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相変わらずサクサク進みません。書いてる人もちーちゃんも必死です。

ブラッディベアには大きなダメージを与え、こちらのメンバーはほぼ無傷。

圧倒的に有利な状況になったと思ったのだが、現実はそう甘くなかった。


「何かフラフラする~」


確かに深く突き刺さった槍で敵の片腕はまともに動かず、四足移動も難しくなって機動力も制限されたようではある。

だが、こちらもイツキが武器を手離してしまった上に先程の一撃で魔力を使い切ってしまったらしく、実質戦闘不能に近い状況になってしまっている。

どうやら魔力を完全に使いきるとバッドステータスが発生してしまうようだ。

しかも、問題はそれだけではない。



「またアレが来るぞ!避けろ!」


敵の爪に魔力が集まるのが見えて私は叫んだ。

次の瞬間。ブラッディベアが魔力を纏わせた腕を大きく振り下ろすと、爪から放たれた魔力が真っ赤な斬撃波となって私達に襲いかかって来る。


早めの回避行動が功を奏して私達は危なげなく回避に成功するが、真っ赤な斬撃は代わりに幾つもの木々を切り裂いていく。

予備動作が解りやすいので今のところ命中はしていないが、当たれば間違いなく終わりだ。

ボス戦ではよくあることではあるが、ダメージの蓄積によって怒り狂い、戦闘パターンが変化してしまったようだ。

さらに体表を荒々しい魔力が覆っているせいか、夜雀もほとんど効かなくなってしまっている。


「イツキ!撤退した方が良くないか?」


私は魔力の動きに注視しつつ問いかけた。

敵の攻撃は凶悪だ。アニキに支えられてようやく立っているような有り様では、流石のイツキでも分が悪すぎる。


「ヤダ!もう少し攻撃すれば勝てそうだもん!」


当然のように撤退を拒否するイツキ。予想通りの答えではあるが、私としてはさっさと撤退して次に進みたいというのが本音だ。

予想外に善戦してしまっているが、こんな化物の相手は本来初心者がやることじゃない。

ある程度覚悟はしているとはいえ、このゲームの鬼畜っぷりを考えると出来ればデスペナルティは受けたくないのだ。痛いのも嫌だし!


「お兄ちゃん、私の槍もう少しで押し込めないかな?そうすればいい感じに肺とか内臓をぶち破って倒せると思うの!」


可愛い顔してそんなエグい発言をしないで欲しい…。

だが、イツキの言う『もう少しで倒せる』という発言には一応根拠はあったらしい。

確かにアニキが槍の石突あたりにパワースマッシュを叩き込んだりすれば、上手くブラッディベアにトドメを刺すことが出来るかもしれない。


「遠距離攻撃が厄介だな。それに、俺が攻撃するとなると、お前の安全を確保する奴が居なくなってしまう…現状では難しいな。」


倒せる可能性はある。だが、やはりこちらの状況が良くない。

元々3人という少ない人数で戦っている私達の場合、一人動けない事がかなり致命的な事態になってしまっている。

冷静に考えるのなら、クーシーに助けを借りて撤退するべきだ。


「ちーちゃん、何とかならない?」


実行役であるアニキが難色を示した以上、話は終わりなはずなのだが、イツキはすがるような目付きで私を見てくる。


普段はそうでもないのだが、ゲームとなると彼女は本当に我が儘で諦めが悪くなる。

体が弱い彼女の場合、自由に体を動かせるゲームでまで何かを諦めるという事は、本当に嫌な事なんだろう。


たかがゲームに何を熱くなっているんだ…とは言えない。私もイツキとは本来プレイスタイルが全く違うタイプではあるが、それでも同じゲーマー仲間だ。

仲間が本気で助けを求めているのなら、こちらも本気で応えなければいけない。

私はブラッディベアに対して、本当に全てを出し尽くしただろうか?


「仕方無い、な……魔力が持つ間だけだぞ?魔力が切れそうになったらすぐにクーシーを呼んで撤退する!」


「チバ、やるんだな?」


確認してくるアニキに私は一度だけ頷いた。こんな時にこういう言い方しか出来ないとは、我ながらそうとう性格が悪いと思う。


「やった!ちーちゃん大好き!」


「うっさい!あと、ちーちゃん言うな!」


嬉しそうに笑うイツキに乱暴に怒鳴り返しつつ、私は魔力を練り上げ始めた。

今のブラッディベアに夜雀は効かない。だが、やり方を変えてどうにかして隙を作れれば、アニキが何とかトドメを刺してくれるはずだ。


「行け夜雀!」


私は練り上げた魔力でまず夜雀を生み出した。無論効かないであろう事は解っているが、それでも構わずブラッディベアに放つ。

私がまず行うべきなのは観察だ。何故夜雀が効かないのか?まずはそれを解明しなければならない。

私は魔見眼に意識を集中しつつ、夜雀とブラッディベアを観察する。

ゆっくりと飛んで来る夜雀を叩き落とそうと、ブラッディベアが残った片腕を振り回す。

夜雀は攻撃力な皆無な代わりに実体も無いため、本来は腕で物理的に叩き落とすことは出来ないはずなのだが、ブラッディベアの振り回す腕が当たりそうになるたびに夜雀の魔力が減衰していき、ついには腕が直撃して完全に消滅した。


