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一応第一章完結です!

誓約書の作成自体はカルタロッテさんがやってくれた。

交渉を重ねた末に完成した誓約書の内容は次のような物になった。


1つ、カルロッテさん達は水を汲む際、必ずクーシーの指示に従うこと。


1つ、もし万が一カルロッテさん達が妖精族から何らかの危害を受けてしまっても、絶対に反撃しないこと。


1つ、泉に妖精族が住んでいることは、絶対に口外しないこと。


1つ、以上の条件を厳守している限り、クーシーはカルタロッテさん達が水を汲む間の身の安全を保証し、その力で守護すること。


実際には文章はもっと堅苦しいもので、他にも細々とした約束事は書かれているが、大まかに説明するとこんな感じだ。

危害を受けても反撃しないというのは理不尽な気もするが、これは実際には悪戯好きの妖精達の事を考えての事らしい。

それに元々は最初の3つだけのはずだったのだが、不平等を嫌ったクーシーが色々と口を出した結果4つ目の誓約も加わることになった。

中々良好な関係を築けて居るのでは無いだろうか?


一応、女神への誓約書と言う事になっているのだが、実際のところはクーシーとカルタロッテさんを結ぶ契約書に近い気がする。


『さてと、それじゃあ教えた通りに頼むよ?』


「…本当に私がやらなきゃダメ?」


不安な表情の私にカルタロッテさんがニヤニヤしながら頷く。

誓約書を完成させ、改めてカルタロッテさんとクーシーと合流したのだが、どうやら二人とも本気で私を保証人にするつもりらしい。


『誓約の魔法は手順を重ねるほどに強力になる。利害に絡まぬ公平な立場で、尚且つ事情を完全に把握している貴様が一番の適任者だ。さっさと観念しろ。我も暇ではないのだ!』



カルタロッテさんに続きクーシーも尻尾を揺らしながら催促してくる。

どうやら誓約書の効力は技量や紙の品質よりも儀式の規模や形式の影響の方が大きいらしく、それで第三者として最適な立ち位置にいた私に白羽の矢が立ったらしい。

台詞だけなら真面目に理屈の通った事を言っている気はするのだけど、何となく面白がっているように見えるのは気のせいだろうか?見た目が完全にデカいワンコだから表情では判断できないけど…。


何だか色々不安はあるけど、先の事を考えるとここで二人との繋がりを強めておくのは私にとってもそう悪い話では無いはずだ。

プレッシャーでまた胃が痛くなりそうではあるが、普段やらない事をするのもゲームの醍醐味だ。ここは少し頑張ってみるとしよう。


舞台はすでに整っている。後は私が頷くだけなのだ。


「解った…じゃあ始めよう。」


わざわざ運んで来たと言う小さな円卓の中央に、私は受け取った誓約書を置いた。

さらに円卓のまわりを誓約を結ぶクーシーとカルタロッテさん、そしてカルタロッテさんの部下だと言う二人の男が囲む。

これで準備も完了らしい、後は私が儀式を始めるだけだ。


「私は魔呪族のチバ…今ここに、誓約の儀を執り行う。」


私が教えられた通りに出来るだけハッキリとした口調で儀式の開始を告げると、円卓に置かれた誓約書が淡い発光を始めた。

かなり緊張したが聞いていた通り、大体の意味があってればどんな口調でも儀式は発動するようだ。


続いて私は声に出して誓約書の内容を読み上げる。書かれていることが多くて噛むんじゃ無いかと不安だったが、何とか噛まずに読み上げることが出来た。

内容を読み上げ、内容に問題が無いことを確認することが重要なので、別に噛んでも問題は無いらしいのだが、やはりこう言う場面での格好は良くしておきたい。


「誓約書へその名を刻み、魂に誓約を刻みなさい。」


引き続き教わった通りの台詞を読み上げ、クーシー達へ誓約書を差し出す。

大袈裟な言い方に聞こえるかもしれないが、誓約の儀式によって本当に誓約が魂に刻み込まれるらしい。

これによって本当にペナルティが発生するようになると言うのだから恐ろしい。カルタロッテさんが言っていた命を賭けるという言葉は、比喩なんかではなくそのままの意味だったのだろう。


