフロンティアの開発者の一人だったらしい。
主にAIを担当したというアインの母親は、その人格をAIにコピーし、アナザーワールドフロンティアに組み込んだという。
女神の愛し子…いきなりヒントを貰えるとは思わなかった。
アインは母親に会うためにVRMMOを始めた。
だが、今はそれだけじゃないはずだ。
「楽しみだね!ちーちゃん!」
イツキが楽しげに笑み向けてきて、アニキもこちらを見て小さく頷く。
アインに取っては母親に会うという大きな目的があるが、私にとっては単純に新しいゲームをプレイするだけでしかない。
今まで何度も繰り返して来たことではあるが、何故か私は笑みを抑えることが出来なかった。
人の手で作られた架空の世界での架空の冒険。
文章にすれば呆れるほどにチープになってしまうが、それでもこの冒険は特別になると凡人の私でも直感出来た。
「ちーちゃん言うな!」
「むぅ、ちーちゃんも頑固だな~。」
私達はじゃれあいながらも光に飲み込まれていく。
アナザーワールドフロンティア
これは単なるゲームの物語でしかない。
だが、私達に取っては…恐らくは全てのプレイヤーとっては間違いなく異世界での冒険譚となるはずだ。
今、私達の冒険が始まる。
中身が有るようで無い感じの説明回終了。次回からようやくゲーム本編に入ります。