表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

エピローグ的なプロローグ

巨大なドラゴンはこちらの存在に気付くと、大口を開け灼熱のブレスを放ってきた。


「皆下がれッ…《ドラゴニックスケイル》!!」


咄嗟に仲間の鎧騎士が飛び出し、眩い光を纏いながら灼熱のブレスへ突貫する。

直後、周囲を埋め尽くす閃光と轟音。

彼が庇ってくれたお陰で俺や他の仲間にダメージは無い。

だが、ブレスの影響で周囲は炎の海と化してしまった。

このままでは炎の海によるフィールドダメージでジリジリと体力を削られてしまうだろう。


「精霊魔法…《ウンディーネの抱擁》!」


すぐさま聞きなれない魔法を唱える仲間の賢者。

そして、浮かび上がった魔方陣から現れた半透明な美少女精霊がその身を青いヴェールへと変え、俺達を包み地形ダメージを無効化してくれた。

だが、俺は間髪いれずに賢者に怒鳴る。


「何やってんだバカ野郎!先に前衛の回復しろやッ!!」


確かに必要な処置ではある。

だが、現状では壁役の回復が最優先だ。

実際、ドラゴンの攻撃を一人で受け止めた壁役の体力はすでに半分以下…完全防御特化型の彼が最高位防御スキルを使ったのに酷いダメージ量だ。

自分はもちろん、他のメンバーでも攻撃を受けた瞬間即死するかもしれない。


「何で補助魔法を先に唱えたんだよ?」


「ウンディーネたんを見たかったッ!!反省はしてるけど後悔はしてない!!」


俺の問いかけに無駄にキリッとした表情で答える賢者。


「バカ野郎!後で説教するから覚悟しとけ!」


改めてもう一度怒鳴りつつ、俺は腰につけたアイテムポーチから希少な完全回復薬であるエリクサーを探した。

今回の戦いは特別だから確かに使う予定ではあったのだが、まさか真っ先に使うことになるとは…もったいない!

