03
シャワーを浴びて髪を乾かした私は、公式ホームページを見て特に問題がないことを確認すると、すぐにログイン出来るようにゲームのセッティングを済ませてベッドに横になった。
恐らくアインやアニキも自室で同じようにスタンバイしているはずだ。
横になる寸前にアインから『くれぐれも目と胸を設定でいじらないように!』とメッセージが来ていたが、それには『お前も身長誤魔化すなよ?』と返しておいた。
アインが身長が140㎝くらいしかないことを気にしているのは知ってるが、私も胸や目付きの悪さに関しては結構コンプレックスを感じているし、これでお互い様と言えるだろう。
下らない事を考えている間に時間になったらしく、意識が遠くような奇妙な感覚と共に私はゲームの世界へとログインしていく。
目を開き状況を確認してみると、上下左右全てが白一色に染まった世界に私は居た。
しかも、どういうわけか『身体』が無い。
いくらVRとは言え、流石に自分の意識だけしかない状況はどうにも気持ち悪い。
自分が何処に立っているのかも、今自分がどうやって周りを認識しているのかも、一切全てまるで理解できないのだ。
『アナザーワールドフロンティアの世界にようこそ。』
頭の中がぐんにゃりしてきた所でようやくガイダンスが始まったらしく、機械じみた無感情な声が聞こえてきた。
『いくつか質問をさせていいただきます。お好きなようにお答えください。』
早速キャラクター作成に入るのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。
アナザーワールドフロンティアはプレイヤーキャラクターとして選択出来る種族が何種類もあり、公式サイトの案内ではプレイヤーの選べる種族はある程度ランダムで決まると書いてあった…この問答はその辺りに関係あるのかもしれないな。
『問いイチ。あなたの性別をお答えください。』
しかし、好きに答えろとは…正直どう答えたら良いのか迷うな。
まずは性別を聞かれたわけだが…ガイダンスの言葉を鵜呑みにするのなら、ここで私は『男』と答えても『秘密』と答えても良いという事だ。
「……女だ。」
少し迷ったが、私はガイダンスに対してなるべく正直に回答していく事にした。
よくよく考えてみると、私達が使っているVRシステムの脳波を読み取るという性質的に、嘘をついたってバレる可能性の方が圧倒的に高いと思ったのだ。
好きにしろと向こうから言っているから嘘をついてもデメリットは無いと思うが、個人的に無意味に嘘をつく気にはなれなかった。
『問いロク。あなたの初恋は何歳の時ですか?』
「黙秘する」
無論、答えたくない質問に無理して答えるような事はしない。
『問いジュウ。あなたが好きな色を3つ教えてください。』
「…黒、紫、銀」
むぅ、我ながらチョイスが中二病染みてるな…。
質問はどれも大した内容ではないが一貫性が無く、自分がどのように判断されているのかまるで判断できない。
『問いジュウロク。好きな色を1つだけ選んでください。』
「……………」
あの…それさっきも聞きませんでしたか?
いや、恐らくはわざとなんだろう。先程とは微妙に質問の内容も言い回しも違う。
何なんだろうかこの質問攻めは…時折ガチで判断に困るんだけど?
さっき言った3つの中から答えるべきか?それとも新たな色を選択した方が良いのか?
いっそ、何も考えず適当に答えてしまおうか……。
「………黒でお願いします」
結局私は悩みに悩んだ結果、最終的にどうでもよくなって無難に黒を選んでしまった。
何だか洋服選びに悩んだ結果みたいになったけど、まぁ、良しとしよう。
ほら、私の名字も黒木だし?
