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フェイトクエスト
《名も無き者の存在証明》
己の力で功績を挙げて、己の存在価値を証明せよ。
達成条件
ギルドに認められる。
シンプル極まりない上に漠然とした内容だが、全員に強制的に発生した以上、間違いなく重要なクエストのはずだ。
「ギルドの登録を希望する方は星の数程いますが、ギルドが必要としているのは人々の役に立つ事が出来る人材だけです。仮登録者向けのクエストも発行してますので、そちらを御覧ください。」
案内役のお姉さんの説明のお蔭でやるべき事は解った。
言われた通りにクエストボードを見に行ってみると、思った異状にさまざまなクエストが並んでいた。
『回復薬10個の納品』
『ロングソード1本の納品』
『薬草30本の納品』
『ブラウンウルフ10頭の討伐』
『シロハネウサギの狩猟』
『ギルドの通常業務の補助』
パッと見ただけでもこれだけのバリエーションがあった。
受付の手伝いというのは珍しいが、全体的に見ると納品数は多少多いが普通のゲームの基準から考えるとそんなに難易度は高くなさそうだ。だが、そこは必要以上にリアル過ぎるアナザーワールドフロンティア。クエストボードを見ていると受付の方からこんな声が聞こえてきた。
「ちょっと待てよ!クエスト達成にならないってのはどういうことだよ!」
「シロハネウサギで一番価値があるのは美しい毛皮です。このような雑な仕留め方では認めることはできません!」
「薬草の見分け方が解らないんですけど…」
「二階に図鑑がありますので、そちらを確認して見分け方を覚えてください」
「剣の材料が有料ってどういうことだよ!」
「素人の練習の為に資金は出せません。買うのが嫌なら自分で掘ってきて下さい。」
少し聞き耳を立てただけでこれだけの声が聞こえてきた。どうやら受付に並んでいるのは殆どが文句や問い合わせの人達のようだ。
案内役のお姉さんに聞いてみると、生産系のクエストは鍛冶や調薬の指導者の紹介まではやってくれるそうなのだが、その練習に必要な材料や資金は自分で用意しないといけないらしく、その上最低でも品質C以上で無ければ納品アイテムとして認められないそうだ。
生半可な覚悟では生産系クエストも達成できそうにないようだが、戦闘系の依頼が大変なのも一応の戦闘訓練を積んだ私達には容易に想像できた。
当然全員が同じクエストを受ける筈も無く、ちょっとしたトラブルと情報交換から始まったグループ行動だったが、話し合いの結果、私達はついにここで解散することになった。
「さて、俺達はどのクエストに挑戦しようか?」
生産系に挑戦するプレイヤー達との連絡網を調整するというフランさんとも別れ、再び三人だけになった私達は挑戦するクエストについて相談を始めた。
ちなみに私のおすすめはギルドの手伝いだ。何と1日一時間程度の手伝いを一週間するだけでほぼ確実に本登録してもらえるそうだ。空いた時間は二階にあるという資料室での情報収集に使えば無駄もなくなるし読書もできる!我ながら実に合理的なアイデアだと思う。
「一番強いのをやっつけよう!」
「…やっぱりそうなるか。」
無論、楽しさ最優先のイツキが合理的な考えで決めてくれる筈もなく、当然のように私達は一番の大物を狙う事になった。
《特定禍獣・ブラッディベアの討伐》
障気に犯されたブラウンベアが異形化し、周辺の木々や生物に多大な被害をもたらしています。
討伐可能な実力を持つ登録者は、直ちに討伐に向かってください。
極めて凶暴で強力な個体のため、くれぐれも御注意ください。
一応これもクエストボードに貼ってあったのだが、明らかに他の討伐系のクエストとは雰囲気が違う。
障気とか異形化とか怪しい単語が出てきてる上に、ご丁寧な事に凶暴とか強力とかまで書いてある。しかも、特定禍獣って何ですか?
よし、イツキに見つからないように隠そう!
