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体調崩して遅くなってしまいました。申し訳ありません。

本当に時間制限があって良かった。

アニキも流石に遅刻をする気は無いらしく、今回は短時間の説教だけで許してもらうことが出来た。

イツキの方は中々怒りが収まらないようだったが、先程入手したアイテムを分けることで何とか許しくれた。



《砂利麦の黒パン》

品質E

等級の低い小麦粉を何とかパンとして仕上げたもの。

硬くて食べづらいが、腹持ちは良い。


製造者・食料ギルド



「アハハッ!不ッ味いね、コレ!」


私も驚きと共にイツキが発した感想に同意する。


「何だコレ、硬いし口当たりも悪いし味も変だ……」


完全VRと言うだけあって、味覚や舌触りを鮮明に感じることができるのだが、どうにもこのパンは味がおかしい。イツキは笑っているが、低品質のアイテムだから雑に作ってるんだろうか?


「黒パンだとしても雑味やえぐみが随分と強い……なるほど、精選技術が低いと考えれば、確かにこういう味になるか。」


困惑する私とは逆に、アニキはむしろ納得しているようだった。

基本的に栄養を取れれば良い私とは違いアニキは色々と料理や食材に詳しいし、何かに気付いたのかもしれない。


「コレはライ麦パンのような物だな、味が多少悪いのは小麦粉の品質の問題だろう。」


「ライ麦パンって名前くらいは聞いたことあるけど、コレおかしくないか?パンの癖に何か酸っぱいんだけど…」


アニキが具体的な例を出してくれるのだが、生憎そんな物は食べたことがない。第一、私が知っているパンとはあまりにもかけ離れている。


「ライ麦パンは普通のパンと違いイーストではなく、サワー種で膨らませるからな…酸味があるのは当然だ。」


「普通に作ってくれた方が旨いと思うんだけど?」


「ライ麦と普通の小麦は厳密に言えば別物だ。ライ麦は普通の小麦よりも生命力が強いらしいからな…この世界ではこちらが主流なのかもしれん。」


変なパンだと思っていたら、どうやら根本的な部分から違っていたらしい。

完全VRという事で美味しいものが食べられると思っていたのだが、どうやらこの辺りにも悪い意味でのリアル志向が出てしまっているようだ。


「おや?どうしたんですか?そんな、微妙な顔をして…」


どうやら色々な意味で凹んでいるのが顔に出てしまっていたらしい。合流したフランさんに変に思われてしまったようだが、いつまでも気にしていても仕方ないので、フランさんには大丈夫だと伝え、さっさとギルドを目指すことにする。





目的地のギルドだが、何と街を囲む防壁と一体化した形状の建物だった。

赤髪と金髪がやらかしたという門番の詰め所から結構近い位置にあるのが微妙に怖い気もするが、荒っぽい連中の相手をすることも考えるのなら、当然の配置なのかもしれない。


「いらっしゃいませ~。ギルド北門支部へようこそ!本日はどのような御用件でしょうか?」


中に入ってすぐ、案内役らしき女性が私達に気付き挨拶してきた。


「ギルドへの登録を希望します。」


「畏まりました~!では、こちらにお名前を記入して少々お待ちください。」


フランさんが代表して答えると、案内役の女性に私達にカードのようなものを渡されたので言われた通りに名前を書き込んだ。

彼女が戻ってくるのを待つ間にギルドの中を見回してみると、当然ではあるが受付カウンターはプレイヤー達でいっぱいだった。

今からあそこに混ざると考えると憂鬱だが、ゲームを進めるには我慢するしかない。


「お待たせしました。こちらの部屋へお願いします。」


私達が呼ばれたのは意外にもカウンターではなくギルド内のとある一室だった。

どういう事なのか疑問に思いつつ部屋に入った私達は、さらなる予想外の光景を目にすることになった。


「これは……教会?」


教会の定義については良く知らないが、オペラグラスの光を浴びながら女神像が祭壇に鎮座する様は、素人目に見ても教会に見えた。


「皆様、ようこそいらっしゃいました。」


「し、シスターだ!」


同行する男性プレイヤーの誰かが言った通り、部屋の中には白い修道服に身を包んだ、いかにもシスターといった感じの女性が待っていたのだ。


「……何が行われるんですか?」


あまりにも突拍子の無い展開に私なんかは唖然として言葉が出ない状態になってしまったのだが、流石はフランさん。いち早く復活し誰もが思った疑問をシスターに聞いてください。


「真実を照らし出す光の女神であらせられるレイラアイズ=リヒトゥーラ=シャインヴァイセ様の御力を借りて、貴方達がギルドに登録しても問題無い人物なのかを判定させていただきます。」


まさかこんな所で女神様が絡んでくるとは思わなかった。

名前が長いのも気にはなるが、それ以上に女神の力を借りるとはいうのがどういう事なのかが気になった。もしかしたらコレも魔法の一種なのだろうか?