まず最初にカルタロッテさんが名前を書き込み、続いて二人の部下。そして、最後にクーシーが水魔法で造った手で羽ペンを持って名前を書き込んだ。


「誓約者の宣誓と、女神の承認を持って誓約書の完成とする!」


クーシーが魔法で名前を書いたのには少し驚いたが、私は手順通りに最後の台詞を言った。

そして、カルタロッテさんやクーシーが『誓約します』とハッキリと宣言した直後、誓約書が一瞬強い光に包まれ、新たな一文が書き込まれた。


《ダルクリップ=シュヴァルナート=ディスサイレスの名の下に、誓約を承認する。》


これでこの誓約書は単なる紙切れではなく、誓約を司る神聖な書物になったらしい。

保証人と聞いていたから借金の連帯保証人のようなものを想像していたのだが、今回の場合は誓約の正当さを保証する人間という意味合いだったようだ。


『称号《誓約の見届け人》を獲得しました』


特殊な体験をしたおかげで称号まで追加されてしまった。勇気を出して引き受けた甲斐はあったのかもしれない。


『…これで当面は何とかなるそうかな…ありがとうね、お嬢ちゃん。』


儀式を終え、ホッとした様子でお礼を言ってくるカルタロッテさん。

確かに一番大変な交渉は終わったが、むしろ私にとって必要なのは此処からの交渉だ。


『妖精族との橋渡しに儀式の進行までやってくれたからね、報酬をそれなりに用意させて貰うよ…』


私が何か言うよりも早く報酬の話を切り出してくるカルタロッテさん。私を強引に儀式に参加させたのは報酬を渡す解りやすい理由を作るためだったのかもしれない。


「いや、報酬はいらない。ただその代わりにひとつお願いを聞いて欲しいんだけど…。」


ブラッディベア戦で色々使ってしまったので報酬も魅力的だとは思うのだが、それよりも今はフェイトクエストの達成が最優先だ。

報酬を断って早速私はカルタロッテさんに事情を説明した。ブラッディベアの討伐クエストに失敗したこと、今の状態ではしばらく戦うことができないこと、急いでクエストを達成したいことなどを話す。


「それで、納品アイテムを探すためにカルタロッテさんに協力して欲しいんだけど……。」


『……お嬢ちゃん、それ本気で言ってるの?』


何故か反応がおかしい。カルタロッテさんの機嫌を害するような事は言っていないはずなのだが、知らず知らずのうちに何かやらかしてしまったのだろうか?


『貴様はそれなりに頭は回ると思っていたのだが、案外鈍いな。』


クーシーまで呆れた様子でそんな事を言ってくる。

一体私が何をしたと言うのだろうか。


『…確かに…実力を証明する機会を作るためにブラッディベア討伐みたいなクエストも発行してはいるけど…本来はブラウンウルフを倒せたり、それなりに雑用が出来る頭があれば本登録するんだよ?』


カルタロッテさんが苦笑ながらそんな事を言ってくるが、それくらい私も解っている。

状況的にそれが出来ないから困っているのだ。


『やれやれ…ハッキリと言わないと解らないのかな?』


なおも混乱する私にカルタロッテさんは笑顔と共にこう言った。


『…合格って事さ』












『フェイトクエスト《名も無き者の存在証明》を達成しました。』


『位階・《魔呪族のタマゴ》がランクアップ!《ひよっこ魔呪族》に変化しました。』


『位階・《名も無き者》がランクアップ!《新米冒険者》に変化しました。』


『ギルドカード(仮)が強化され初級ギルドカードに変化しました。』


『ギルドカードの通信機能が拡張され、10人まで登録出来るようになりました。』


『称号《記されざる選択肢》を獲得しました。』


『称号《妖精犬の友》を取得しました。』


あの後カルタロッテさんとクーシーに言われた通りに、二人が書いてくれた推薦状をギルド受付に提出したらアッサリとフェイトクエスト達成になってしまった。

カルタロッテさん曰くあの交渉を実行まで持っていった時点で、ギルドに登録する功績としては十分だったらしい。

何でもカルタロッテさんはギルド職員と言う訳では無いものの、それなりに影響力をもった協力者なんだそうだ。

しかも、ギルドに提示されていなかったやり方でクリアしたせいか新しい称号まで取得してしまった。《妖精犬の友》に関しては単に推薦状が影響しているのかもしれないが、この称号を獲得できたのは何となく嬉しい。


「良かったね、ちーちゃん!これで一緒に街の中に入れるね!」


交渉している間イツキとアニキの二人には先に行ってても構わないと伝えていたのだが、二人ともわざわざ私が来るのを待っていてくれたらしい。

二人も先程ギルド受付にブラッディベア討伐の報告を済ませ、受付の職員さんに盛大に驚かれながらも無事にフェイトクエストを達成した。

……ちなみに私がクエストを達成した時はあんなに良いリアクションはしてもらえなかった。『へ~』っていうくらいの軽いリアクションはしていたので一応特殊な例ではあるのだろうが、私と似たような形で達成するプレイヤーは案外多いのかもしれない。


「ふぅ……此処まで長かったな。」


「うん、これでもまだスタートラインに立っただけだと考えると、先行きが不安で仕方無いんだけど…」


「そう?盛り沢山で最高じゃん!私ワクワクしてきたよ!」


感慨深げに呟くアニキに私も同意する。かれこれ1週間はプレイしたような気分なのだが、実際にはまだ2日目なのだ。

テンションを上げるイツキの気持ちも解らなくもないが、散々苦労した身としては期待と同じくらい不安も大きい。


「本当に此処まで長かったな…」


私が見上げた先には街の出入り口である大きな門。

本来はブラウンウルフを数匹倒すだけですぐに辿り着ける場所だ。これを開けることで別に大きな変化が有るわけでは無いと思うが、この先が私達の冒険の本当に始まりなんだろう。

期待も不安も大きいが、こういう場面くらいは期待に臨みたい。


「よし!…じゃあ、行くか!」


私は努めて明るい声でそう言った。


「うん!折角だから3人で一緒に開けようよ!」


イツキが呆れるほどのハイテンションで応える。


「ん、了解だ…」


そしてアニキがいつも通りの調子で頷く。



「行くよ?…せーのッ!!」


恐らくは今後も無茶ぶりばかりするであろうイツキの合図に合わせ、私達は巨大な門を押し開いた。

本当はもう少し長く書こうかとも思いましたが、キリの良さを優先しました。

今回で完結にしましたが、話自体は続きます。


この話を色々改良し、あとで長期連載用に改めて作り直した物をあげたいと思っていますので、続きはしばらくはお待ちください。


※ステータスを載せるのを忘れていました。後日おまけとして追加します。

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