09
思ったよりも遅くなってしまったので、とりあえずあげときます。
誤字脱字あったらすみません。
公式サイトの情報といっても、書かれていたことはそう多くは無い。
チュートリアルを受けるには事前申請が必要なこと。
ゲームの開始地点は街の東西南北の門にある広場から始まり、ランダムで振り分けられること。
初期の時点ではいわゆるフレンド通信のような機能は使えないこと。
ギルドに登録するとギルドカードが取得でき、一部機能が解放される事。
明らかに最初にプレイヤーに教えておくべき情報なのだが、公式サイトの中でも解りづらい所に記載されていた。私はこまめに確認していたから気付くことが出来たが、流し読みした程度では気付くのは難しいだろう。
この時点で運営の頭がどうかしてると思うのだが、プレイヤー達の情報を纏めてみると、現在の状況も何かがおかしい。
「えっと…つまり、誰も先行組のプレイヤーを見ていないんだな?」
情報交換会に参加したプレイヤーは20人程。中には色々見て回ったプレイヤーもいるようだが、それでも誰も先輩プレイヤーに会っていないという。
「そのようですね。仮に正式リリースに合わせてキャラを作り直したとしても、それならもっと具体的な情報が広がっているはずです。」
私の問いかけに答えてくれたのは長身のエルフの女性だった。あの後、情報交換会についてイツキに丸投げされてどうなるのかと思ったが、彼女が率先して動いてくれたおかげで何とか問題無く情報交換を行うことが出来た。
名前はフランシーヌさんと言うらしく、私達と同じくキチンと情報を確認をしチュートリアルも受けたが、さらなる情報収集のために情報交換会に参加したそうだ。
「ここまで徹底的に新規プレイヤーを情報から隔離するなんて、確実に何か意図があるんだろうけど……」
「そうですね、それに街の外だと言うわりに施設が充実し過ぎている事も気になります。教会に鍛冶屋に薬屋、それに宿屋まであると言うことは、それ等が必要になる何かをさせるつもりなんでしょう。」
フランシーヌさんも私も曖昧な表現はしたが、大方の検討は付いている。恐らくは何らかのクエストがあるのだろう。
あるいはこの奇妙な状況を考えると、すでに始まっている可能性も十分にある。
「状況をハッキリさせるためにも、早くギルドに行くべきでしょう」
フランシーヌさんの言葉に私も頷く、こんな所でいつまでも足を止めている場合じゃ無い。
「オラァァァァァァッ!!」
場合じゃ無いんだけど……。
「軸がぶれてるぞ!もっと真っ直ぐに降り下ろせ!」
戦闘チュートリアルの事を話したのが悪かったのだろうか?気付けば情報交換会は、武器技能修得会へと変貌してしまっていた。
情報交換会を行う為、人目を避け街を少し離れたのだが、そこにチュートリアルでサンドバックのように使っていた、謎の塊がいくつも浮遊していたのも要因の一つだろう。
「あ!何か《二刀流》って技能覚えちゃった!」
楽しげにそう言ったのはイツキ。周囲に居た人達がざわついているが、それも当然だろう。イツキが両手に持っているのは二本の刀では無く、二本の槍だったのだから。
二本の刀で二刀流を修得したのなら解るが、二本の槍で修得出来たと言う事は、アナザーワールドフロンティアで《二刀流》は二本の刀を使う技能ではなく、両手で二つの武器を扱う技能という扱いなんだろう。
そして、技能を修得したという事は、イツキは二本の槍をしっかり効率的に扱いきれているという事だ。
「じゃ、今の私みたいな感じでグッと持ってキュッと構えてズシャーッてやれば良いと思うよ?」
本人の技量は申し分無い。だが、イツキよ……自分で武器技能の指導役かって出たくせに説明下手すぎるだろう。
イツキに槍を渡された少女は完全に困惑しているようだ。
説明が下手なのは元々ではあるが、御手本でどうして急に二本とか使ってしまうのだろうか……。面白そうだからとかそんな理由だとは思うが、いくらなんでも自由過ぎる。
「ヒャッハー!棍棒技能修得出来たぜぇぇっ!!」
一方、アニキは赤髪の指導をしていたようだが、こちらは無事に技能を修得したようだ。
それは問題ない。今後の展開次第では協力を頼む可能性もある以上、むしろ喜ばしいことだ。
「よし、次ッ!かかってこい!」
だがアニキよ……的代わりがあるというのに、何故わざわざ自分で攻撃を受けているんだ。
盾で受け止めているとはいえ、怖くないんだろうか?