「それでは、御一人づつ先程のカードを持ってこちらにお願いします。」


「はい!じゃあ、私からお願いします!」


イツキ以外に他に1番手を名乗り出る人も居なかったので、そのままイツキが最初に女神様の判定とやらを受ける事になった。

シスターはやって来たイツキの手を両手でそっと包むと、目を閉じて呪文…この場合は祝詞だろうか?とにかく、シスターはうたうように言葉をつむぎ始める。


「偉大なる光の主よ、敬虔なる信徒の声と古き約束のもとに、相応しき者に女神の御加護をお与えください!」


直後、シスターの言葉に応えるように、重なりあうイツキとシスターの掌の中から、柔らかな光が溢れだした。


『ギルドカード(仮)の取得に成功しました。ギルドカード(仮)の機能を開放します。』


女神通信-初級

女神の奇跡により登録した離れた相手との通話が可能。戦闘中及び圏外では使用不可能。最大登録数5人。


虚空の器

入手したアイテムを専用の亜空間に収納可能。戦闘中は使用不可。総重量10kgまで。


浄化の奇跡

ギルドカード(仮)を対象にかざすことで発動。撃破した魔物等を女神の力で浄化する。撃破した功績に応じた報酬が虚空の器へ送られる。器に収まらない場合はその場に出現する。



判定とやらはどうやら一瞬で済むらしい。

少し拍子抜けしたが、ようやくゲームとしての最低限の機能を使うことが出来るようになったようだ。

私達もイツキのすぐ後に続いたのだが、今回は私だけ失敗という落ち等もなく、全員が問題無くギルドカードを取得できた。いくつか問題を起こしてそうな赤髪と金髪も取得できたのを考えると、このイベントに失敗は無いのかもしれない。



「ちーちゃん、登録させて!」


私がギルドカードを取得したのを見たイツキが早速やって来たので、一緒に来たアニキと二人まとめて登録する。これで残りの枠は3つ。初級ということだからランクアップすれば枠は広がるのだろうが、いくらなんでも流石に少なすぎる。


「チバ君、登録お願いして良いですか?」


残りの枠をどうすべきか考えていると、フランさんの方から登録を誘って貰えた。

彼女は確実に登録しておいた方が良いとは思っていたので、迷わずに登録する。これで残りのはたった2つになってしまった。


「フランさん、私も登録するよ!」


「いえ、結構です。」


イツキの言葉は、私が止めるよりも早くフランさんに即答で否定された。

フランさんが結構キツイ感じで否定してしまったので、イツキはショックを受けてしまったようだ。


「落ち着けイツキ。ただでさえ枠が少ないのにセットで行動してる私ら全員を登録してたら枠が無駄になるだろ?」


「え~、でもコレってフレンドリストみたいなものでしょ?だったら仲良しな人で埋めたいよ!」


一応フォローに回ったのだけど、イツキもこちらの考え自体は解ってはいるらしい。だが、頭は良いのに感情や衝動を優先する、いつもの癖が出てしまっているようだ。


「お気持ちは嬉しいのですが、今後通信の枠がどうなっていくのか解らないので、今は連絡網の作成を優先させてください。枠に余裕が出来れば後日こちらからお願いしますので。」


「むぅ、仕方ないな~。じゃあ他の子を登録してくる!」


フランさんが弁明する事で渋々ではあるがイツキも納得したようだ。交流があったプレイヤーの所に向かうイツキに続き、フランさんも連絡網の作成の為に他のプレイヤーの方へと行ってしまう。


「姐さんはぁ、他のプレイヤーの所に行かないんですか行かないんですかい?」


「姐さんはやめろ!私は一応今後の為に空けておくつもりだ。特に仲良くなったプレイヤーも居ないしな…。」


何故かこちらにやってきた赤髪の質問に正直に答えただけなのだが、自分で言っていてちょっと悲しい。

私もイツキと似たような行動をしていたはずなのだが、私に場合はイツキのように特定のプレイヤーと仲良くなるような事もなかった。まぁ、確かにコミュ力は然程高い方でもないので、当然の結果ではあるのだけど。


「良かったらぁ、連絡先を登録させて貰って良いですかい?姐さん達にはぁ、色々世話になりやしたんで…」


赤髪の視線が一瞬イツキの方に飛んだ気がするが、この申し出自体は悪くないかもしれない。練習を見る限り赤髪は中々に戦闘力が高いようではあるし、意外に義理堅い性格でもあるようだから多少は信頼してもいいかもしれない。


「そうだな、何かあった時に手を貸してくれるなら良いぞ…」


「腕っぷしが必要ならいつでも言ってくだせぇ!だったら早速登録を…」



その時、登録をしようとする赤髪の肩を誰かが掴んだ。


「登録は俺としておこうか?男同士の方が気安いだろうしな!」


「ヒィッ!?クロガネのダンナ!?」


別に私が登録しても構わなかったのだが、残念ながら赤髪はアニキに捕まってしまった。少し青い顔でアニキと連絡先の登録をする赤髪の姿になんだか申し訳ない気持ちになってくる。

私達にはこの鋼鉄のセキュリティがついているから実は結構ガードが堅い。別に私達がガードを望んだ訳ではないけど。


「はいは~い!皆さん女神様の審判は無事に達成できましたね?ではでは、次は本登録について説明したいと思います!」


私達が入手したギルドカードについて色々話していると、先程の案内役のお姉さんが戻ってきて手を叩きながら私達に声をかけてきた。仮登録に続き、早速本登録のイベントが始まるようだ。


「まず初めに言っておきますが、本登録の条件は仮登録のように簡単ではありません!私達も生きる為にギルドの運営をしているのです。女神様のような寛大な対応という訳にはいかないのです!」



『フェイトクエスト《名も無き者の存在証明》が開始されました。』


案内役の力強い言葉に同調するように、私達の頭の中に明らかに今までとは毛色が違うアナウンスが流された。

どうやら文字通り、本番はここからのようだ。




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