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セージさんにもある程度魔法についての説明は聞いていた。


このアナザーワールドフロンティアにおける魔法は精霊の力を借りたり、魔方陣を使ったりと、様々な種類があるそうだ。

その中でも初歩中の初歩であり、基本中の基本となるのが《自律魔法》と呼ばれものらしい。

自律魔法は自分が持つ魔力だけで発動させる魔法であり、他の応用魔法に比べると多少効率や燃費は悪いそうなのだが、発動が早く複雑な手順や道具を必要としない為、魔法職は勿論、戦士職でも有効であり、このゲームでは必須技術の一つなのだそうだ。

自律魔法の発動にもっとも大切な事は何よりもまずイメージ。しっかりとイメージを重ねながら魔力を放出し制御するだけで、自律魔法は比較的簡単に発動するらしい。



簡単なのは良いことだ。早く修得できるだけでなく、窮地にたたされた時等にもきっと役立つ事は多いはずだ。


だが、概要まで聞いたのは良かったのだが、私達は時間が無かったせいで、肝心の魔力の扱い方の方までは聞けていなかったのだ。


「チバ君の事なのでもう少し渋ると思ったのですが、意外にもアッサリ了解してくれましたね。」


魔法の使い方を教えてもらうことにした私達に、フランさんは妙にニコニコしながらそう言ってきた。

ちなみに私達の他にも魔法を学びたいプレイヤー達も一緒にフランさんを囲んでいる。

魔法の指導を受ける人達の武器を、先に武器を練習したい人達にに貸し出し、向こうではアニキの監督のもとに色々武器を試してみるようだ。

私も一応鞭を預けている。


「まぁ、何が起こるか解らない以上、戦力の強化は早めにしておいた方が良いしな。」


なんとなくフランさんの顔を見れず、少し顔を背けるようにしながら私はそう返した。


「ちーちゃんが凄く魔法を覚えたくて仕方ないみたいなのでお願いします!」


「べ、べつにそこまでじゃないし!」


直後にニコニコしながらイツキが放った言葉を、私は少し慌てて否定する。

何を言い出すんだろうかこの天然娘は、そんな私がまるで目を輝かせる子供みたいになってるような言い方は止めて欲しい。


アナザーワールドフロンティアの魔法は、ただ唱えたりコマンドを選択するだけで発動する他のゲームとは違い、イメージや一定の法則のもとに魔力を制御することで発動するそうだ。


多少面倒そうではあるが、確かにファンタジー小説等も好む私からすれば、何の脈絡も無くオートマチックに発動するよりはずっと好ましい。


魔法とはファンタジーを題材にした物語にとっての要だ。

魔法使いや魔法そのもの、あるいは魔法によって生み出された物は、その力で物語の世界や登場人物に、様々な影響を与えていく。

魔法とはファンタジーそのものと言っても過言では無いのだ。


だから、まぁ、確かに思い入れはあるし、期待をしているのは否定できない。


「それでは早速説明を始めましょう。まずは魔力を認識する事からですね。」


フランさん、ニコニコしながら私を見るのはやめてください。


「魔力って特殊能力が無いと見れないんじゃないの?」


フランさんの言葉に早速イツキが質問する。見るだけが認識ではないが、確かに魔力を感知するには専用の能力が必要と聞いた気がする。


「正しくは、自分以外の様々な魔力を正確に感知するには必要という事のようですね。流石に自分自身の魔力はそれなりの精度で把握できるそうです。」


フランさんはそう言うが、魔見眼を持ってるはずの私でも魔力の感知なんてしたことが無い。ただ能力を持ってるだけじゃ駄目なのだろうか?


「ですが、本来魔力が現実に存在しない以上、このゲーム内での魔力に関わる感覚は外付けの拡張パーツのようなものです。なので、本来はまず体に慣れなければ魔力は感知も使用も出来ません。」


フランさんの説明が続く中、私はひとつ納得した。

セージさんが武器の指導に集中していたのは、ゲーム開始直後では魔力の感知が出来ないからだったのだろう。


「ですが、外部から魔力を流し込むことで魔力の操作を司る器官が刺激され、通常より遥かに早く魔力感知が出来るようになります。さて、どなたか試してみたい方はいらっしゃいませんか?」


説明の内容にフランさんを囲む人達がどよめく。

話だけ聞くと、どうにも力業で無理矢理何とかしようとしている感じで少し怖い。

誰かが一発試してみれば話は早いのだが、なかなか誰も名乗り出ようとはしない。

私は自分のすぐ横へ視線を向けた。

こういう時、いつもならイツキが真っ先に名乗り出るはずなのだが、そのイツキがどういうわけか隣にいる私をニコニコしながら見つめている。

そして、不思議に思いながら正面に視線を戻すと、どういうわけか今度はフランさんと目が合ってしまった。


この時点ですぐに逃げておけば良かったのだが、色々魔法について考えていた私は、すぐにはこの状況の意味に気付けなかった。


気付けば、周りにいるプレイヤー全員の視線が私に集中している。


「はい、それではまずチバ君からお願いします。」


まるで教師が生徒を指名するようなノリでフランさんがニッコリ笑いながら私を呼ぶ。

ちょっと待てと叫びたいところではあるが、気付くのが遅すぎた。しかも、私の手をイツキがしっかりと握ってきて逃げることも出来そうにない。


「………お手柔らかにお願いします。」


諦めて大人しく状況に身を任せる事にした私は、フランさんに促される通りに彼女の前に立つ。一応お願いはしてみたが、フランさんの笑顔を見る限り、手加減とかはしてくれそうにない。


「チバ君、そんな絶望感溢れた表情で見ないでください。興奮してしまうじゃないですか。」


「……………。」


よし、逃げよう!