『問いニジュウ。あなたの嫌いな色は?』
「また色ッ!?特に無いよ!何で刻んで色関連の質問ちょくちょく挟んで来るの!?」
さっきの質問で色関連は終わりだと思ってたから完全に不意打ちだった。
じっくり考えながら答えていこうと思ってたのに、驚いて反射的に答えてしまった。
何というか…来るならせめてもう少しまとめて欲しい。
『問いニジュウイチ。あなた自身を色に例えると?』
「確かにまとめて欲しいとは思ってたけど!」
もしかして誰かが観察していて、私で遊んでいるんじゃないのかと一瞬思ったが、流石にサービス開始直後の膨大な数のプレイヤー相手にそんな遊んでいる暇は無いはずだ。
………無いはずだよね?
『それでは最後の質問です。』
数で言えば38番目。ようやく質問攻めから解放してもらえるようだ。
たっぷり翻弄され悩まされたせいか、私はけっこう身構えていた。
『貴女はこの世界で何を目指し、何を望みますか?』
その質問に私は思わず笑いそうになった。
さんざん意表ばかり突いてきたくせに、最後の最後はどストレートに"それっぽい"質問だったからだ。
変な話。この質問で私はゲーム始めようとしていた事を思い出したのだった。
「さあ?これからゆっくり考えてみるよ。」
すんなりと答えた自分に少し驚いた。
苦笑混じりに発した声は、自分が思ったよりも明るいものだった。
きっと主人公のような存在や、才気溢れる人物。
それどころか少しだけでも自分なりの"特別"がある人ならもっと明快に答えるのだろう。
きっとあの兄妹も自分らしく快刀乱麻の回答をするはずだ。
それに比べてたかがゲームで四苦八苦している私は間違いなく凡人だ。
ならば、ここは凡人らしくその場凌ぎで先伸ばしさせてもらうとしよう。
まぁ、グダグダと思考を垂れ流してしまったが何を言いたいのかと言うと…要は不覚にもワクワクしてしまったのだ。
正直、こうやって自分に言い聞かせておかないと自分が特別だと勘違いしてしまいそうな展開だった。
『続いてキャラクターメイキングに移ります。
使用する種族を選択してください。』
ようやくキャラメイクに入れるらしい。
表示された種族は以下の通り。
《ヒューマン》
この世界において最も多く、最も大きい勢力を誇る種族。
特徴が無いのが特徴。
戦闘力も魔力も高いとは言えないが、その適応力は無限の可能性を秘めている。
《ハーフエルフ》
ヒューマン種とエルフ種の混血。
エルフ程では無いが身軽で高い魔力を持ち、ヒューマン種には劣るが筋力や耐久力はエルフ以上。
《ハーフドワーフ》
ドワーフ種とエルフ種の混血。
ドワーフ程では無いが小柄だが屈強な肉体を持ち、魔法もあつかえる。
だが、ドワーフ程では無いが他の人種に比べるとやはり動きが少し重い。
まず、この三種族は先程の質問とかと関係無く必ず表示されるらしい。
事前情報によるとどれも比較的使いやすさが重視されているらしい。
そして、どうやら先程の質問の影響だろうか…ボーナスとして以下の3つの種族が追加されていた。
☆パーソナルボーナス
《獣人族》
獣の特徴を持ち、鋭敏な感覚を持っている。
獣人はさらにその特徴で幾つもの一族に別れており、鳥人族もこれに分類される。
選択可能
妖狐族…様々な妖術を操る魔性の獣人。
筋力や耐久力は低い。
蝙蝠族…独特の感覚を持つ闇の住人。
探知能力は高く飛行可能だが、飛行能力は鳥人には劣る。
《ダークエルフ》
闇の精霊と共に生きる光が届かぬほどの深い森や洞窟、谷底等を住みかとする。
筋力や耐久力は低いが機敏で身軽。
《魔呪族》
魔素の濃い過酷な環境下に生きる特殊な人種。
高い魔力を持ち、魔術の扱いに長けている。
……我ながら随分と偏った種族ばかりになってしまったな。
自分を例える色まで黒と言ってしまったのが悪かったのだろうか?
さて、この中で私が選ぶべき種族は…