大方予想通りの結果が得られて確信した。ブラッディベアの腕に当たっていない時も夜雀が減衰したのは、ブラッディベアが纏う魔力にぶつかっていたからだろう。

ブラッディベアが特別なのか魔力全般がそうなのかは解らないが、どうやら魔法は魔力をぶつけるだけで簡単に相殺出来る物らしい。

何だか魔法使いの卵としては先行きが不安になる結果を得てしまったが、とりあえずブラッディベアが全身に魔力を纏っている限り、夜雀はあまり効果がないようだ。


「暗く深き闇に閉ざせ!夜雀!」


ついでに込める魔力量を増やした場合でも試してみた。

夜雀は魔力をいくら増やしたところで結局やることは単なる目隠し。込める魔力を増やしても無駄だと思っていたのだが、どうやら魔力を増やせば多少は打ち消しづらくなるらしい。


とはいえ、今求められているのはトドメを叩き込む隙を生み出すことだ。結局目隠ししてもブラッディベアが暴れてしまえば意味がない。もっと他の手を考えた方が良さそうだ。


「ガァッ!!」


ブラッディベアが私を狙って魔力の刃を飛ばしてくる。どうやら私の実験が鬱陶しいようだ。

だが、機動力が下がった今の状態なら、魔力を見れば私でも攻撃は余裕で避けられる。


「魔角砲!」


次に私が試したのはシンプルに全力の魔力攻撃だ。これで転倒でもしてくれれば話は早いのだが、やはりそう簡単には行かず、普通に踏ん張って耐えられてしまった。

それなりに衝撃はあるはずなのだが、ブラッディベア相手には力が足りないらしい。


「グルルッ!!」


私もしつこいのだろうが、向こうもしつこく魔力の刃を飛ばしてくる。

避けられる攻撃ではあるが、即死級の攻撃を避け続けるのは精神的にキツい物がある。


「暗闇で覆い隠せ!夜霧!」


結局魔力の撃ち合いは私が先に折れてしまった。

闇を使うことにも馴れたので、それを利用し即席で防御魔法を創る。

魔力の残りがそろそろキツいが、私は呪角も使って大量の闇を生み出して自分達の姿を覆い隠していく。

これだけの規模の闇ならば、何発か魔力の刃を飛ばされても消えはしないはずだ。


「ゴメン、そろそろ手詰まりだ…二人は何か浮かんだか?」


そして、私が闇に紛れて行ったのは二人への相談だった。

我ながら情けないとは思うが、さすがにそろそろ限界が近い気がする。

残念な事に私では結局魔力弾と暗闇以外の劇的な方法を思い付く事はできなかった。


「すまん、俺も一か八かの特攻しか浮かばん…」


申し訳無さそうにアニキが答える。確かに私と連携して突撃すれば可能性はあると思うが、そんな危険な方法を認めることは出来ない。


「む~!せっかくここまで追い込んだのにぃ!」


珍しくイツキも何も浮かばないらしく悔しげな表情だ。どうやらこの辺りで大人しく撤退した方が良いようだ。


「グガァァァァッ!?」


その時、ブラッディベアが唐突に悲鳴を上げた。


「え?何ッ!?」


「何があった!?」


二人は少し驚いたようだが、魔見眼で暗闇ごしにブラッディベアを見張っていた私には全て見えていた。


「惜しいな…バランス崩して勝手に転んだみたいだけど、もう立ち上がったよ。」


魔力だけしか見えないので確実ではないが、魔力刃を連発しているうちに自分の腕の長さと重さに振り回されたようだ。

禍獣の異形の姿が仇になった絶好のチャンスだったが、残念ながら今の私達は距離を取りすぎていた。


「二人とも、このまま闇に紛れて撤退を……」


「ねぇ、ちーちゃん、もう少しだけ魔法行ける?」


私は完全に撤退するつもりだった。

だが、イツキは何かを思い付いたらしく、私の言葉を遮って微笑む。

どうやら諦めるにはまだ少し早かったらしい…。


悪戯を思い付いた子供のような表情のイツキから最後の作戦の説明を受ける私とアニキ。

完璧な作戦とは言い難いが、確かに行けそうな作戦ではある。

魔力の残量も限界だ…どう転んでも次のラストアタックで確実に決着が着くだろう。



半端な所ですが文章的にキリが良いので今回はここまでです。次で決着はつく予定なので、なるべく早めに投稿できるように頑張ります。

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