「ちょっと!無言で逃げようとしないでください!冗談ですから、別に痛みや苦痛は無いはずなので安心してください。」


全力で逃げようとしたのだが、フランさんに見事に捕まってしまった。どうやら魔呪族はエルフより非力らしく、フランさんを全然振りほどけなかった。


「フランさんが言うと冗談に聞こえないんですよ…。」


「失礼な、私だって冗談くらい言います」


フランさんはそういうが、彼女は実際に昔から結構な無理難題を吹っ掛けて来る人なのだ。絶対にドSだと思う。


「それでは始めます。楽にして両目を閉じていて下さいね?」


フランさんと両手を繋ぎ、私は言われた通りに両目を閉じた。


「いきますよ?」


フランさんが小さくそう言った直後、繋いだ両手に何とも言えない変な感覚が走り始める。


「その感覚は私の魔力に貴女の魔力が反発して起きています。そのまま集中して魔力の流れを感じてください。」


思わず顔をしかめる私に、さらにフランさんが指示を出す。

確かに、言われてみるとゾクゾクするような変な感覚の源は全身を流動し巡っているような気がしてくる。

さらに意識を集中して感じ取ってみると、大きな流れが小さな流れに邪魔されているような感覚がある……おそらく、大きな流れが私自身の魔力であり、小さな流れはフランさんが外部から流し込んできている魔力なのだろう。

というか、今になって気付いたが、この変な感じには覚えがある。

イツキが私の角に触った時に感じた違和感は、どうやら角に流れる魔力にイツキが知らずに干渉して起きたのかもしれない。


「おや?その表情、どうやらちゃんと知覚できたようですね?」


私が両目を開くと、フランさんは私に流していた魔力を止めた。

外部からの干渉がなくなり変な違和感は消えたが、少し意識を向けてみると私の中に何かが流れているのを確かに感じる事が出来た。


「たぶん…魔力の流れは把握出来たと思います。」


たぶんとは言ったが、私に魔力知覚能力が目覚めたのは確実だろう。自分の中に血流とともに魔力が流れていいるのは、すでに当たり前のような感覚がある。



「素晴らしいですね。流石は魔呪族と言うことでしょうか?私や一緒にチュートリアルを受けたプレイヤーは、何度か試して覚えたのですが……優秀な生徒で先生は嬉しいです。」


「いや、そういうの良いんで次行きましょう。」


わざわざ泣き真似までするフランさんを私は急かした。

せっかく魔力に目覚めたのだ。多少子供っぽいかもしれないが、早く試してみたいと思うのは当然だろう。


「やれやれ、チバ君には感動を噛み締めると言う感情は無いんですか?ですが、まぁ、良いでしょう…後は説明出来ることはほとんどありません、強いイメージで魔力を操作し、集めて…放つ!」


やはり子供染みていたのか、フランさんは呆れたようではあったが、今度は私達に御手本を見せてくれた。

フランさんは掌に淡い緑色の光の球を作り出すと、それを無造作に地面に投げるように放ち地面を穿って見せた。


その光景にプレイヤー達に混じって私も歓声を上げてしまう。


「これが主に魔力弾などと呼ばれている、初歩の初歩の攻撃魔法ですね。このように、魔力はある程度収束されると視覚可能になり、物理的な力も発生します。素手では然程収束も出来ないようですし、全力で撃っても思いっきり殴ったのと大して変わらない威力しか出ませんが、無いよりはマシでしょう?」


フランさんは口ではつまらないモノのように言って見せたが、その表情は完全にドヤ顔だった。

だが、私もプレイヤー達も初めて見る魔法に興奮してそんな事は気にならない。


「では、チバ君はしばらく自主練習をしていてください。それでは、次の方はいらっしゃいませんか?」


フランさんの問いかけに、今度は周りを囲むプレイヤーの誰もが手を上げる。

成功例を目の前で見たせいか、プレイヤー達の勢いが凄い。


「チバ君、早く覚えて手伝ってくださいね?」


少しひきつった笑顔を浮かべるフランさんに、私は大きく頷いた。

念願の魔法の練習なのだ、普段はクールな私も、今回ばかりは流石に胸が熱くなると言うものだ。

ちーちゃんが魔呪族になれたのは、彼女の魔法に対する憧れや考え方の影響が大きいです。

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