「あの二人は相変わらずのようですね。」
私が死んだ目で兄妹の様子を見ていると、フランシーヌさんが不意にそんな事を呟いた。
私達と同じく、グローリーファンタジーの経験者ならあの二人の事は知っていてもおかしくはない。だから、私が驚いたのは次に彼女が発した言葉だった。
「貴女は今回も商人プレイですか?」
何故私の以前のプレイスタイルを知っているのだろう?
兄妹はともかく、私は基本的に街に引きこもり、目立つような動きはほとんどしないプレイヤーだった。
確かに比較的古株な方ではあったが、それでも私を知っているのは繋がりのある極一部の人達だけだったはずだ。
しかも、今の私はグローリーファンタジー時代とは違い、リアルの性別と同じ女の姿だ。
私が女である事を知ってるのは、交流があるプレイヤーの中でも特に親しい人達だけのはずなのだ。
「フランシーヌさん、何で私の事を……。」
思わず問い返してしまった私に、フランシーヌさんはやれやれといった様子で有りもしないはずの眼鏡の位置を直す動作をとる。
「チバ君、私の事はフランと呼んでくださいと以前言いましたよね?」
私の知り合いにこんな長身でモデル体型の女性プレイヤーなんて居なかったはずだ。だが、彼女の動きと言い回しに強い既視感を感じた私は、ようやく知り合いの一人に思い当たった。
「まさか、フランツさんなのか?アンタ女の人だったのかよ!」
「ようやく気付いてくれましたか、私はすぐに貴女の事に気付いたというのに……哀しいです。」
この仰々しい敬語口調は間違いない。
確かにそこそこ仲良くしてもらっていたプレイヤーの一人だが、フランツさんはグローリーファンタジー時代は眼鏡をかけたダンディな老紳士の姿だった。大手ギルドのギルマスも努め、信頼できる人だったから確かに女であることは明かしていたが、まさか向こうも女性だったとは思わなかった。
「そもそも、私は自分が男だと言ったことは一度もないんですが……以外と気付かれない物ですね。」
私の場合は結構ボロが出てリアル性別がバレる事もあったのだが、この人の場合は誰の気づいてないんじゃないだろうか?
「ちーちゃん、フランさん。相談は終わったの?」
私達の話し声が聞こえたのか、教官役に飽きたらしいイツキがこちらへと歩いてきた。
「一応な、そろそろ移動したいんだがそっちの状況はどうだ?」
「えっと…技能を修得出来たのは全体の三割くらいかな?意外と修得は難しいみたい。」
イツキは結果に不服そうだが、私からすればむしろ思ったよりも多いくらいの結果だった。
「もしかしたら武器が合ってないのかもしれませんね、皆で交換して使って見るのはどうでしょうか?」
「え?確かに良さそうな案ではあるけど、かなり時間の浪費になっちゃうんじゃないか?」
フランさんの言う事はもっともだ。チュートリアルをしていないプレイヤー達は試す機会もなく、各々が勘や好みを選んだ武器を持たされていた。皆がイツキやアニキのように、最初から自分にあった武器を選べるわけでは無い。
チュートリアルの時と違い色々な武器が用意されていない以上、人数がいるうちに交換して色々試してみるのは妙案ではある。
「皆さんの様子を見る限り、武器技能の修得は鬼門になるかもしれせん。機会があるうちに試しておくべきです。」
確かに一理ある。確かに一理あるけど…。
私はチラリとイツキの様子を確認してみる。
「むぅ…それって時間かかりそうじゃない?」
やはり不満げだった。正直、既に全員技能を修得している私達には旨味が少ないのだ。
フランさんには悪いが断った方が良い気がする。
「フランさん、申し訳ないですけど今回は……」
「ふむ、それは困りましたね。出来れば貴方達には一緒に行動して欲しいのですが…。」
私達の申し出に困ったように考え込むフランさん。
確かに、この手のゲームで気心の知れた相手というのは貴重な存在だ。フレンド通信のような機能が使えないのが本当に困る。
だが、イツキにとっては待ち続けた念願の時なのだ。なるべく好きにプレイさせてやりたい。
「そうですね、ひとつ提案させて貰って良いですか?」
フランさんが何か思い付いたらしく、指を立てながらこちらを見る。何やら私達を引き止めるつもりのようだが、悪いけどこれ以上足止めを食らう訳には行かない。
「私がチュートリアルで教わった魔法の使い方を教える…そういうことならどうでしょうか?」
おっと?これは思いのほか魅力的な提案をされてしまったぞ?