直感的にそう考えて依頼書に手を伸ばしたのだが、本当に、本当に残念な事にイツキの反応は私が思ったよりもずっと早かった。
「決めた!これにする!ちーちゃん、急いで準備しよう!」
タッチの差で私より先に依頼書を剥がしたイツキが、瞳をキラッキラさせながらそう言って私を見てくる。こうなってしまった以上、私がどれだけ反対しても無駄だろう。ならば、少しでも勝率を上げるために、出来る限りの事をしなければならない。
「慌てるなイツキ。こんな化け物に挑むなら、準備は万全にしないと駄目だろ?」
「チバのいう通りだ。考え無しに突っ込んで全滅したらどうするんだ?」
「ぅ…そうだね、確かに戦うからには勝った方が楽しいし…まだ町もちゃんと見てないもんね。」
アニキも一緒に説得してくれたお蔭で、一先ずイツキを落ち着かせる事には成功した。次は具体的にどんな準備をして、どんな風に戦うのかを考えなければいけない。
「アニキ、イツキ。悪いけど買い物は任せて良いか?私は資料室に参考になる情報が無いか調べてみる!」
強そうな相手ではあるが、クエストとして貼り出されているのなら、私達のレベルでも戦うことは可能なはずだ。そして、わざわざ資料室が用意されているのだから、ヒントはそこにある可能性は高い。
「チバ調べるのは構わんが、時間は次のアナウンスまでにしてくれ。」
「そうだね、ちーちゃん本を調べるのは得意だけど、時間決めておかないと関係無い本まで読み始めちゃうから…。」
せっかく私が勝利の為に一肌脱ごうと思ったのに、酷い言われようだ。一瞬反論してやろうかとも思ったが、残念ながら確かに多少の前科はあるので今回は大人しく言うことを聞くしか無かった。
「解ってるよ、私だって早く本登録を済ませて街の中に行ってみたいしな。」
兄妹を見送り、私は早速資料室に向かった。意外と狭い部屋だが思ったより沢山の資料があり、基本的に日本語で書かれているようだが、中には見た事が無い文字で書かれた書物もある。
正直気になる本はいっぱいあるのだが、今回は調べることは決まっていたので職員の人に聞いて必要そうな資料だけに絞って読み始める。
今日中に街に入る事を目標にするなら、残された時間はあまり無い。
私は気を引き締めて一冊目の本に手を伸ばした。
『プレイ時間が二時間を経過しました。ログアウトしてゲームを終了してください。』
兄妹との打ち合わせの通り、今回のターゲットについて調べていたのだが、解ったのはヤバそうということだけだった。
まず、障気についてだが、これはこの世界における悪いエネルギーの総称のような物のようだ。強い恨みや怒りによって発生し、障気に犯されると正常な判断力を失い、狂暴化し全ての生物に対して害をなすらしい。
障気については割りとテンプレ通りなのだが、ヤバイのは異形化の方だ。
強い障気に長時間晒されると、通常なら肉体が耐えられずに死に至る。だが、時々障気に肉体に馴染んで変質してしまうことがあるらしい。変質と言っても普通なら体色が変わったり、障気が定着し死を迎えても動き続けるアンデット化する程度らしいのだが、極希に障気と宿主の魂が完全に融合してしまう事があるという。そうなってしまった生物は障気を無尽蔵に産み出し続ける化け物となる。それが禍獣だ。
禍獣は世界に対する害悪その物だ。放置しておくと障気によりどんどん狂暴になっていき、それだけで無く障気で肉体をより強く、より凶悪な物へと変化させていく。この段階が異形化だ。
異形化して元の生物と殆ど別物と言えるほどに変化して強くなったことが確認された禍獣。それが特別危険指定異形化禍獣…略して特定禍獣。
今回の我々のターゲットである。
「どう考えてもボスキャラじゃねぇかッ!」
「良いねぇ!燃えてくるねぇ!」
ちょっとした絶望感で机に突っ伏す私とは対照的に、時間通りに迎えにきたイツキは私の説明を聞いてノリノリで嬉しそうだ。私と彼女のテンションは反比例するようになってるのだろうか?
「元となったブラウンベアというのはどんな奴なんだ?」
「この辺の森では一番でかい生物…普通の個体でも一対一で相手にするような相手じゃないらしい」
私の答えにアニキも表情を少し曇らせる。ターゲットについて確認するためにクエストボードを見たのだが、どうやら普通のブラウンベアでも一体倒せばクエスト達成になるレベルのようだ。
「大丈夫大丈夫!一生懸命探し回ってポーションも何個か買ってきたし!慎重に行けば何とかなるよ!」
「予想以上の値段で所持金は殆どゼロになってしまったがな…」
正直聞きたくなかった情報だった。
二人が調べた情報によるとこの世界の回復薬はすぐに効果が出るものと、効果が出るまで時間がかかるものに別れるらしく、すぐに効果が出るものは値段が跳ね上がるとの事だった。そして、外縁部の町に唯一ある速効性の物がポーションであり、その値段は何と1つ銀貨3枚。下手な武器よりも高い値段だったそうだ。
ポーション1人2つに補助の回復薬、そして水と食糧。これで私達の資金は殆ど無くなってしまった…確実に後には退けない状況になってきている。
「せめて水や食糧がもう少し安ければな…」
「……確かに、どうすれば良いんだろ?」
皮袋に入った水をアニキから受け取って思い出したが、水辺に陣取っているという魔物はどうなっているのだろうか?クエストボードでそれらしいものを探したのだが、まるで見当たらなかった。
禍獣と一緒についでに調べたのだが、魔物は強い障気で禍獣が生まれるのと同じように、強い魔力によって変質した生物の事だ。ただし、こちらは禍獣と違って必ずしも害悪な生物という訳ではない。何かしら、クエストに出来ない事情があるのだろうか?
「じゃ、一旦休憩したら早速ボスの所に向かおうか?」
「そうだな、チバ。今度はちゃんと食事をしに来るようにな?」
「……あぁ、うん。解った。」
どうにも魔物の事が気になって頭から離れないが、兄妹のいう通りに一度ログアウトすることにしよう。魔物の方についても、現地に行けば何か解るかもしれないし。
キリが良い所までいったら全体を確認して色々修正したいと思います。タイトルもまた変えるかもしれません。…本当にノープランですみません!




