05
今回と次回はほぼ説明回です。ジャンル別ランキングの末席に並ぶことが出来ました!読んでくれる皆様、本当にありがとうございます。
舞台はチュートリアル用に用意されたと思われる広い広い草原の一角。
私達は先程現れた男から話を聞いていた。
「まず始めに自己紹介だね。僕の名前はセージ、ギルドのクエストで君達の指導担当になったんだ。よろしくね?」
男はどうやらセージさんと言うらしい。
童顔なのでいまいち年齢は解らないが、何となく年上な気がする。
表示されている彼の名前をよくよく見てみると、確かにセージと表記されているが、表示されているのはそれだけでは無かった。
《静水剣 セージ》
静水剣…ジョブやクラスなのかも知れないが、どうにも違う気がする。
「えっと、始める前に質問とかあるかな?」
正直、聞きたいことは幾つもある。
だが、まずは確認しなければならないことがある。
「あの、いつから見てましたか?」
「あ、背中大丈夫?結構強く打ったみたいだけど?」
思わず私は顔を覆ってその場に膝から崩れ落ちた。
完全にアウトじゃないか。
どうやらセージさんは最初から見ていたらしい。
「もう大丈夫です…いっそ殺してください。」
「仲が良くて良いと思うよ?それに、もっとはしゃいじゃう人達もいるから気にすることは無いよ?」
セージさんは苦笑しつつも優しい声をかけてくれた。
セージさんがいい人過ぎて辛い!
「待たせてしまってすみませんでした。おいチバ…挨拶くらいちゃんとしろ。」
私と同じく凹んでいたはずなのに、流石にアニキは復活が早い。
アニキの言う通り、確かに自己紹介もろくにしてないのは不味い。
二人は私が来る前に済ませているようだ。
私は気持ちを切り替えて改めてセージさんに挨拶する。
「今さらかもしれませんが、二人の友人のチバです。本日はご指導よろしくお願いします。」
私がキチンとお辞儀をして挨拶を済ませたところで、ようやく私達はチュートリアルを開始した。
「三人ともVRの経験はあるみたいだから説明はアナフロに関する部分からで良いね。まずは自分のステータスを確認してみようか?」
略称なのは解るけど、正直アナフロという響きはどうなのだろうか?
極めてどうでも良いことを考えつつも、私は言われた通りにメニュー画面を操作し自身のステータスを表示した。
プレイヤーネーム
チバ
種族
魔呪族-女
位階
魔呪族のタマゴ
名も無き者
称号
用意周到
闇の心得
闇女神の祝福
技能、能力
魔呪角
魔見眼
所持品
E旅人の服
E旅人の外套
噂には何となく聞いていたがこれは酷い。
まさかステータスに数値が全く記載されていないとは思わなかった。
しかも、各項目についてもほとんど情報が載っていない。
「せんせー。HPとかMPもついてないけど、どうやって判断すれば良いの?」
片手を挙げセージさんに質問するイツキ。
確かにそこが一番気になる部分だ。
HPやMPの管理は生死に関わる重要な事だ。
「基本的にHPとMPも数値での表記は無いよ。ダメージや疲労が溜まると体が重くなったり力が入らなくなったりするから、皆感覚で判断してるね。
一応、HPやMPを視覚化する能力もあるにはあるけど、結構レアで需要に追い付いて無い状況なんだよ。」
イツキとアニキは頷きながら普通に聞いているが、私のような普通のゲーマーにとってはかなり衝撃的で過酷に感じる仕様だ。
昔から鬼畜ゲームは攻略法を死んで覚えるとよく言うが、要は自分の肉体でそれを実践しなければならないと言うことになる。
私としては例えVRだろうと流石にそんな真似はしたくない。
それに、私の能力には都合良くそれらしい名前の物がある。
「私の能力に魔見眼ってあるんですが、もしかしてHPやMPを視覚化出来る能力ですか?」
セージさんに確認してみると、やはり魔力や魔力量を見る事が出来る能力らしい。
「今のうちに他の能力もセージさんに確認してもらった方がいいんじゃないか?」
アニキの発言はもっともだ。
この不親切なステータスでは自分が何を出来るのかをまともに把握する事すら難しい。
「ん~、説明するのは構わないんだけど、このゲームで他人に能力を不用意に教えるのは注意した方が良いよ?」
セージさんが少し困ったような顔で教えてくれる。
他のオンラインゲームと同様に、周りのプレイヤー全てがライバルになる事もあるのだから、確かに注意するべきだろう。
「でも、セージさんは私達のステータス見ても言いふらしたりしないでしょう?それに、最初だから大した能力は無いだろうし…しっかり確認した方がメリットは大きいと思うんですよ。」