だが、そんな事を思っている間にもドラゴンはブレスの反動による硬直から復帰し、容赦無く第二射を放とうと大きく息を吸い込んだ。

今の状況でブレスを放たれれば全滅は確実だろう。

だが、もう焦るような状況は終わっている。

何故なら、俺の目には身の丈を超える大槍を振り上げ、躊躇い無くドラゴンに飛び掛かる少女の姿が既に見えていた。


「《武神千本突き》!!」


彼女が放ったのは発動の早さと使い勝手の良さに定評がある槍の上位技。

本来ならこのドラゴン相手には決定力に欠ける技なのだが、彼女の放つ無数の突きは見事ドラゴンを怯ませ、ブレスのキャンセルに成功していた。

最高の防御力を持つ鎧騎士と最強の攻撃力を持つ槍使い。

一部で矛盾兄妹などとも呼ばれている頼れる我等の仲間は、その力と役割を存分に発揮していた。

賢者?あんな奴は知らん。


「今だよダーリン!作戦通りよろしくッ!!」


次々と強烈な刺突をドラゴンに放ちながらこちらに無邪気な笑顔を向けてくる妹の方。

色々と突っ込みたい所はあるが、取り敢えず苦笑いを返しつつ、俺は仲間たちに続いて己の役目を全うすべく行動する。


「スキル…《大盤振る舞い》」


このスキルは名前はダサいが一度に3つのアイテムを連続発動する強力なスキルだ。

スキルを使うタイミングは遅くなってしまったが、この辺りは慣れていないって事で勘弁して欲しいところだ。

まずはエリクサーを鎧の兄貴の方に使用し、続けて兄妹を対象に次のアイテムを発動する。


「一回目の《神酒》行くぞ!まずはここから戦況をひっくり返す。」


発動と同時に眩い光に包まれる兄と妹。

《神酒》は全てのパラメーターを劇的に上昇させる強化アイテムだ。

その性能は凄まじく、一時的にではあるが、使用前の倍以上の戦闘能力を発揮出来る。

ただし有効時間が短く、何より高難度ダンジョンの深層の超低確率ドロップでしか入手出来ない、エリクサー以上の希少アイテムだ。

無論、本来はこんな風に戦闘序盤でホイホイ使うアイテムではない。

今回の戦いが特別なのだ。


「《ヒロイックオーラ》、《イージスプレッシャー》!!」


「《武神憑依》、《乾坤一擲の型》!!」


《神酒》の効果を最大限に活かすため、それぞれ最高位の技を使う兄妹。

兄が押さえつけ、妹が凶悪な一撃を叩き込むいつものパターンだ。


「アレ?僕の分の《神酒》は?」


兄妹が攻勢に移るなか、間抜け面でこちらを見るバカ野郎(賢者)。


「そんな余裕あるか!次のタイミングでパーティに余力があれば使ってやるからさっさと働けッ!!」


「次って…どんだけ《神酒》を持ってきたのさ?」



もう一度《大盤振る舞い》の準備をしつつそう返す俺に、賢者の野郎が問いかけて来た。


「コネとか資金を使えるだけ使って集めた。他の仕入れの都合もあったし…イレギュラーとか考えると少し心許ないが、50個は何とか集めた。」


「ごじゅっ!?…マジで?やりすぎじゃない?」


俺の言葉に驚き、珍しくひきつった笑みを俺に向ける賢者。

確かに普通の尺度で考えるとやり過ぎだが、今回の挑戦は内容が普通じゃない。

なら、やり過ぎるくらいでちょうどいいはずだ。

当然、ハードな挑戦である以上戦力を遊ばせておく余裕はない。


「これくらいで良いんだよ!そもそも俺は商人だぞ?戦うとか無茶だろッ!?」


そう、俺は商人である。

《大盤振る舞い》という強力なスキルはあるが、本来は緊急措置的な用途のスキルであり、決して戦場に出るような職業ではない。

戦闘面におけるステータスの低さは尋常じゃなく、賢者のケツを全力で蹴り飛ばして戦場に送り込んでも、まるでダメージを与えられないほどだ。

だからこそ、普通は商人が好き好んで自分から戦場に出るような事はしない…。

だが、今なら我々のような無茶をしている連中が他にも居るかもしれない。

現在こうしてプレイしているVRMMORPG…《グローリーファンタジー》が来年度でのサービス終了を発表した今なら。



「皆下がれ…《ドラゴニックスケイル》ッ!!」


さて、俺達が馬鹿やってようと物思いにふけっていようと戦況は止まらない。

再びブレスが来るが《神酒》の効果で先程よりも格段にダメージは抑えられいる。

今回は賢者もきちんと回復に回っているようだし、厄介なフィールドダメージもない…どうやら最初の賢者の魔法の効果が続いているらしい。

あの馬鹿野郎が結果的に良い仕事をしたようだ。(※奴が実は切れ者なんてオチは神に誓ってあり得ないと言っておこう)


「飛ばしていくよ~!《武神奥義・戦極無双突き》ッ!!」


ブレス後の隙を狙って最上級スキルを発動する妹の方。

光の奔流と化してドラゴンを貫いた一撃は、膨大なはずのドラゴンのHPバーを目に見えて削って見せた。


「流石攻撃力廃人!この調子ならイケんじゃない?」


さい先の良い戦果にテンションをあげる賢者。

僅か数パーセントとはいえ、本来は上級プレイヤーが20人集まって挑むようなレイドボス相手に、たった4人の攻撃が通用したという事実は大きい。



『そういや、パッケージモンスターなのにレッドドラゴンキングと戦ったことないわ。』


と言う俺の一言から始まったこの挑戦。


『私達ももうすぐ引退する予定だし、せっかくだから挑んじゃう?』


『いや、面白そうではあるけど…商人の俺はともかく最強クラスのお前らじゃ物足りないだろ、人数揃えるのも地味に面倒だし。』


『……なら、いつものメンバーだけで行ってみるか?』


『ちょっww兄貴wwそれ何て無理ゲー?www』


『なにそれ面白そう!』


そんな感じで話が拗れに拗れた結果、とんでもない難易度になってしまったわけだが、これならギリギリ何とかなりそうな気がする。


「お前達、気をゆるめてる場合じゃ無いだろ!まだまだ体力はあるし、厄介なパターンも残ってんだ!集中していかないと死ぬぞッ!!」


自分の中の浮かれる気持ちを押さえつけ、皆に叱咤の声をあげる。

実際の所負けても良い戦いではあるが、使った資金やアイテムの量を考えるともう一度挑戦する事は不可能だ。

正真正銘最後の挑戦なんだから、絶対に負けたくない。


「ヤバい!兄貴の回復が間に合わないっぽいッ!?」


どうやら先程の一撃でドラゴンがキレて攻撃力が上がったらしい。


「私が《大盤振る舞い》で回復する、今回もお前の分の《神酒》無しなッ!!」


「また俺だけッ!?」


「ダーリン、素が出ちゃってるよ?」


賢者の悲鳴を聞きながら声高らかにスキルを発動する俺…と言うのを忘れた私に、ニコニコ顔で告げる妹の方。


「う、うるさいな…私だって意外とテンション上がってるんだよ!」


男の姿で恥ずかしげにそう返す姿は、我ながら気持ち悪かったと思う。



結局、かなりの長期戦になりアイテムが枯渇してしまった私達は惜しいところで全滅してしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