災難は2度起こる?
ただ今、お気に入りのソファを来客に取られて静かに怒っている圭くんを、藤嶋様がバルコニーに誘ってくれています。
バルコニーには2番目にお気に入りの籐の長椅子がありますからね。
藤嶋様、なんて良い人でしょう。
「あのね、あれは下心付きの親切なのよ。わかってるの、登紀ちゃん」
「はい? うちは、割引は一切しませんが」
「脈なしね…。」
まぁ、そんなことより、歳の差が開きすぎですからねぇ、うん千年くらい?
「それより、女性嫌いな久留米さまがどのような訳であの女性をつれて来られたんですか?」
「あー、ほんと、参ったわ〜。触るの嫌だから重量補正かけて、体重を10000分の1にしたんだけど、出来ることなら、質量補正でミニマムサイズにしたかったのよ。それなら、バッグの中に入れて持ってこれるでしょ〜。けど、あの子、圭と同じ体質だから、ドンドンあたしの力を吸収するのよ〜、あっという間に質量補正する力も喰われちゃったわ。圭がいてくれて良かったわ」
ああ、それでコピー用紙1枚ぐらいの軽さになった彼女が飛ばないように、頭を鷲掴みしてた訳ですか。
まぁ、圭くんは苦手な久留米様の手を握って力を分けたことで、かなり、ぐったりしてますけどね。
カラン
あら、と、久留米様と同時にドアを見ました。
うちは、普段、1日の客数は1か2です。
客単価の計算は、暗算でも出来る人数です。
今日は、やけにお客様が多いなと思いましたが。
「っ! 久留米様!」
「わかってるわ!」
久留米様が秒速で部屋中に防護壁をかけてくれるのと同時に、私はレジカウンター下のボタンを急いで押しました。
このボタンは、セ◯ムではなく、店の敷地内全てを外界から遮断する力があるのです。
侵入者はこれでもう外には出られないし、能力者の力がご近所様へ迷惑をかける心配もありません。
さらに、久留米様の防壁力で店内の被害は最小限で済ませられるはずです。
「お前らか! 梓を誘拐しやがったのは!!」
えー、成人前ぐらいですかね。
フードを深く被っているので、容姿はわかりませんが、恐らく、力の加減が出来てないので、今は瞳が赤くなってそうですね。
はぁ〜。
未登録者は私の管轄外なんですよ…。
(政府機関に仕事をしていない方々がいそうです。お仕置きが必要みたいですね)
「久留米様。さっきお連れになられた可愛い方は、もしかして、梓様と言います?」
因みに、その客人は、こんなに禍々しい力が溢れ返っているこの部屋の中央の(圭くんの)ソファで、未だ、熟睡されております。
「あら、よくわかったわね〜さすが、登紀ちゃん」
「褒めてもダメです。あれ程、飼い主に黙って連れてきてはダメだと言ったじゃないですか」
「あら、飼い主は梓ちゃんのほうよ」
「そうなんですか?」
「そうよ〜。だから超寝不足なのね。あたしが連れて来なかったら、共倒れよ」
「なるほど」
いつも、彼の力の暴走を吸収してたから、休まる暇がなかった、と。
彼女には、2〜3日の休息が必要みたいですね。
「何が、成る程だ! 梓は返してもらうぞ!」
「あら、駄犬が何か叫んでるわね〜」
「駄犬じゃねー‼」
いやいや、力のコントロールが出来てない時点で、駄犬ですから。
「店長、俺やる?」
圭くんが戻ってきました。
「いけそうですか?」
「大丈夫・・・お腹すいてるから」
「ああ、ですよね。なら、お願いしますね」
「わかった」
「な、なんだよお前、く、来るな! 近寄るなー!!」
ふむ。
圭くんが、無表情で近寄っているからということもありますが、力の暴走で圭くんを傷つけたくないみたいですね。
意思の疎通は大丈夫みたいなので、暴走ランクはⅢ、というところでしょうか。
因みに、ランクⅡは誰が来ても攻撃、ランクⅠは人の言語が理解できない、もはや動物レベルです。
「来るなーーー! っっ!」
圭くんが、強引に少年を抱き込みました。
「あら、素敵」
「久留米様、ただの、腹ペコが原因ですから」
「でも、お腹すいててもあたしには抱き着かないわよあの子」
そりゃ、逆に食べられそうですからね。
そこのところは、本能で、しっかりと理解をしているようです。
「・・・」
寝落ちまで、3秒でした。
「店長、これ、ポイする?」
力を食べたからって、バナナの皮じゃあるまいし、ポイはないと思います。
「いや、コレじゃないし、ポイもだめ。地下のゲストルームに運んであげてね。久留米様、申し訳ありませんが、ソファのお客様も一緒に運んでいただけますか」
ゲストルームは、常に余分な力が吸収されますから、安心です。
「了解。相変わらず、人使いが荒いわ~」
「厄災の元請けは、誰でしたでしょうか? そもそも、うちじゃなく、政府の更正機関に連れて行けば、よろしかったのでは?」
「いや、いや〜ね。もちろん、そのつもりだったわよ。ただ、寄り道しただけだったのよ、おほほほほー」
確信犯です。
更生機関には、久留米様の天敵さんがいらっしゃいますからね。
だったら、通報だけしたら良かったんでしょうが、恐らく、彼の暴走がもはや梓様には止められないレベルだったか、もしくは、梓様の容量レベルが限界値を超えたか、あるいは、その両方でしょう。
暴走していたら、梓様の命が危うかった上、彼の暴走がレベルⅠになっていたら、半径100km圏内の生命体の危機だったはずです。
まぁ、それでも更生機関には簡単に転移できるんですから、やはり、天敵さんに久留米様が会いたくなかっただけですね。
やっと、店内が落ち着きましたので、ただいま、レジカウンターを挟んで久留米様とまったりティータイム中です。
あ、藤嶋様はお仕事があるそうでお帰りになりました。
機転をきかせて圭くんを店内に入れて下さいましたので、お礼に、当店オリジナルのハンカチをお渡ししました。
これ、有事の際には、とても便利ななんです。クリーンな空気を作ってくれますから。
「久留米様、貸しが3つになりましたよ」
久留米様は、以前も、同じようなことを仕出かしてますからね。
「ふふ、了解。でもね、登紀ちゃん、」
「でも?」
「その貸し、直ぐに回収できる気がするわ〜」
がチャリと、また、玄関のドアノブの音がした。
「たのも〜〜」
今日は、自分はもう帰ってもバチは当たらない気がします。