「確かにそんな事はしないし、君の言うことも一理あるけど…ほぼ初対面なのにそこまで信用しちゃうの?意外とお人好しなんだね、君も。」
私の説明に苦笑しながらも、セージさんは一応は納得してくれたようだ。
お人好しと言われてしまったが、私の場合は根拠があるから信用しているだけだ。
まずイツキが信用してるっぽい事。
イツキ…アインは生まれや育ちが特殊なせいか、彼女の人を見る目は相当な精度を持っている。
そして、次にセージさん自身が普通にイツキに話しかけている事だ。
私の経験上、普通の人間がイツキと最初に接した時、そのあまりの美少女っぷりに何かしらの過剰反応を示すのが当たり前なのだ。
知り合いの馬鹿賢者は出会ってしばらくはまともに会話できて無かったし、普段から一緒に行動する事の多い私ですら最初の頃は目を合わせることが出来なかった程だ。
それに対してセージさんは、先程初めて会ったにも関わらず、既に親戚の子に話しかけるようなノリでイツキに話しかけている。
私にはどうにも普通に人の良い青年にしか見えないのだが、恐らく彼も何かしらを持ってる側の人間なんだろう。
「チバ、どうすればステータス画面を皆に見せるように出来るんだ?」
つい、ごちゃごちゃ考えてしまったが今はまずチュートリアルだ。
手間取っているアニキに軽く操作法を教えたあと、私達は一斉にステータスを空中に表示させた。
プレイヤーネーム
クロガネ
種族
人狼族-男
位階
人狼族のタマゴ
名も無き者
称号
守護者
大地の心得
炎の心得
地女神の祝福
技能、能力
獣身・狼
所持品
E旅人の服
E旅人の外套
まずはちょうど近くにいたアニキのステータスから確認する。
予想はしていたが、どうやら女神の祝福は必ず取得できる称号のようだ。
ほんのちょっとだけ激レアチート能力を手にいれてしまったのかと期待した自分が恥ずかしい。
私はダルクリップなんとかって名前の闇の女神様だったが、アニキも恐らく同じように別の女神様に会ったのだろう。
プレイヤーネーム
イツキ
種族
聖人-女
位階
聖人のタマゴ
名も無き者
称号
天衣無縫
女神の愛し子
風の心得
光の心得
雷の心得
風女神の祝福
技能、能力
純真
精霊感応
所持品
E旅人の服
E旅人の外套
続いてイツキのステータスを確認してみた訳だが、私のステータスと比較してみると明らかに情報量が多い。
「これは私が少なすぎるのか、イツキが多すぎるのか…どうなんです?セージさん。」
「明らかにイツキちゃんが多すぎるね。しかも、種族が…聖人?技能や称号も僕の知らない物ばかりだね…。」
セージさんの話によると、普通は私程度の能力が一般的であり、人によってレアな能力が1つくらい有ったり無かったりする程度と言うことで、アニキのステータスでも本来は珍しい部類らしい。
ちなみに私は能力は普通だが選択した魔呪族は結構レアな種族で、癖は強いが人気はあるらしい。
「あれ?せんせー、私普通にヒューマンにしたはずだったんだけど?」
「えっと……」
自身のステータスを見ながら不思議そうに首をひねるイツキと、イツキの言葉になんとも困ったような表情で何故か助けを求めるようにこちらを見るセージさん……初心者に助けを求められても困ります。
多分、先行組も把握してない通常起こらないような事態が起こっているのだろうが、イツキが普通じゃないのはいつもの事だ。
とりあえず運営に問い合わせのメッセージは送るつもりだが、彼女の事だから恐らくバグやチートでは無いだろう。
「イツキ、ちなみに選択種族の候補は他にどんなのが出てた?」
「ん~?ハイエルフとエンジェルと、妖精貴族って言うのがあったけど、どれもパワー無さそうだから仕方無くヒューマンにしたんだよ!」
不満げなイツキの声を聞きながらちらりとセージさんの表情を確認すると、正に絶句という表現が相応しい程度には驚いているようだ。
恐らくどれも激レア種族なんだろうが、腕力至上主義のイツキの趣味には合わなかったようだ。
まぁ、これから先それらの種族と会う機会が有れば注意しておくとしよう。
「セージさん、このバカの事はいったん置いといて、解る範囲で教えてもらって良いですか?」
「むぅ~、ちーちゃん酷い!」
イツキは頬を膨らませているが、この娘がやる事にイチイチ驚いたりまともに相手をしていたら正直身体が持たない。
「そ、そうだね。じゃあ先ずは基本的な事から…」
我にかえったセージさんが色々説明してくれたお陰で、私達はようやくアナザーワールドフロンティアの不親切なゲームシステムについて理解することが出来たのだった。